■■■B.D (3) 「悟浄、そろそろ起きてください。寝るなら寝るでちゃんと…。」 「んー…?」 八戒は悟浄の肩に手を置くと、その身体をゆさゆさと揺さぶった。 そのせいと声をかけたせいで、少し眠りの世界へとはいっていた悟浄が僅かに反応する。 それにほっと一息ついて、八戒は自分用に入れていたコーヒーを口に含んだ。 コーヒーのいい香りが辺りを漂って、悟浄はゆったりと目を開けて…。 「あれ?あいつらは?」 「さっき帰りましたよ。」 「食うだけ食って、惚気るだけ惚気てさっさと帰りやがったのか。」 「あははは。悟浄も飲みます?」 「あ?ああ。頼む。」 八戒は立ち上がると、悟浄の分のコーヒーも淹れる為に一度キッチンへと戻った。 その八戒の背中に、悟浄は軽く笑った。 「聞いたかよ?あの猿、誕生日は『この世に生まれてきた日』なんだってよ。」 「そのとおりじゃないですか。」 「しかもそれは三蔵と初めて会った日なんだとよ。」 「そういえば『岩牢から出た日』って言ってましたねェ。」 こぽこぽこぽ。 真っ白いカップにコーヒーが注がれていく。 悟浄の分のコーヒーの用意ができると、八戒はソレを持って悟浄の元へと戻ってきた。 それを悟浄に手渡すと、悟浄は軽くさんきゅと口にしてソレを受け取る。 軽く香りをかいだ後、少しだけ口に含んだ悟浄に笑って、八戒はその向かい側に腰を下ろした。 「しーかーも。あの三蔵がその日を覚えてたってことだ。」 「あれはちょっと驚きましたね。」 「っつーか、人の誕生日に人んち来てまで惚気んな。って感じだよなァ。あの猿の蕩けそうな顔っていったらなかったな。」 悟浄は軽く笑いながらタバコを1本取り出して、火をつける。 口ではなんだかんだ言いながらも、まんざらそこまで嫌そうでもなかった。 八戒がテーブルの端にあった灰皿をすっと悟浄の前にもってくる、悟浄は軽く笑って御礼を言って。 そんな悟浄に、八戒は笑った。 「妬いてるんですか?」 「は?」 「僕はちょっと妬いてますよ。」 「何に?」 「さぁ?」 にっこりと笑う八戒。 この笑顔は曲者だ。 悟浄は少し困ったようにぼりぼりと頭を掻くと、たいして吸ってもいないタバコを灰皿に押し付けた。 「はっかーい。」 「なんですか?」 「今日は何でまた、突然俺の誕生日をいわおうなんて思ったわけ?」 とにかく話題を変えてみようと、さっさと違う話をふる。 気になっていたのも確かだ。 何で突然言い出したのか。 別にこの年になって祝ってもらいたいとか思っていなかったし、何より誕生日というものはあまりいい思い出がない。 生まれてきてはいけなかった存在。 それを祝ってくれる者などいなかったから。 「だってお誕生日ですよ。悟浄にちゃあんと言わないと。」 「おめでとうってか。」 そういえば八戒の誕生日はいつだったんだろうか。 先ほどの悟空からの会話からするに、終わってしまったのかもしれない。 ちょっと失敗したなと、コーヒーを口に含むと。 さきほどまでの読めなかった笑顔とは違う、少し柔らかめな笑顔。 八戒がチラリとソレを見せて、一瞬それに瞳が奪われた。 「ありがとう。ですよ。」 「は?」 「この世に生まれてきてくれて、ありがとうって。」 「………そりゃ…また、スケールのでけェ話だな…。」 「そうですか?でも、僕はあなたが生まれてきてくれてよかったって、思うんですよ。」 「八戒。」 悟浄はくくっと笑って、コーヒーの入ったカップをさっさと端に寄せて。 コーヒーカップを両手で掴んでいた八戒の手首を掴む。 少し骨ばった、堅い手首。 でも細くて、力を少し入れたら折れそうだった。 「お子様猿にはもう寝る時間でも、俺たちオトナにとってはこれからが本番だろ?」 「なんのことですか。」 冷たい言い方。 それでも目は優しい。 笑顔も優しい。 裏に含まれたものをよみとるには、それで十分だった。 「誕生日プレゼントは?」 「さっき腕によりをかけた料理を食べたじゃないですか。」 「食後のデザートは?」 「いっておきますけど、僕はデザートほどおまけでもないですよ。」 「メインディッシュ?」 「そうです。」 ああもう。 こんなばかげたヤリトリをしている場合じゃない。 掴んだ手首が段々と熱を帯びて。 それをそのまま引き寄せて。 ゆったりと瞳を伏せた八戒の唇に、自分のソレを重ねる。 「こんなに甘いのに?」 離れた瞬間唇を舐めたら、八戒はしょうがないですね。 と、少し舌ったらずな声でそう言った。 それがたまらない。 その声だけで、身体が反応する。 ああもう。 ホントにどうしようもない。 誰が誰に妬いてるって? こんなに囚われているのに。 「じゃあ、カップを置いてき―――。」 「待てねェって。」 二つのカップを掴んだ八戒の身体を後から抱きしめて。 そのまま白いシャツの下に手を滑り込ませると、八戒は少しだけ困ったように笑って―――。 カップをテーブルの上に戻した。 あとがき 初悟浄×八戒 ベタなネタですみません。 最初から最後まで展開がわかります…つうか悟浄といったらこれ!みたいな。 デザート(笑) アダルト二人の難しさといったらない… 浄八なのにほんのり三空 さてはて!次こそやっとこ三蔵様お誕生日ー!! の…は…ず。 ってかソレしか残っていない。 そういえば私浄八はプラトニック推奨だったのですけれど… これもラスト、猿に妬いてる八戒でオアズケにしようか悩んだのですが 悟浄さんが可哀相になったのでラブラブで終わらせました…。 2004/11/17 まこりん |