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■■■B.D 2 「悟空、お誕生日おめでとうございます!」 「おら、肉まん食え。八戒お手製だぞ?」 「おおっ♪すっげェ!うまそー!八戒、悟浄さんきゅーな!」 誰も取りませんよと笑いながら次々に食べ物をもってくる八戒。 もっとゆっくり食えと笑う悟浄。 ばくばくと口に頬って、もぐもぐと食べて。 いつものように笑って。 そして……いつものように。 「あ。コレめっちゃ美味い!食ってみろよ!さん――――。」 いつものように目の前にいる筈の人物にお皿を渡そうとして――――その人物がいないことを思い出して。 顔を上げてみても、そこにいつもの仏頂面はなくて。 空っぽの缶ビールも、身体によくないだろといいたいくらいに吸殻が山積みになった灰皿も無い。 いくら手当たり次第に頬張っても、ハリセンは飛んでこないし、もちろん銃弾だって飛んでこない。 怒鳴り声だって無い。 「三蔵もさーもったいねェよな!こんな美味い料理食えないなんてさ。」 渡すはずだったお皿はまた自分の前に戻ってきて。 食べかけだった残りを頬張りながら言えば、斜め前に座る八戒が苦笑した。 「仕事忙しいんですね。」 「知らね。最近ずっと仕事ばっかしててさ。今日だって朝ちょっとあっただけで、お祝いの言葉もねェの。自分から俺の誕生日教えてくれたくせに。」 「なぁにむくれてンだよ。あんなんでも一応三蔵様なんだし、しょうがねェだろ。」 「むくれてねェし。」 「ガキ。」 「エロがっぱ。」 「旦那の不在に――――。」 「悟浄も悟空も折角の料理が冷めちゃいますよ。」 「てかコレマジ美味いー。」 「ありがとうございます。」 八戒の料理は本当に美味しくて、いつもなら料理を奪い合う悟浄が何気にビールばかりを飲んでいて。 それがやっぱり嬉しくて、二人には申し訳ないと思った。 八戒が俺の誕生日を祝おうと誘ってくれたのが一週間前。 悟浄のときのように美味しいものが食べられるのかと、その申し出を受け入れようとして………でもやっぱりお断りしたのだ。 誕生日は三蔵と過ごしたかったから。 俺の誕生日は、俺がうまれた日。 三蔵と初めて会った、特別な日だ。 だから―――三蔵にとってはたいした日じゃなくても、俺にとっては本当に大切な大切な日で。 だからいちばん大切な人と、大切な日を過ごしたかったのだ。 だからすごく申し訳なかったけれども、八戒の申し出はお断りしたのだ。 三蔵と過ごすからと。 なのに当日三蔵は仕事に出掛けてしまった。 そう。寺院内でできる仕事ならまだしも、外に出て行ってしまったのだ。 すっかり当日は一緒にられると思っていたから、結構ショックだった。 ショックのあまり八戒と悟浄の家に駆け込んで、「俺のパーティーしてくれ!!」と………なんと我侭をだったことか…。 軽くため息をつく。 八戒のご飯は美味しくて、悟浄の何気ない優しさが嬉しくて。 心がほんわかと温かくなったのに、それでもやっぱり胸の奥が重たい。 別に何か特別なプレゼントが欲しかったわけじゃない。 『何が欲しいんだ?』 そんなことを聞いてもらいたかったわけじゃない。 4月5日が俺の誕生日だと教えてくれたのは、三蔵だ。 初めて三蔵と会って、初めて三蔵の手をとって、初めて三蔵の名前を知った日。 それが4月5日。 俺が生まれた特別な日。 この日は特別だから三蔵の誕生日と同じように、一緒にいられると思ってたのに。 朝起きて三蔵と一緒にご飯を食べていたら、三蔵は静かに言った。 『今日は仕事で出る。』 すごいショックで、すごい悲しくて。 だってこの日は絶対一緒にいられると思っていたから。 だって三蔵の誕生日には一緒にいられたのに、俺の誕生日には一緒にいられないなんてずるいじゃないか。 『帰りにプレゼントを買ってきてやる。何が欲しいんだ?』 普段の三蔵なら絶対に言わない言葉だ。 でもそんな言葉が欲しかったわけじゃない。 しかもそう三蔵が言うってことは、今回も仕事には一緒に行ってはいけないということだ。 しれが益々悲しくて。 『別に何もいらねェ!!』 そう叫ぶや否や、俺は八戒と悟浄の家に転がり込んだのだ。 「悟空。ケーキがあるんですけれど…。」 「お?ロウソクに火でも…。」 「………。」 胸の奥が、やっぱり重たい。 外を見ればもうすっかり日が暮れていて。 三蔵はもう帰ってきているのだろうか? それとも――――。 詳しくは聞いてこなかったからわからないけれど、今日はもう帰ってこないのかもしれない。 「悟空?」 「おい。猿。」 「あ…のさ…。」 うずうずした。 なんでかわからないけれど、うずうずして。 「ケーキ箱につめますから。帰って三蔵と一緒に食べてくださいね。」 「八戒?」 八戒の言葉に一瞬ぱちくりと瞳を瞬かせて。 うずうずする身体が、ピクリと動いた。 「一番欲しいのは、三蔵でしょう?」 笑う八戒と、痒い…と苦笑いする悟浄に涙が出そうになる。 「そうそ。はやくお子様は帰れ帰れ。」 「ガキじゃねェよ。」 「ガキだろ。」 「………。」 「我侭はガキの特権なんだから、こんな時くらいガキでいろって。」 苦笑する悟浄。 それに笑う八戒。 渡されたケーキの箱。 寺院に帰れば三蔵がいるかもしれない。 そしたら文句を言うのもいいかもしれない。 なんで朝言えなかったんだろうか。 今日は一緒にいたいと。 それが俺が三蔵に望むプレゼントだと。 なぜ何が欲しいかと聞かれたときにいえなかったのだろうか? 一番欲しい人の名前を。 2005/04 まこりん |