■■■B.D 2 寒かった冬が終わり、肌寒かった空気はほんのりと暖かく。 あんなに寒かった冬が嘘のように、春は暖かい。 そう。 あんなに冷たくて、暗かったあの岩牢の中。 三蔵の手をとったとき。 まぶしいまぶしい金色の糸。 深い深い、紫暗の瞳。 差し伸べられた手。 あたたかかったのを覚えている。 その時と一緒。 長かった冬は終わり、暖かな春がきて。 寒かった日々が終わり、暖かな日々が始まり。 寂しかった時が終わって、楽しくて幸せな毎日が始まったのだ。 あの三蔵の手をとったときから、俺のナカの冬は終わった。 防寒具なんて必要ないからもう着ていない。 寺院へと帰る道を、八戒に詰めてもらったケーキを両手で抱えながら走った。 甘い、甘い香りがして、きっとこの甘いケーキは三蔵の好みではない。 それでも一緒に食べたいと、ねだってみたってバチは当たらないはずだ。 だって今日は俺の誕生日。 特別な日だから。 はぁ。はぁ。と息を切らしながら走り続けて。 やっとみえてきた寺院の屋根。 転がり込むように戻って、三蔵の部屋へと続く廊下を走りぬけた。 「さんぞっ…。」 はぁ。はぁ。はぁ。 息切れしながら扉の前に立つ。 額に浮かんだ汗を、服の袖で拭ってこくりと唾を飲み込んで。 ひんやりと冷えたそのドアを、押し開けた。 「………さんぞ?」 しんっと静まり返る、真っ暗な部屋。 とたんに目頭に込み上げてくる熱いもの。 悔しくて唇をかみ締めても、視界は何故か潤み始めて。 ケーキを抱きしめる腕にチカラをこめた。 「俺が、何もいらねェって…いったから?」 声が掠れた。 喉の奥も燃えるように熱い。 寒かったあの日々を、ふっと思い出した瞬間体が震えた。 とたんに寒くなる。 さっきまで暑かったのに。 「…寒い。」 ぶるりと身体を震わせて、持っていたケーキを三蔵の机の上に置いた。 ぺたぺたと力なく歩いて、そのまま寝室の扉を開ける。 なんでかすごく寒くて、寒くて…。 目の前にある三蔵のベットに指を伸ばした。 指先に感じる冷たさに、益々視界は潤んで。 「さみぃ…三蔵…。」 ばさっと三蔵の布団を頭から被ると、そのままべっとにごろりと寝転ぶ。 冷たい布団の中、微かに鼻を掠めたのは三蔵の香りで。 その香りに包まれた瞬間、微かに暖かく感じた。 そして瞳を閉じる。 熱い熱い、目頭。 燃えるような喉の奥。 唇をかみ締めて。 泣きたい気持ちを必死に堪えた。 2005/04 まこりん |