■■■B.D 2 



「…空。」

耳に響く、低い声。

「おい。起きろ。」

低い低い、大好きな声。

「悟空。」

ゆっくりと目を開ければ、深い紫暗の瞳が俺を見下ろしていた。
そこで初めて、自分が寝ていたことに気がつく。

「三蔵?」

むくりと起き上がって、今だ眠い目を擦れば『擦るな』と三蔵が小さく怒った。
それに苦笑する。

「あー…おかえり。」

今だあまり頭ははっきりとしていなくって。
なんとか小さくそういうと、目の前の三蔵の頬に手を伸ばす。

「俺、三蔵は今日帰ってこないかと思った。」
「…なんでだ?」

少し不機嫌そうな三蔵の声。
指先で軽く触れた三蔵の頬が熱い。

「だって俺がプレゼントなんていらねェって言ったから。」
「関係ねェだろ。それと帰ってくるってのとは。だいたいお前俺は一言も帰ってこないなんて言ってない。」
「そうだったっけ。」
「あぁ。」

月明かりにだけ照らされた、暗い部屋の中。
小さく三蔵のため息が聞こえる。
そのため息の理由がいまいちよくわからなくて。

「そだ。三蔵。プレゼントは?」
「ねェよ。お前がいらないって言ったんだろうが。」
「ええー!?何それ!?ありえなくね!?」
「煩い。」

ブーブーと文句を言えば三蔵がまた一つ、小さくため息をした。
それに僅かにぴくりと肩が動く。
三蔵のため息は怖い。
呆れられたのかな。とか。怒ってるのかな。とか、そう思うから。

「おい。悟空。」

「え?」

突然低く名前を呼ばれて、一瞬胸がどきりとした。
ぱっと顔を上げれば、あの大好きな紫暗の瞳が俺の瞳を覗き込んでいて。
それに再びどきりと胸が大きく跳ねた。
三蔵のこの瞳には、いつも胸がどきりとする。
月明かりだけ。
暗い暗い、その部屋の中。
三蔵のベットの上。
低く呼ばれた俺の名前。

「何?」

「一度しか言わないからな。」

「何を?」

低い三蔵の声。
ぼけっとしてたら、ぐいっと胸倉を掴まれて。
そのまま引き寄せられる。

「ささささ、三蔵っ!?」

驚いて三蔵の肩に手を置いて。
近づいた三蔵の顔にびくっと反射的に瞳を閉じれば、頬を暖かなものがかすめてそのまま耳元で三蔵の息の熱さを感じた。





「          。」





そして静かに響く言葉。
一瞬頭の中が真っ白になって、身体が固まる。
息をすることさえ忘れて、ぱちくりと。瞳を瞬かせた。

「………。」

そんな俺を他所に、さっさと三蔵は耳元から唇を離して。
さっさと俺から目を離すと煙草を一本取り出した。
三蔵の長く綺麗な指が、ゆったりと口に煙草を運ぶのが見えてはっと我に返る。

とたんにぼろぼろと。

さっきは堪えることができていた涙が、一気に溢れ出た。

「………なぜ泣く?」

「わっかんねェ…。」

ぼろぼろ。ぼろぼろ。
涙が溢れて零れ落ちて。
後からつられたように、ひっくひっくと嗚咽が漏れて。
喉の奥も目頭も熱くなる。

自分でもワケがわからなかった。
何で涙が出るのか。

「てめェは俺にコレをいわれたら、幸せだったんじゃなかったのか?」

「うん。」

「嬉しいんじゃなかったのか?」

「うん。」

こくこくと頷くたびに、ぼろぼろと涙が零れてシーツにしみを作って。
ワケがわからなかった。
何で涙が出るのか自分でもワケがわからなくて。

「じゃあ…泣くな。」

そしてぐいっと。
三蔵の腕が俺の頭を抱え込んで、そのまま三蔵の胸に頭を引き寄せられる。
鼻を擽る三蔵の匂い。
嗅ぎ慣れた硝煙と煙草とお香の香り。
それにまざった汗のにおい。
包まれた頭が熱くて。

そこで気がついた。
さっき指先で触れた三蔵の頬の熱さ。
思えば先ほどから、少しだけ…三蔵の息が上がっていて。

もしかして三蔵は、走って帰ってきてくれたのだろうか?
寝ている俺を夜に起こすことなんて下ことの無い三蔵が、俺を起こしたのは――――――今の言葉を言ってくれるためだったのだろうか?

とたんに―――胸の奥が熱くなって、再び涙が溢れた。

「やっべェ…さんぞー…俺…。」
「なんだ?」

ぎゅっと三蔵の法衣を掴む手にチカラをこめて。
胸が熱い。
すっげェ熱い。

「三蔵が好きだ。」
「…そうか。」
「好きだ。」
「………。」

熱くて、熱くて。
溢れ出るこの思いを、どう言葉にすれば三蔵に伝えられるのだろうか?

「初めて会った時よりも、去年よりも…ううん。昨日よりも三蔵が好きだ。前から好きだったけど、もっともっと好きだ。おかしーって。だっていつも、コレ以上ないってくらい三蔵が好きだと思うのに、次の瞬間には前よりも好きだーって思うんだ。毎日三蔵が好きになる。」

「………。」

「でも、今日はなんていうか、益々って言うよりも…また三蔵が好きになった。」

「………。」

「こんなことあんだな。好きな人を、また好きになるなんて。」

「…ばか猿。」

そして三蔵がまた、ため息を一つ。
三蔵のため息は不安になる。
三蔵のため息は怖い。
呆れられたのかな。とか。怒ってるのかな。とか、そう思うから。
でもこういう時の三蔵のため息は、怖くない。

どころか笑い出しそうになる。

三蔵が反応に困ってるときだって、知ってるから。

「ばかでもなんでも、三蔵が好きだ。」
「あぁ。」

三蔵が俺の頭に回した腕にチカラをこめたのが伝わった。
顔を上げたくてもあげられなくて、三蔵がどんな顔をしているのか見えなかったけれども。
耳が押し付けられた三蔵の胸から伝わる鼓動が、激しいものへと変化したから。
だから思わず顔が緩んでしまって。

「マヌケ面で笑うな。」
「みてねェじゃん。」
「見えなくてもわかんだよ。バカ猿。」
「猿じゃねェもん。」





「悟空。」





そして耳元で再び囁かれた俺の名前は、いつも呼ばれるそのトーンとは違っていて。
ぞくりと背中が粟立って、ゾクゾクと体が震えて。
三蔵の声だけで。
三蔵のこの低い声で名前を呼ばれただけで、欲情する――――――。

「さんぞー。しよ?」

少しだけ呂律の回らない舌で、そう強請った。







2005/04 まこりん

悟空おたんじょうびおめでとう〜!
ちゃんとお誕生日にアップして上げられなくてごめんね。
大好きだよ!三蔵と幸せになってくださいー。

三蔵のお誕生日ssとリンクしてますので
三蔵の言ったセリフが気になる方はそちらを見ていただければわかるかと。
最初から最後まで漫画のほうが書きやすい話でした…。
本当によくある話ですみません………。

おまけで三蔵視点を書きたいです〜
日記の方にかな?(笑)





>>>戻る