■■■遠足の日の前日


がさごそ。がさごそ。
用意してもらった袋に、お菓子の山を詰め込んでいく。
はたからみればそれはお菓子袋かと思うくらいにお菓子だらけで。
一番最初に詰め込まれたのはお菓子だったのだろう。
袋の周りには今度はオモチャ…というか、なんというか、遊び道具ばかりが散乱していた。

「三蔵三蔵!!コレ!これもっていっていい!?」
「あ?…あぁ。」

両手に普段の遊び道具を手に持って、悟空は笑った。
瞳を輝かせて詰め込んでいく悟空に、三蔵はたいして興味なさそうに視線を向けるでもなく新聞を読む。
そんな三蔵を気にしていないのか、悟空はそれでも三蔵に話しかけた。

「あっ!そだっ!なぁなぁなぁ三蔵っ!アレ持っていっていいかな?」
「………あぁ。」
「ってアレ忘れちゃダメじゃん!!!」

一人で嬉しそうに、楽しそうに、はしゃぐ悟空の声。
それにぴくりと三蔵の眉が動いて。

「………。」
「なぁなぁ、三蔵っ!コレは必要か――――。」

ぴくぴくっと…動いて…。



ばしっ!



「ってえええええ!!!」
「煩ェ。いい加減静かにしろ。」

堪忍袋の緒が切れたのか、手にはハリセン。
もちろんそれはすでに使用済み。
叩かれた悟空はと言えば、叩かれた場所を両手で押さえて、唇を尖らせた。

「だってやっぱ用意しとくにこしたことはないじゃん?」
「んなのは八戒に任せとけ。」
「でもさー。やっぱお菓子は自分で用意しないと…。」
「そんなにいらん。」
「えー!?マジで!?」

心底残念そうな悟空に、三蔵は小さくため息をついた。
正直弱い。
八戒に言われなくてもわかってた。
自分はなんだかんだ言って甘いと思う。
この目の前の小猿には。

「……せめて半分にしろ。」
「俺が持つから!!」
「………。」
「な?な?いいだろ三蔵っ?」

ここまでくると諦めた。
こういうことに関して悟空が諦めるとは思えなかったし。
頼み込むような瞳でそこまで訴えられると、やっぱり目の前の小猿に甘い…とわかってはいたとしても…。


「………勝手にしろ。」


ため息と一緒にそういうしかなかったのだ。
三蔵には。

「よっしゃああ!あ。そだ。三蔵!」

たかだか少しのやり取りの間に、なんだか凄く疲れた気がして。
三蔵は何度目かのため息をつくと、よみかけだったしんぶんにふたたびめをやった。
だが悟空を無視するわけにもいかなくて。

「………今度はなんだ?」
「マルボロ!ちゃんと持ったから!大丈夫だぜ?」
「………。」

言われた瞬間、息を呑んだ。

「でもあんま吸うなよー。身体に悪いんだから!」

さっきまでのオネダリしていた瞳はどこへ行ったのやら。
今度は保護者ぶるような悟空の瞳に、ちっと舌打ちを打つ。

「煩ェ。」
「キスも苦いし。」

ぴくりと、新聞を持つ手が悟空の言葉に反応した。
それに悟空は気がついていないのか、それともさほど自分のセリフに意味はなかったのか。
手に持った道具を次々に袋へと詰め込んでいっていた。

「………。」

ちらりと三蔵が悟空を盗み見れば、それはそれは本当に…嬉しそうに袋を整理しているから。
こっちまで楽しくなってくるような、そんな笑顔でそれをしているから。
胸の奥が、ほんの少しだけ暖かくなって。

「あー明日楽しみだな!三蔵っ♪久しぶりに三蔵も一緒に行けるし!な?三蔵!」

「あぁ。」

「…え?」

「………おら。早く寝ろ。明日寝坊しても知らんぞ。」
「え?あれ?三蔵?さっき…。アレ?三蔵も早く寝たほうがいいと思うけど?」
「俺は仕事を片付けないといけないんだ。」
「えー。」
「なんのためにだと思ってンだ。ばか猿。早く寝ろ。」
「はーい。」



「チッ…。」




「あ。三蔵。」
「あ?まだなんかあんのかテメェは。」

部屋から出て行こうとした悟空が、ふっと…扉の前でその足を止める。
振り向き様、三蔵と目が合った瞬間に、悟空はにっといつもみたいに太陽のように笑って。

「三蔵も楽しみみたいで俺、すっげェ嬉しい。」

満面の笑みでそういうから。



「寝ろ。」



自分でも無意識に出たさっきの自分の言葉に、どこか気恥ずかしさを感じて。
背中を悟空に向けると、三蔵は小さく舌打ちをした。






>>>あとがき

三空日記で書いていたんですが………。
その時はセリフだけ。
今回行間に描写を入れてみたけれども、失敗かもしれません…ね…あはは…(遠い目)

2005/05/02→2005/10/10改定  まこりん






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