■■■kiss



「てめぇは三蔵三蔵うるせぇよ!」

笑う。
食べる。
怒る。
泣く。

猿の言動のほとんどは食物のことと、最高僧様の関わること。
わかっちゃいたし、それは初めて会ったときからかわらなかったけれど。
それでも猿が生臭坊主の名前を、幸せそうに呼びながら、とろけるような顔で笑うから。
気がついたら猿の胸倉掴んで引き寄せて―――――生臭坊主の名前だけ、特別な意味を含めて呼ぶ唇をふさいだのだ。
それは半ば無意識というか、衝動に突き動かされてというか。
ただ、これ以上聞きたくなかったのだ。
その名前は特別だというようなニュアンスを含めて、悟空が呼ぶのが。

猿の唇の感触を楽しむ間もなく唇が離れて。

「へっ。ざまぁみやが…。」

いつものように軽口を叩こうとした口を閉じる。
耳まで真っ赤になって、拳を震わせて。
大きな黄金の瞳をどこか潤ませている悟空。

「………。」

なんだか自分がひどく悪いことをしたような気がして、悟浄は僅かに後ずさった。
残るのはなんだか気まずい空気。
悟空は一言も何も言わなかった。
それが、かえって辛い。

「お…俺が、悪かった。」

震える声が響く。
悟空は握りしめた拳を震わせたまま。
ただ、ただ床をきっと睨みつけて。
反応に困る。

「こ、こーゆーのは、好きな人とするんだぞ。」

「へ?」

突然悟空に言われた言葉に、間抜けな声が出てしまった。
いや、じっと黙ったままだった悟空が突然言葉を発するから、驚いてしまったのだ。

「だから、キスってのは好きな人とするもんだろ?」
「そりゃ…そうだけどよ。でも別に好きじゃなくてもできるし。」
「すんなよ!そういうことは。」

ああもーなんていうか、真っ赤になって怒ってる理由が可愛いっていったら、きっとあの保護者に殺されるな。
なんだか、反応が可愛いと。その時初めて思った。
とたんに邪な思いがふつふつと頭に浮かんで――――。

さっきは全然味わえなかった悟空の唇を、味わってみたくなる。

「じゃあ、お前が好きなら、こういうことしていいワケ?」
「へ?」

真っ赤に頬を火照らせたまま、悟空が間抜けな面をあげる。
その間抜け面な悟空の耳元に手を当てて。
指先に感じた悟空の少し硬い髪を軽く梳いた。
そしてそのまま、もう一度。
唇を寄せて。

「ごっ…!!」

突然近付いてきた悟浄の顔に、悟空が慌てて後ずさる。
そんな悟空を逃がさないように、悟浄はするっと悟空の腰に腕を回して。
そしてその細い腰を、抱き寄せた。

「んっ…!」

抵抗しようとした唇をそのまま塞ぐ。
ぎゅっと固く結ばれた悟空の唇。
ぎゅっと固く瞑られた悟空の瞳。
抱き寄せた身体はガチガチに固まっていて、それが抱いた腕から伝わるのが楽しくてしょうがない。

ずるずると逃げるように1歩1歩下がっていく悟空。
それを追いかける悟浄。
狭い部屋の中なので、あっという間に悟空の背中は壁にとんっと音を立てて当たった。
悟浄の胸に押し当てられてた悟空の拳が、微かに震える。

ただ重ねるだけの口づけ。
悟浄はちろりと悟空の唇を舐めるが、固く結ばれた唇は震えたまま頑なで。
しょうがないので一旦唇を離す。
離した途端、安心したのか悟空が僅かに酸素を求めて唇を開いて。

その隙を逃すはずはなく。
悟浄は再び悟空の頤を掴むと悟空の唇に唇を寄せた。
一度抑えてしまえば、悟空の唇に僅かな隙間ができて。
そのまま舌を進入させれば、びくりと舌が逃げた。

何から何まで笑いがこみ上げてくるくらい、楽しい反応で。

そういえば最近こういう反応、なかったなぁなんて頭のどこかで思って、逃げた悟空の舌はそのままに熾烈を舌で舐める。
がくりと膝を曲げた悟空の脚と脚の間に自分の脚を滑り込ませて、その身体を支えてやる。

「ンっ…ふぁっ…。」

少し鼻にかかったような悟空の吐息が漏れる。
息苦しいのか酸素を求めるように悟空が口を開いて。
その隙に柔らかな舌を絡め取って。
吸い上げたら悟空の頤を掴む自分の指に生暖かな液体が触れた。
それをぬるりと広げて、悟空の唇から自分の唇を離す。
てらてらと唾液で光る悟空の唇を一舐めして、悟空の顔を覗き込めば。

更に頬を真っ赤にさせて、瞳をとろりとさせて、小さく震える悟空がいた。

その悟空の煽情的な顔に、どくりと身体中の血液が波打つ。
ばくんばくんと心臓は煩くて、悟空の腰を抱き寄せた腕が微かに震えた。

「ご…じょー…。」
「ん?」
「の…エロ河童ー!!!!」

ばきィっ!!!!!

悟空の惚けた顔に油断していたせいか、悟空の懇親のパンチは見事に悟浄の顔に当たって。
よろけた悟浄が離れた隙に、悟空はひらりと悟浄の腕から抜け出た。
真っ赤になって、瞳を涙で潤ませたまま。

くるっと振り返ると、しりもちついた姿勢のまま頬を手で押さえる悟浄を睨みつける。
しかし真っ赤な頬でいくら睨んでも、ちっとも怖くない―――どころか、悟浄にとっては益々可愛らしい生き物になっているのだけれども。

「エロ河童!エロ河童!エロ河童!!!!こんのエロ河童!!」

そして叫ぶだけ叫んで、だーっと扉の方に走っていってしまった。
そんな悟空の後姿をあっけにとられてみていた悟浄は、痛む頬にはっと我に返るとくっくっと笑い出す。
楽しくて、おかしくて、笑いが止まらない。

「つーかエロ河童しか言ってねぇじゃンかよ。」

今だはっきりと覚えている悟空の顔。
あんな顔みたこと、今までなかった。
自然と緩む口元。
込み上げてくる笑い。

「あ。そういえばまた感触楽しむの忘れた。」

悟空の反応に夢中で、やっぱり忘れてしまった。
少し勿体無かったな。と思いながら、悟浄は痛む頬から手を離した。

「ま、またチャンスはあるか。」

ひょいっと立ち上がると、やっぱり止まらない笑いに口元を緩めた。








初悟浄×悟空
悟浄と悟空は兄弟っぽいのも好きです。

2004/11/22
まこりん




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