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■■■耳かき



「耳が痒い!」

さっきまで大人しくしていた悟空が、突然大声を張り上げて。
三蔵は顔を上げると、耳の穴に指を突っ込んで何やら呻く悟空を見た。
どうもさっきから無言だと思ったら、それに意識が集中していたらしい。

「痒い痒い痒い~~。さんぞー!耳かき、貸してくれよ。」

そう言うや否や、とてとてとはだしのまま悟空は三蔵の机に近づいて。
小指で耳をほじくりながら、空いている手を三蔵の目の前に伸ばした。

「ああ?」

とたんに怪訝そうに寄せられる三蔵の眉。
それでも悟空はひるまない。

「俺、知ってンだからな。三蔵の机の引き出しにあるの。」
「………ホラ。」

ここで悟空と言い合っても仕方ないと思ったのか、黙らせるには貸すのが一番と思ったのか。
三蔵は意外とすんなりとソレを貸してくれた。
悟空の目的としていたもの。
『耳かき』
それを受け取ると、悟空は満面の笑みで三蔵にお礼を言う。

「さんきゅーな!」

そしてまた。
とてとてとてと、足音をさせながらもといた位置に戻ると、ぺたんっと座り込んだ。
そして手に入れた耳かきを持つと、痒い痒いと騒ぎながらかいていた耳にそれをさしいれて………。

「いってぇ!!」

叫ぶ。

あまりにも想像通りの悟空の反応に、三蔵は指先を額に押し当てると小さくため息をついた。
見れば不器用なのか、耳かきを持つ手はそのまま耳かきを握り締めるだけ。
小さな赤ん坊が、初めてスプーンを持った時のソレと一緒だった。
それにまた、ため息が零れる。

「本当に、どうしようもねぇな…。」

「さんぞぉ~~~~。」

少し泣きそうな声で、悟空が振り返る。
あまりにもマヌケなその顔に、三蔵の眉間に寄った皺がひとつだけ減って。
機嫌悪そうな顔つきは、自然と諦め顔に変わった。
三蔵は持っていた筆を置くと、立ち上がる。
そんな三蔵に、悟空は不思議そうに首をかしげた。

「三蔵?」

「危なっかしいンだよ。」

そしてスタスタと。三蔵はさっきの悟空の騒がしい足音とは違う、静かな足取りで。
悟空の傍に近づくと、三蔵は悟空の持っていた耳かきを取り上げた。
そしてその場に座り込む。
胡坐を書いて座り込む三蔵を、悟空が不思議そうな瞳で見つめていると…何を考えているのかわからない表情の三蔵が、小さく顎を動かした。
何かの合図らしい。

「さんぞ?」

「こい。」

「え?」

「………。」

すっと三蔵が自分の膝を撫でて。
そこにこいと言われているのだと、やっと悟空は気がついた。

「おう!」

満面の笑みでその膝に……胡坐をかいた三蔵のその脚の上に、とすりと悟空は座り込む。

背中に当たる三蔵の胸。
暖かなそのぬくもりに、うっとりと目を瞑って悟空が笑う。
この位置に座るのは大好きだった。
三蔵が座らせてくれることはあまりないのだけれども。

その三蔵の膝は、微かにふるふると震えていて―――――。

「誰が座れと言ったっっ?!」

パシーン!!!

突然の後頭部へのハリセン。

「いってぇぇぇぇ!!!」

さっきまでその位置に座るのを満喫していた悟空が、慌てて三蔵の膝から転がり落ちる。
抗議の瞳で振り返ればハリセンで肩をとんとんと叩く三蔵が、不機嫌そうに自分をじっと見下ろしていた。

「なんだよ三蔵がこいって言ったンじゃんか!!!」

「耳垢、とってやるっていってンだよ。」

「え?」

「痒いンだろ?」

「え?」

あまりにも信じられない三蔵の言葉。
ただでさえ大きな瞳をぱちくりと瞬かせて。
少しだけ間をあけた後、悟空はやっと意味を理解したのか、驚き顔を笑顔に変える。
三蔵の膝に座るのは好きだけれども、耳垢を取ってもらうのもきっと気持ちがよいだろう。

「わかった!」

そして満面の笑みのまま、今度こそ本当に三蔵のその膝に頭をころりと乗せた。
痒かった耳を上にして、そのままころりと転がって。
ゆったりと目を瞑る。

ふっと自分の耳たぶに、三蔵の指が触れるた。

それに悟空の肩がぴくりと動いた。
じっと視線を感じて、微かに鼻を三蔵の香りが掠めて。
頬の下には暖かな三蔵のぬくもり。
ちょっと堅い、三蔵の膝。

顔が自然と緩んで、笑が止まらない。

かさかさと耳の中で音がして、たまに三蔵の息が吹きかけられて。
それにぞわぞわと身体を震わせれば、動くなと怒られた。
怒られても、それでもやっぱり笑いは止まらない。

「さんぞー。ちょーキモチイー。」
「………そうか。」

へへっと笑う悟空に、三蔵も唇の端を緩める。
それはもちろん、悟空には見えなかったけれど。
耳元で響いた、大好きな三蔵の低い声が柔らかかったから。

悟空は益々嬉しくて。

うっとりと…目を閉じた。

「おい。寝るなよ。重てぇ。」

「う…ん?」

時既に遅し。

僅かに悟空の体温が上がって、今にも眠りの世界に飛び立ちそうで。
虚ろ気な瞳をさまよわせた後、悟空の身体からだらりと力が抜けてくる。
そしてあたりに響くのは―――すやすやと眠る、悟空の寝息。

「チっ…。」

その柔らかな悟空の頬に軽く指で触れても、悟空は僅かに擽ったそうに身を捩るだけで。

「………重てぇ…。」

そのまま丁度後ろにあったソファによりかかると、三蔵は天井を仰ぎ見た。
何気なくポスリと手を置いた悟空の胸から暖かな体温と、規則正しく上下に動く振動のが伝わる。

三蔵は少し考えた後、愛用の煙草を取り出して。
器用に片手で1本取り出すと、そのまま口に咥えて火をつけた。

ゆらりと揺れる紫煙を見つめながら、三蔵もゆっくりと―――瞳を伏せた。








あとがき

その後
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「おーい。生臭坊主に万年空腹猿ー………。」


がちゃり。


「失礼しました!!!!!!!!!」


ばたん。


++++++++++++++++++++++++++++++++


そして後からゆっくりとやってきた八戒に慌てて

「今ココを開けちゃダメだ!!!昇天しちまうっ!!!」

と言って、ぶんぶん頭を横に振ってる悟浄に対して。

「何を言ってるんですか?悟浄は。」

そう言って、にっこり笑顔のまま八戒はドアノブに手をかけちゃうんだ。

「三蔵。悟空。失礼しま―――………。」

そして少し動きを止めて。

「おやおや。失礼しました。」

そしてまたぱたん。って閉じちゃうのさ…。




2005/01/31 まこりん



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