■■■冷たい手



「おい。」
「あ。さんぞー。お帰り。」
「……てめェ………何やってる?」
「何って、三蔵を待ってた。だけだよ?」

鼻の頭も頬も同じくらいに真っ赤にして、悟空がきょとんっと瞳を瞬かせた。
三蔵が言いたいことがわからないらしいその表情に、三蔵が僅かに眉根を寄せて。
その三蔵の表情に、益々困ったような表情をして悟空は唇を噛み締めた。

「だって今日、三蔵バイト休みだったろ?」
「……急にはいったんだ。だいたい来るなら来るで連絡くらいしろ。」

ポケットの中でぬくもった鍵を取り出し、それを鍵穴に差し込んで。
三蔵は住みなれた自分の部屋の扉を押し開けた。
出払っていたから部屋は冷たいままだ。
冬の空気がそのまま、そこにある。

「だって、俺も急に来たくなったから来ただけだしさー…。ダメモトでとりあえず来て…別に三蔵がいなくても、待ってるつもりだったんだぜ?」

「チッ…。」

部屋に入る三蔵を追いかけるように悟空が小走りになる。
かちゃんと、扉が閉まる音がして…その瞬間。
悟空の小さな体は三蔵の腕の中にあった。

「三蔵?」
「………何時間、待っていたんだ?」
「別に、そんなに待ってねェよ?」

うそつきな唇に、噛み付くように口付ける。
冷たく冷えたソレは、冬のせいか僅かにかさついていた。
益々胸が苦しくなって、三蔵は震える生き物を抱きしめる腕に力をこめた。

「さっ…、何?急に。」

冷たい頬、唇、身体。
舌をさしいれた口内の熱さとの温度差が凄かった。

「今日はこない予定だっただろう?」

悟空の首元に鼻を摺り寄せれば、太陽の匂いがして。
とくん。とくん。と耳元で心地良く聞こえる音はどちらの物なのだろうか。

「しょーがねェじゃん。むしょーに三蔵に会いたくなったんだから。」

息を呑む。
真っ赤な首元と、ちょっと拗ねたような悟空の声。
それだけで十分だった。

今の時間が22時。
悟空の学校が終るのが15時として。

悟空は一体何時間、この冬の寒空の下自分を待っていたのだろうか?

ふっと触れた指先の冷たさ。
その指に自分の指を絡めた。
自分も決して体温が高いほうではないが、2人で触れ合っていれば段々と暖かくなってくる。

「寒い。」
「え?何か暖かい物でも飲む?俺、なんか淹れようか?」
「そうだな。」
「じゃあ、三蔵はホットカーペットいれて待っててくれよな。何がいい?コーヒー?」
「………お前に任せる。」

段々と暖かくなってきた悟空の身体を手離すのは名残惜しかったけれども。
その身体を離す。
離れかけた悟空が、一瞬動きを止めて、振り返って。
その瞳が、自分と同じように離れることを名残惜しんでいるように思えて。

一度放したその腰を、再び抱きかかえた。

そして再びその唇を奪えば、一度目とは違いほんのりと熱を帯びているのが伝わった。
舌を入れれば、それに対してぎこちないながらも応える、柔らかな舌。
熱い吐息。握り締められた、震える小さな手。

うっすらと瞳を明ければ、熱に濡れる色を含んだ瞳。

それだけで、体が熱くなった。

「いや、いい。どうせ温まる。」
「え?」
「いくぞ。」

ひょいっと悟空の身体を抱き上げて。

首本で緩んだネクタイに噛み付いた。

「三蔵っ?ちょっと、待っ…。」

「待てねぇ。」

するりとネクタイが解けて、僅かにあいたシャツの襟元から見えた赤いアト。
それに今夜も噛み付いた。


2006/04/07 まこりん

パラレル三空です。初です。
携帯電話のお話が書きたかったのに、こっちが先になっちゃいました。
やっぱり三空が好きです!書いてて楽しい!!




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