■■■無意識の恋情
Side-S     三蔵→悟空



あんまりにもとても幸せそうに笑うから。
幸せそうに笑うその頬が、とても柔らかそうだったから。

ふっと。

つい。

本当に、無意識だった。

触れた指先に感じる、柔らかなその感触。
滑らかなその頬は、赤子のもののように柔らかく、そして滑らかで。

力加減に少々戸惑った。

「………ぞ………」

そして薄い桜色の唇から、漏れた小さな声。

はっと我に返って、慌ててその場を去った。
ぱたりと音を立てて、扉を閉めるとその扉に背を預ける。

ばくん。ばくんと。
自分の心臓の音なのに、それは自分の耳から聞こえる気がした。
今までこんなに激しく鳴ったことは―――――ない。

慌てて引っ込めた手は、いつの間にかぎゅっと握り締めていて。
そっと。ゆっくりと力を抜いて手を開く。
じっとりと汗ばむその掌は、いつも以上に白くて、ソレがさっきまでどれくらい強く握り締めていたのかを物語っていた。

「ありえねェ…。」

脚に力が入らない。
崩れそうになる身体を、なんとか支えて…汗ばむ掌で瞼を押さえた。

瞼を閉じれば、今でも鮮明に思い出す。

春の陽だまりの中、これ以上にないってくらいに幸せそうに眠る、その姿を。

指先が覚えている。

思わず無意識のうちに触れた、その肌の柔らかさを。

鼻を擽る、太陽みたいな陽だまりの香。
いつもの彼の、柔らかな髪の香り。

「………。」

口から飛び出そうな心臓をごくりと飲み込んで。
だんだんと穏やかになっていく自分の心臓の音が何故か心地良くて…。

ただ――――。

ただ黙ってそのまま聞いていた。





2006/3/20 まこりん




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