■■■三空日記10



「天ちゃん、ソレ何?」
「コレですか?」

にっこりと笑って、天蓬は悟空に指差されたその箱をひょいっと持ち上げた。
天蓬が両手で抱える箱を不思議そうに見ながら、悟空はてけてけとその箱に近づく。
それをちらりと横目で見ると、金蝉はそのまま書類に判を押す作業を続けた。

「ちょっと下界で面白そうなものがありまして。前々から興味はあったのですが、手にいれてはなかったんですね。」
「ふぅん?」
「で、今回悟空が好きそうだなぁって、思って持ってきてみたんですよ。」
「俺が?」

天蓬に渡された箱をじっと見つめた後、悟空はその箱を両手でしっかりと持って軽く振ってみた。
カサカサと音がして、悟空はじっとその箱を見つめる。
不思議で不思議でたまらない。そんな顔だ。
それに満足そうに笑うと、天蓬は再びその箱を受け取る。
そして悟空にそっと、差し出した。

「ここに穴があるでしょう?」
「うん。」
「手を入れて、中から紙を一枚、取ってみてください。」
「こう?」

ずぽっと箱の上に空いていた穴に手を突っ込んで、悟空は不思議そうに指先に触れた紙を指と指で挟む。
挟んで取り出そうとして…。

「一枚だけですよ?」

何枚かとった紙の、一枚だけをそのまま取り出した。
そして手の中にあるその丁寧に折られた紙を、また不思議そうに見つめた。
金色の瞳が、それはそれは不思議そうにその紙を眺めるのを、天蓬は笑って見つめる。

「捲ってみてください。」
「ああ…こう?」

くるくるとその紙は簡単に開いて―――長細い紙になる。

「なんて書いてあります?」
「大吉!」
「わぁ。悟空すごいですねぇ!大吉ですか!」
「スゴイのか?」
「凄いです!大吉はおみくじの中で一番いいんですよ?」
「『おみくじ』?『大吉』?」
「ええ。」

『一番いい』と言う天蓬の言葉に、にぱっと悟空が笑う。
満面の笑みを浮かべると、書類に判を押す金蝉のもとにその紙切れを持って駆け寄った。

「なぁ、なぁ!金蝉!俺、すごいって!『大吉』なんだ!!」
「それがどうした。」
「『おみくじ』だって!」
「………良かったな。」

煩く自分の周りで飛んだり跳ねたりする悟空を見もせずに、金蝉は判を押し続ける。
それに少し寂しそうな悟空に、天蓬はやれやれと小さくため息をついて。
持ってた箱を金蝉の机に置いた。
それに不機嫌そうに金蝉が顔を上げる。

「邪魔だ。」
「あなたもひいてみたらどうですか?」
「そだ。金蝉もとってみろよ!」
「………。」

二人に詰め寄られて、金蝉は小さくため息をつく。
押してたハンコをそのままおくと、その箱に腕を伸ばした。
そして指先に触れたその紙を、一枚取り出しす。
それを興味津々な瞳で覗き込む悟空。

「な。な。金蝉のは?」
「………。」

かさりと開いた一枚のおみくじ。
書いてる文字は悟空とは異なって。

「中吉。」
「まずまずですねぇ。」
「まずまずらしいな。」

天蓬の言葉を繰り返す悟空に、金蝉は眉根を寄せた。
そしてぽいっとソレを捨てると、再び書類にハンコを押す。
投げ捨てられたそのおみくじを苦笑しながら天蓬は拾った。

「ちゃんと中身も見てくださいよ。」
「中身って?」

不思議そうに瞳を瞬かせる悟空に、天蓬は小さく笑う。
そして金蝉のおみくじを悟空に見せると、色々と細かく書かれた場所を指差した。

「例えばこの『失物』をみれば、『物にかくれて出ず。』とあるでしょう?なくしたものが見つかりにくいってことなんです。」
「くだらねぇ。」

ぽつりと呟く金蝉に、天蓬は再び苦笑して。
言われたように悟空は自分の引いた『大吉』のおみくじをまじまじと見た。

「……『ねがいごと』……『かなうひはちかい。』『まちびと』『かならずくる。しばしまて。』……だって。」

最初の数個を声に出して、悟空は少しわからなそうに首をかしげた。
じっとじっと、そのおみくじを見て不思議そうにぱちぱちと瞳を瞬いて。

「わぁ。悟空、願い事が叶うらしいですよ。何を願うのですか?」
「んー……??」
「待ち人もくるらしいです。ちょっと待ってましょうね。」
「待ち人?」
「まぁ、今はなくても今年一年を占うものですから。」
「うん。わかった。」

不思議そうに首をかしげていた悟空が笑う。
それは本当に明るい笑顔で。
天蓬と金蝉がその笑顔に一瞬気を取られていると、悟空は小さく頷いて。

「待ってる。」

そう力強く言い放ち、悟空はそのおみくじを握り締めた。






2005/01/11 まこりん





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