■■■三空日記15




静かなその部屋に、荒い呼吸が響いて。
そっと…手を伸ばした。
普段なら決して触れないその額に、そっと手を当てて。
自分の手に伝わる、燃えるような熱。

「あちィ…。」

その熱さに、目頭が熱くなる。

荒い呼吸。
玉のように浮かんだ汗。
歪められた眉。

「さんぞ。」

名前を呼んだ。
普段なら寝ている彼に近づけば、すぐ様銃口を自分の額に押し当てられていたのに。
返事はなく。ただきつく噛みしめられた唇。

「さんぞー。」

唇の端が切れて血が滲んでいるのに気がついて。
そっと指先で触れる。
触れて、指先についた真っ赤な血。

どくりと、心臓が鷲掴みになったような感覚。

慌てて眠る三蔵の肩を掴んだ。

「三蔵っ!三蔵っ…!!!」

目頭が熱くて、胸が苦しくて、どこか言いようのない不安が胸に込み上げてきて。

「目をあけろって…!!!」

がくがくとその力ない身体を揺らした。

「ごく…?」

「三蔵っ!?」

「っの…ばかっ…猿っ…。」

苦しそうに歪められた眉。
真っ赤な顔。玉のような汗。

「寝てれば治るっつってんだろ…がっ…起こしてンじゃねぇよ…。」

「でもっ!俺っ…こわっ…。」



コワイ。


どくんっと。

また、心臓が高鳴って。
コレが、恐怖。
コレが、コワイという感情。

がくがくと、足が震えた。

「うつるからあっち行け。」
「ヤダっ…!!」
「行け。」
「だって、三蔵苦しそうだし、熱いしっ…!!」
「熱があンだから仕方ねぇだろうが。」
「邪魔?」
「うるせぇ…。」
「さんぞ…。」
「頭にガンガン響く。てめぇの声が。」

ぽろりと。大きな涙が一粒。
頬を伝って。

唇をかみ締めた。

俺が傍にいても、何の役にも立たなくて。
それどころか三蔵の具合を悪くする一方で。
どうしていいのかわからなくて。

「は、八戒呼んでくるっ…!」
「…おい。」
「何?」
「………いいから。そこにいろ。」
「何で?煩いんだろ?」
「………いろ。」

離れれば離れるほど、声が大きく響くから余計煩いと。

口にするのをためらった。
目の前で涙を流す悟空の、その顔にためらった。

「うつるんじゃねぇぞ。めんどくせーから。」
「俺、丈夫だから平気。」

小さく笑う悟空の頬に伸ばした手を、悟空がそのまま受け取って。

離れれば離れるほど、声が大きく響くから余計煩いと。
そう思ったのも確かだが。

離れれば離れるほど――――。

何故か今。
どこか遠いところで泣かれるよりは、ここで。
隣にいてくれた方がいいと。

風邪で弱っているからだろうか?

涙でべたつく悟空の頬を、そっと撫でた。







2005/03/12



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