■■■三空日記18



「おい。ばかざ・・・。」

探し回ることはや20分。
目の前ですやすやと寝息をたてて眠る目的の人物に近づいて………。
三蔵は息を呑んだ―――。





仕事が一段落して町にタバコでも買いにいこうかと思った。
だから普段から町に一緒にいきたがる悟空にもたまには声をかけてやろうかと思ったのだが。
最近は三蔵から声をかけることが多くなった。
ほんの少し前まで悟空は三蔵の執務室の隅にいたから、三蔵の仕事が一段落すれば悟空の方から三蔵に声をかけてきていたのだ。

「仕事がおわったんなら一緒に町まで行こうぜ!」

よくそう言っては

「うるせぇ!俺は疲れてンだ!」

と三蔵にハリセンで叩かれていた。
そんな悟空は最近、執務室の隅にいたと思ったら気がつくといなくなっているのだ。
仕事している三蔵が気がつかないくらいに自然に。
筆を置き、顔をあげた三蔵が悟空のいない景色に違和感を感じるまで、三蔵が悟空が出て行ったことに気がつかないくらい自然にだ。

いつもそこにいる存在がいない。それが三蔵には少しだけ気分の良くないもので。
いつもなら三蔵から声をかけることはないが、ふらりと悟空を探しに行ってしまう。
悟空を探しているということ。を三蔵が自覚していることは勿論なかったが、八戒と悟浄あたりがみたら『あの三蔵が捜し歩いている』と驚くだろう。

「あのバカ猿。どこ行きやがった。」

ちっと舌打ち一つして、寝室に戻れば。
ベットの上ですやすや眠る悟空。

最近はそんなのばかりだった。
寝室だったり、どこかの部屋だったり、中庭の木の上だったり。
三蔵が見つけたとき、悟空は必ず寝ているのだ。

そして今回。

悟空が寝ていたのは―――――。

中庭の、ど真ん中。

舞い散る桜の花弁の中で。

集めた淡い桜色の花弁のベットの上だった―――――。



「悟空。」



小さく口の中で彼の名を呼んで。
三蔵はその白い頬に手を伸ばした。
風がさぁっと吹いて、桜の花弁がさらさらと流れるように飛んで。
そこで眠る悟空の頬に、髪にと絡まりついて。

長い長い悟空の髪に絡まるその無数の花弁を、そっとひとつまみするとじっと眠る悟空を見る。

淡い淡い桜色の花弁。
その中心で眠る悟空。

最近悟空は眠っていることが多い。
気がつけばいつでも、どこでも。

「悟空?」

声をかけても眠る悟空は身動ぎ一つせずに。




『桜の木の下には、死体が埋まってるんですよ』




ふっと…昔光明に聞いた言葉を思い出す。
とたんにぞくりと背中が冷たくなって。

「おい。」

微かに指先が震えるのは、何故だろうか?

「ばか猿。起きろ。」

触れた指先。その先の悟空の肌の冷たい感触。

「悟空。」

さらさらと風に舞う桜の花弁。
その一枚が、悟空の唇に張り付いて。


三蔵はソレに誘われるまま、自分の唇を悟空の唇に近づけた。


「さん…ぞ?」

とたんにそっと目を開けて。
一番最初に目にはいった人物の名を、悟空は呼んだ。
何故か目の前で、桜の花弁を唇で挟んで自分の顔を見下ろす、紫暗の瞳を持つ青年。

「仕事終わったのか?」
「…あぁ。お前は―――ここで、何をしている?」
「あー…なんかひらひらすっげェ綺麗で、世界全部が桜色で。綺麗だなーって思って。かき集めてたら眠くなって。」
「寝てたのか。」

三蔵が言えば、悟空は不思議そうに首をかしげたあと、にっといつものように笑う。

「春になってあったかくなったからかな?最近すっげェ眠ぃ。」

「寝るなら部屋で寝ろ。」

「寝るつもりはなかったんだぜ?すっげェ綺麗で、桜の花弁の上で寝転ぶと気持ちいいから、三蔵のために集めてたんだ。」

「俺のベットを桜の花弁で埋めるつもりか。」

「え?ダメ?」

「勝手にしろ。」

悟空の前髪に今だついたままの桜の花弁を指でつまむと、三蔵は再び悟空の唇に口付けた。








2005/04/02



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