■■■三空日記19



あたりはもううっすらと暗く、あたりの民家の灯がポツリポツリと明るくつき始めていて。

「ちっ…。」

本日何度目かもわからない舌打ちを一つして、寺院へと帰る道を歩いた。
夕方までには終わる筈だった今日の仕事。
突然追加で仕事を頼まれて、気がつけばすでにこんな時間だ。
別に自然と足が速いのは、今日が猿の誕生日だから―――というわけではない。気がつけば足早になっているのは、さっさと休みたいからだ。なのに気がつけば、寄る筈だった店が閉まっていることに苛立ちを感じたり、朝の猿の怒った顔が浮かんだりと…そんなことばかりで。別に寄ろうと思った店は、気まぐれで寄ろうと思っただけで、たまたまこの前八戒が誕生日くらい何か買って帰ってあげたら…などと言っていたのを思い出したからだっただけで…。別に気まぐれだったし、朝猿は何もいらないと言っていたから、寄る必要もなかったわけで…。
と。そこではっと…何故だかさっきからいいわけじみたことばかりを考えていることに気がついて、舌打ちを再び一つした。気がつけば勝手に足は速くなっているし、らしくもなく息は上がっているし…心なしか額に汗も浮かんでいる。

空を見上げればうっすらと暗くなっていただけだった空が、星空に変わっていて。
今何時なのかさえわからない。

別に猿のために早く帰ろうとか、そういうことを思っているわけではない。
ただ、はやく休みたいから。

それなのに何故かさっきから頭に浮かぶのは、朝の怒った猿の顔だけで。

「ちっ…。」

舌打ちをまた、一つ。

自分の誕生日でもないクセに、人の誕生日に幸せだと笑ったあの笑顔を覚えてる。
バカの一つ覚えみたいに、その言葉以外を忘れてしまったんじゃないかと思うくらいに、たった一つの言葉を繰り返し繰り返し、幸せそうに言った悟空の、あの言葉を、声を、覚えている。

『誕生日は一番大切な日だから、一番大切な人と過ごしたい。って、そう言ってましたよ。』

言われなくたって、あいつがそう望んでいたのは知っていた。
ずっと、ずっと…目が、言っていたから。
カレンダーを眺めては、瞳を輝かせて嬉しそうに………人のことを見てきていたから。

息が切れて、汗のせいで法衣が腕にまとわりついて、ウザイやらむかつくやら。

帰り道、足が速くなる。

今の時間が、わからない。

まだ――――――間に合うのだろうか?





2005/04/13



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