■■■三空日記4 三蔵が好きだ。 それ以外の言葉は思いつかない。 今胸の中にある感情を言葉にするとしたらこれしかない。 三蔵が好きだ。 好きで好きで、それ以外、この感情を表す言葉を知らなかった。 でもいくら好きだと言っても、この感情のすべてを表現できているとは思えなかった。 好きなんて言葉じゃタリナイのだ。 正直、そんな簡単なものじゃない。 かといって『愛してる』とはまた違う気がする。 どこが?かはわからないけれど。 三蔵を愛しいと思うことはなかったから。 愛しいと思うよりも、好きだと思うほうが先だ。 どっちが重いかなんてわからないけれど、今の俺の感情を表すには『好き』の方が合っている気がした。 いくら口にしてもタリナイ。 いつもいつも、言っているけれど三蔵は何も言わない。 それどころかたまに怒る。煩いと。 でもこの溢れ出そうな感情は口にしないと、行き場をなくしてしまうから。 口にしないと辛い。胸が苦しくて、苦しくて、苦しくて――――。 だから俺はいつもいつも、その言葉を口にするのだけれど。 でもいくら口にしてもタリナイのだ。 たった一言。『好き』なんて言葉じゃ現しきれていない。 「三蔵〜。」 「………。」 「三蔵ってばー。」 「………。」 「三蔵って呼んでンじゃん!」 「煩い。黙れ。」 「好きだよ。」 「煩いっつってンだろ。」 ばさりと新聞を広げて、三蔵はその新聞からちっとも目を離さない。 つまんないなぁと思って、その三蔵の後姿をじっとみていたら、三蔵があからさまにため息をついた。 これは合図だ。 思わず顔が緩んで、笑った。 そしたら、ほら。 やっぱり。三蔵は少しだけ眉間に皺を寄せて、振り返った。 三蔵のため息は諦めた時。 覚悟を決めた時。 俺のことを振り向いてくれる時。 その、合図だから。 だから振り向き様三蔵に抱きついた。 「三蔵好きっ!」 「てめェは………。」 抱きついたと同時に三蔵がバランスを崩して椅子から転げ落ちる。 抱きついていた俺も勿論そのまま一緒に転げ落ちて。 「ってェ…この…バカ猿っ!!!」 額を押さえながら三蔵がむくりと起き上がる。 そんな三蔵にのっかったまま、へへっと笑って頬にキスしたら、三蔵のハリセンが飛んできた。 バチーンっ!! 大きく音が響いて、頭がくらくらする。 それでもやっぱり、へへっと笑ってたら三蔵はやっぱりため息をついて。 そして俺の両腕を掴んだ。 「覚悟はできてンだろうな?」 「へ?」 わけがわからない―――わけではない。 だって最初からこの先を求めてやったのだから。 とたんにぐらりと揺れる視界。 気がついたら三蔵を見下ろしていたはずなのに、いつのまにか見下ろされていた。 視界に写るのは唇の端を僅かに持ち上げた三蔵の顔と、天井染みついたいくつかのシミ。 「悟空。」 低く、しっかりとした口調で自分の名前を呼ばれる。 少しだけ笑う目元に、紫暗の双眸。 ああ。こんな時の三蔵の瞳は―――――。 「さんぞっ…。」 キラキラ光る髪の毛に指を伸ばしたら、その手首をつかまれてそのまま床に押し付けられた。 本当に、本当に。ぞくりとするくらいに。 首元。触るとどくん、どくんってよく音がしてる場所。 その上を小さく小さく、甘噛みされて。 ぞくぞくと身体が震えた。 そして一気に血液は下半身へと流れ込んで。 三蔵のてのひらが、俺の服の隙間から忍び込んできて。 その感触に身体が粟立つ。 「ぁっ…。」 撫でる三蔵の指から伝わる優しさに。 胸がきゅっと締め付けられた。 2004/11/14 まこりん |