■■■プレゼント


「あれ?三蔵。今日は仕事、ねぇの?」
「…まぁな。」

ばさりと新聞を広げて、三蔵はメガネをかけなおした。
その三蔵の仕草をじっと見つめながら、悟空は一度止まってしまっていた手を再び動かした。
拾ってきた沢山のどんぐりたち。
ぱらぱらと転がして広げてはよく三蔵に怒られるのだけれども、今日は何故か怒られないからそのまま広げっぱなしだ。
三蔵の執務室はあっという間に悟空の広げた、紅葉やら銀杏やらどんぐりだらけ。

「めっずらしーこともあるんだな。」
「………。」
「そだ。三蔵!じゃあさ、どっか行こうよ。」

すっくと悟空が立ち上がると、悟空の膝の上にあった紅葉や銀杏、どんぐりたちがはらりはらり、ばらばら。それぞれ重力に抗いもせずに落ちた。

「行かねぇよ。」
「えー!?だって仕事休みなんだろ?だったら、折角なんだから外行こうぜ?そのうち誰かが急ぎの仕事です〜〜とか行って、駆け込んでくるぞ?」

それは毎回のパターン。
三蔵の仕事が何もない日は滅多にない。
今まで何回かあったはあったのだが…。
部屋で三蔵が新聞を読んでいると、大抵急ぎの仕事が運ばれてくるのだ。
慌てて困ったような顔をした、寺の小坊主達の手によって。
来ないときもあったけれど、ほとんどきていた気がする。

「こねぇよ。」
「なんでわかんだよ?」
「うるせぇ。いいから黙ってお前はそこでそうしてろ。」
「…なんだよー三蔵のケチ。もういいよ。わかった。俺、悟浄達ントコ行って来る。」

そう言うや否や、くるりと三蔵に背を向けた悟空を、三蔵はメガネの向こうの瞳でちらりと見た。
ちらりと見て―――小さくため息を一つ。

「おい。悟空。」
「ん?」

悟空がくるりと振り返る。
振り返り様、悟空の長い髪の毛がはらりと宙を舞って。
振り返った悟空が、不思議そうな瞳で三蔵を見た。

「…こい。」
「何?」

呼ばれるまま、悟空はてくてくと三蔵に近づく。
近づいて―――あと一歩。
近づけば、三蔵の目の前。
手を伸ばせば、とっくに届いている距離。
そこで立ち止まった。

じっと、自分を見る紫暗の瞳に、足がすくんだ。

「さんぞ?」

真剣な三蔵の瞳が、メガネの向こうから自分を見ていて。
くらりと、眩暈さえ覚えた。

「な…に?」

ゆったりと、三蔵の手が伸ばされて。
悟空の手首に、三蔵の長い指が絡みついた。
その三蔵の手の冷たさに、びくりと悟空の体が震える。

「今日は外に出るな。」
「なんで?」
「ココに―――いろ。」

驚いた。
驚きすぎて、言葉を失ってしまうほどに。
今まで三蔵の口から、そんな言葉が出たことあっただろうか?
いや、ない。一度も聞いたことがなかったから。
悟空の黄金色の瞳が見開かれて、じっと。じっと三蔵の瞳を見返す。
その悟空の瞳から三蔵は瞳を反らして、再び新聞に目を移す。

そんな三蔵に悟空は少し考え込んだ後…そのまま、三蔵の腰掛ける椅子の横にずるずると座り込んだ。
ぺたんっと床に座り込む。
するとさっきまで自分の手首を掴んでいた三蔵の指がするりと解けて。
ぱたんっと、解放された腕が床に落ちた。
そして悟空は三蔵を見上げる。
相変わらずの無表情。何を考えているのかさっぱりわからない。
わからないけれど、機嫌が悪いわけではなさそうだ。

「三蔵、どうかしたのか?」
「別に。どうもしねぇよ。」

ぽんっと、悟空の頭の上に三蔵の手が乗せられて。
それにまた、驚いたように悟空は三蔵を見た。
自分を見ない三蔵の瞳。
さっきまでは冷たかった三蔵の手が、ほんわかと暖かくて。
悟空は自分も自分の頭の上に手を持っていった。
そして乗せられた三蔵の手に、自分の手を重ねて。
ぎゅっと握り締めても、いつもみたいに振り解かれないのが少し嬉しくて、にまっと笑う。

「なんで今日仕事ねぇの?最近はずっと朝早くから夜遅くまでしてたじゃん?」
「今日を空けたんだよ。」
「なんで?」
「さぁな。」

窓から冷たい風が吹き込んでくる。
ぶるりと身体を震わせて、悟空は三蔵の手を握り締めた。

「寒くね?」
「冬が近いからな。」
「窓閉めてもいい?」
「ああ。」

すくっと立ち上がって悟空は窓枠に寄った。
空は真っ青で凄く天気がいい。なのに吹いてる風は冷たくて。
ぱたんと閉めた瞬間、くいっと頭が後ろに引っ張られて、不思議そうに振り返る。
振り返った先。見えたのは、自分の髪のしっぽを掴む三蔵の手。

「三蔵?」
「なんだ?」
「今日、変だぞ?」
「知るか。」

ふんっと鼻を鳴らして、三蔵は新聞をばさりと机の上に放り投げた。
投げて、ついでにメガネもとってその横に置く。

「悟空―――。」
「え?」

そして悟空の名前を呟いて。
悟空はそんな三蔵の声を聞くのが初めてだった。
あまりにも不思議な声で、自分の胸をどきりとさせたものだから、驚いてしまって身体が固まってしまう。反応に困ってしまったのだ。
そんな悟空の細い腰に、三蔵は両腕を回して。

「ささささ、さんぞっ!?」

ぎゅっと抱きつくと、そのまま悟空の胸に自分の額を押し当てた。








あとがき
三蔵様のお誕生日に三空日記に書いたもの
11月29日にはたして「どんぐり」があるのかは
疑わしいですが………(遠い目)
私が道を歩いていたらみかけたのでよしとしました(笑)
でもちょっとだった。
何はともあれ、自分の誕生日だからと言えない三蔵様。
何年か後には自分から言い出しそうです。
ちょっと長くなった三蔵様B.D話の数年前のお誕生日ですねv

三蔵様お誕生日おめでとうございますv

2004/11/29 まこりん





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