■■■嫉妬




好きだという気持ちは、本当に突然溢れるもので。
少しずつ、少しずつ。
ゆっくりと。自分の胸を支配していくその感情は。
ちっぽけな自分の胸では、すでにいっぱいで、いつ溢れても、いつその想いが零れ落ちても、おかしくないと。
わかっていたから。




「最近猿がおかしい?」
「……あぁ。」

悟浄の間の抜けた声に、相談した相手を間違えたと…軽く三蔵は舌打ちした。
相談したというほどのことでもないが、つい、ぽろりと零してしまったのだ。
ただ用事があったから八戒と悟浄のこの家に来て、たまたまちょっと休んで行こうかと煙草をふかしたときだった。
帰ってきた悟浄が目の前に座り、なんとなくぼそりと呟いてしまっただけだったのだが…つい…とは言え、言う相手を間違えた。

「どこが?昨夜なんてうちの食料全部食うかの勢いだったし、相変わらず誰かさんの話ばかりだったし。どこか変わった様子はなかったと思うけれど?」
「………。」

疑うような瞳で悟浄を見れば、悟浄は軽く両手を挙げて嘘じゃねェって。と苦笑する。
そんな悟浄をフォローするかのように、八戒が奥から淹れたばかりのコーヒーを持ってきて三蔵の目の前にソレを置く。
そしてちょっとだけ首をかしげると、肩に乗るジープの頭を軽く撫でた。

「…どこもおかしいとは…思いませんでしたけれども。気になることは一つありましたね。」
「気になること?」

三蔵が口にしようと思った言葉は、悟浄の口から発せられる。
だからあえて三蔵は何も言わず、ただじっと八戒を見た。そして続きの言葉をじっとまつ。
二人の視線に苦笑して、八戒はゆっくりと口を開いた。

「いつまでも子供じゃないってことですよ。」

「は?あのガキが?」

こんな時だけは悟浄と同じ意見だ。
一体全体あのサルのドコが子供じゃないというのだ。
すぐに腹が減ったと騒ぎ、寺院の貴重品を壊し、どろだらけの傷だらけでどこかから帰ってくる。

「好きにも色々あるということです。」

にっこりと笑う八戒。
それと猿とどんな繋がりがあるというのだ。

「…だってサ。三蔵サマ。」

悟浄がにっと笑って、それが少し不快だった。
意味が通じていないのは自分だけだというのか。
三蔵は咥えていたタバコを、灰皿に押し付けて立ち上がった。
そろそろ寺院に戻らないと煩いし、色々と煩わしい。

「今日は悟空は一緒じゃないんですね?」

今更かと聞きたくなるような質問のタイミング。
今までココに来るときはいつも、悟空が一緒に来ていた。
来るなと言っても、それでも嫌だいやだと騒ぎ出して煩いため、結局連れてきていたのだが…。
今日は煩いのはごめんだと思って、最初から悟空に声をかけた。

『おい。八戒ンとこ行くぞ。』
『八戒ンとこ?あー…俺、今日はちょっと用事あるからいいや。』

その返事に正直驚いた。
まさかそうくるとは思わなかったからだ。
しかしこないというならこなくていい。
その分静かだし、エロ河童と煩くケンカもしないから話が早くすむ。
そう思って寺院を出たのだが…気になるのは気になるのだ。
こんなことは今回だけではない。
最近多いい気がする。

悟空が断る。ということが。

それがどーもおかしい気がするのだ。三蔵には。

「それがどーした?」

しかしソレをあえて口にはしなった。
振り返れば八戒が、読めない笑みでただそこで首を少しだけ傾けていて。

「いえ。別に意味はないですよ?ただ、珍しいな。って思って。」

「あ。それがおかしーって、三蔵サマも思ったからさっきあんなこと言ったワケ?」

悟浄がつられてにっと笑う。

なんだかムカッとして、何も答えずに舌打ちを一つだけした。
そしてさっさと八戒と悟浄の家をアトにする。
空を見上げれば既に陽は落ちていた。
タバコを咥えてももやもやはおさまらない。
おさまらないどころか、もやもやはイライラに形を変えた。

「ちっ…。」

もう既にクセになっている舌打ちをして。
足早に寺院への道を歩く。
ゆらりと揺れる紫煙に苛立ち、そのまま煙草を投げ捨てて足で踏み消した。

イライラする。

あの読めない八戒の笑顔に、そして悟浄のにやりとした口元に。



何よりも、最近自分と目を合わせない悟空に。


2005/6/21 まこりん




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