■■■てのひら (2) 



「なんでかな。俺、三蔵とこうするの好きだ。」

唇が離れると、悟空が小さな声で囁いた。
深い口付けによって乱れた呼吸が、三蔵の耳にかかる。
ぎゅっと三蔵の首に抱きついて、悟空が僅かに体を震わせた。

「こういうのってのは、どれだ?」

わざとらしく聞いてくる三蔵の、意地悪そうな声に悟空は軽く頬を染める。
抱きついた三蔵の首が微かに揺れているから、もしかしたら喉の奥で笑っているのかもしれない。

「頭を撫でられるのも、キスも、抱きつくのも。全部。」

そうこたえると、さっきまでは自分が一方的に抱きついていただけだったけれども、背中に三蔵の腕が回されたのがわかった。
その腕のぬくもりに、心のどこかがふわりと温かくなる。
さっきから鼻をくすぐっていた香とマルボロの香りに包まれたような気がして、それがまたどこか気恥ずかしい。
三蔵の首筋に顔をうずめていたら、耳に生暖かな感触がして、続いてぴちゃりと音がして。

「ひゃっ…。」

耳たぶを舐められたのだとわかった。
ぞくぞくと背中が粟立ち、脚に力が入らなくなる。
それでも三蔵の首に回した腕の力は緩めずに、そのまま必死に抱きついて。
そんな自分にわかっているのか、三蔵はわざとらしくまた音を立てて耳たぶを口に含んだ。
生暖かな三蔵の唇と歯が、絶妙な力の強弱で刺激を加えてきて…それだけで身体の芯が熱く火照る。

「あっ…さんっ…ぞっ…くすぐったいってば。」
「悟空…。」
「っ…!!」

ぞくりとして身体が跳ねた。
ぞくぞくと背中に走る何か。
耳元で囁かれた自分の名前。
自分の大好きな低い、心地よい三蔵の熱っぽい声で。

いやいやをするように顔を振ると、力の入らない手で三蔵の胸を押す。
さっきまで密着していたお互いの胸の隙間を僅かに作ると、さっきまでの息苦しさがなくなったが……どこか寂しくも感じて。
ちらりと上を見れば、紫暗の双眸に写る自分の顔。
急速に顔が熱くなった。
顔が熱くて、顔が熱くて、喉の奥がからからで。

そんな悟空に三蔵は微かに笑うと、開いた隙間からチャンスだとばかりに服の隙間に手を滑り込ませる。

「うわわわっ…!!」

熱く火照る肌に感じた三蔵の冷たい指。
悟空の体が再び跳ねた。
そして驚いたように三蔵の手首を掴むが、三蔵はそのままソレを無視して指を進ませる。
滑らかな悟空の肌を掠めるように三蔵の指は滑って。
荒くなる悟空の呼吸にはやる気持ちを抑えて。

「三蔵っ…ヤだ。気持ち悪い。」

掠れた声で悟空が訴える。
それに三蔵が顔を上げて悟空の顔を覗き込めば、真っ赤になって俯いたまま眉を寄せる悟空の顔が見えた。
少し指を止めて様子を伺い、また進ませる。
ぴくんっとはねる悟空の体を、悟空の腰に回した手に力を込めて支えた。

「気持ち悪い?逆だろ。それは感じてるっていうンじゃねェのか?」

かーっと悟空の顔が更に更に真っ赤に染まっていく。
それに三蔵は喉の奥でくっと笑った。
悟空は悟空で今自分の身に何がおこっているのか、いまいちよくわかっていなくて頭は混乱するばかりで。

前々から三蔵と目が合うと体が熱いとか、キスをすると身体の芯がうずくとか、そういうものはあったけれど。
こんな風に三蔵に触れられたことはない。
あの三蔵が。いつもいつも、触れたいと思っていた三蔵の髪が、指が、自分に触れてきているというのにも混乱したというのに。さっきから熱を帯びた自分の身体はまるで自分のものじゃないみたいだった。
混乱して思考回路が追いつかなくて、それは自分のみにおこったことに対する恐怖へと変わった。
変わったとたん、涙が溢れそうになる。

「いやだっ…!」
「おい。悟空。」
「何?」
「顔上げろ。」

言われたまま顔を上げると、うっすらと涙のたまった目尻をぺろりと舐められた。
それにまた混乱していると、再び口を塞がれる。
それに慌てて三蔵の胸を押すけれどびくりともしなくて。
自分の腰に回された三蔵の腕に力が込められたのがわかった。

あっと思ったときには持ち上げられていて。
足のつま先が床から離れる。
それに意識が向いた瞬間、唇を割って入ってきた三蔵の舌。
反射的に逃げようとすると追いかけられて絡めとられて…そして歯で軽く噛まれた瞬間、体がぶるりと震えた。
三蔵の胸を必死に押していた手にも力は入らなくなって。
だらりと落ちた手がやけに重たい。

「さんぞっ…。」

困ったように、何かを訴えるように三蔵の顔を見る。
けれどそのまま三蔵は悟空の身体を書斎の机の上に座らせた。

「悟空…。」
「…熱い。三蔵、俺、なんか変だ。」

紅く染まる悟空の剥き出しの脚に指を滑らせて。
先ほどのキスのせいで濡れる悟空の唇に指を近づけて。
そのまま形のよい唇を指先で撫でれば、悟空が瞳をゆったりと閉じた。

柔らかな頬のライン。
紅く染まるそれを。悟空の唾液で濡れた指で撫でる。
荒い悟空の吐息が、指にかかった。
とたんにぞくぞくと背中を這い上がる何か。

「さんっぞ…。」

悟空の弱弱しい手が肩にかけられる。
ぱさりと床に経文が落ちて、それに一瞬指の動きを止めて。
ちらりと見ると、ソレを拾い上げて丁寧に丸める。
そして棚の上において、再び悟空の元へと戻ってきて…再び…悟空の頬をてのひらで包み込んだ。

とろんとした瞳で、悟空が自分を見上げている。
その瞳に写る、自分のなんとも言えない顔。

「俺が、怖いか?」
「………。」

静かに問いかけた自分に、ふるふると頭を横に振る悟空。
唇の端が緩む。
くっと喉の奥で笑うと、再び。

「ァっ…!」

悟空の唇を塞いで――――てのひらで悟空の脚を掠めるように撫で上げた。









あとがき
三蔵様キス大好きみたいです。いや、私が?
途中で力尽きないとよいのだけれど。
ってか久しぶりにエロ書いてるなァ…と実感がふつふつと。
このペースじゃあと2ページくらいいきそうで怖いですが
次で終わることを願って…(汗)

2004/10/30 まこりん



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