■■■voice


声が出ない。


出そうとしても掠れた音が出るだけだし、何より喉が痛い。
しょうがないから無言で体温計を見て―――――眩暈がした。
ハリセンで叩かれるのは目に見えていたから。















「風邪ですね。」

八戒がおかゆを乗せてきたトレイを置いて、俺から体温計を受け取るとそれが示した数字に眉を寄せた。
そんな八戒の言葉に、悟浄はとりあえず寝ろと俺に言って。
八戒もそうですね。と困ったように笑って。

ちろりと二人の向こう側にいる三蔵に目をやれば―――案の定。眉間にいつもよりも皺が三割り増しだ。

今日は朝からさっさとこの街を出る予定だったのに、俺がココで倒れたせいでその予定が狂った。いつものように俺を置いていくと言い出さないのは…きっと…そう言ったら俺はたとえ熱があろうと声が出なかろうと、三蔵についていくとわかっていたからだと思う。
三蔵はよく置いていくというけれど、こういう時は絶対言わない。
たぶん…そう言ったら俺が無理をしてでもついてくるからだと思う。
それは三蔵の優しさ…だと思いたい。
病人がついてくるのが足手まといだとか、思っているのかもしれないけれど、それはあまり考えたくなかったりする…けれど、やっぱ、そうなのかな?

あーダメだ。

やっぱりちょっと弱気になってるのかもしれなかった。

「悟空なんか食べたい物ありますか?買い物に行ってきますので、あれば買ってきますよ。」
「………。」

口をパクパク動かしても、八戒は困ったように笑うだけだ。
悟浄は悟浄で、何?お前声やられてンの?と、同じように笑うだけだった。
ちょっと困って、もう一度ぱくぱくと口を動かす。
でもやっぱり、八戒も悟浄も同じような反応で…。
もー食べ物ならなんでもいいか。とちょっと諦めたとき。

「八戒。タバコが切れた。あと――――桃の缶詰。」

後ろから聞こえてきた低い声に、八戒が驚いたように振り返る。
悟浄も同じだった。
空になったタバコの箱を握り締めて、三蔵が舌打ちを一つ。
タバコが切れたからついでに買ってこいってのは、いつものことだ。
だが、その言葉の後につながった、三蔵は決して口にしなそうな食べ物はなんだというのだ。
そんな三蔵の顔を見た後、八戒は驚いた顔のまま今度は俺の顔を見て。
だから俺は大きく2,3度頷く。

「………わかりました。」
「あ、俺もー。」

ジープを肩に乗せて、八戒と悟浄が部屋を出て行こうとする。
その二人の後ろについて、さっさと自分の部屋に戻ろうとした三蔵に、八戒が笑っていった。

「じゃあ、三蔵は悟空の看病をお願いしますね。」
「なんで俺が。」
「だって僕と悟浄は買い物に行ってきますから。」
「可愛い猿が病気で寝てるんだぜ?ついててやろーって気は………うわっ!たんま。」
「さっさと行け。」

悟浄の額に押し当てた銃をひっこめると、八戒と悟浄はさっさと部屋を出て行ってしまった。
その二人の後を追うように三蔵も足を動かして………。
扉に手をかける。

嫌だなって、思った。

このまま三蔵が出ていってしまうのが、なんでか嫌だなって思ったんだ。
じーっと、三蔵の背中を見つめて、揺れる法衣の裾を眺めて。
伸ばしたいけれどもそれもできない手に、力をこめる。

「………。」

声が、出ない。

「………。」

声が出なくて、名前が呼べなくて。

三蔵。

もう一度。

三蔵。

振り返って。

止まって。



ここに、いて―――。



なんだか胸が苦しくて。
熱のせいなのかもしれないけれど、少し寂しくて。
一人に、なりたく、ない。

傍にいて欲しい。

三蔵に。

「………。」

そして扉を押し開いた三蔵の手が、止まる。
そしてこの静かな空間でなければ聞こえなかったかもしれないほどの、小さな小さな三蔵のため息が聞こえた。

ぱたん。

音が響いて。
三蔵が振り返る。

「っとに…てめェは…うるせェ…。」

苦しかった胸が。
重たかった胸が。
ぱぁっと、軽くなった気がして。
さっきまでの辛い、重たい物ではなくて、もっと幸せなもので胸がいっぱいになって。

自然と頬が緩んだ。

「八戒たちが戻るまでだ。」
「………。」

声が出ない。

声が出ない。

だから、この嬉しさを笑顔で表現するしかなくて。

三蔵。
俺、やっぱ三蔵が好きだ!

すたすたと俺の寝ているベットまで近寄ってきた三蔵が、どさりと俺のベットの端に腰掛けた。
そしていつものように法衣の袖からタバコの箱を取り出して。
一本取り出すと口に咥える。
でも、火はつけなかった。
俺から視線をそらして扉の方を見たまま、眉間に皺を寄せて。

さっきタバコの空箱握り締めてたのに。
八戒に頼まなくたってあったのに。
いつもならとっくに火をつけてるのに。

ありがと。
そして三蔵、大好き。

「さっさと寝ろ。」

起き上がってた身体を、どさりと布団に押し付けられる。
そしてそのまま熱い熱い額に、三蔵の冷たいてのひらが押し当てられた。

キモチガイイ。

冷たい三蔵のその手が。
冷たいからって、理由からだけじゃなくて。

キモチガイイのだ。
三蔵の手は。
いつだって頭を撫でられたりするのが、凄く気持ちいい。
それはとても優しいから。

笑いが止まらない。
笑いが止まらなかった。
熱で頭がおかしくなってしまっているのかもしれないけれど。



いつだって俺の声は、三蔵に届いてる。





>>>あとがき

4回目の参加のまこりんです
ここまで読んでくださった方ありがとうございましたv
テーマ『ボイス』より
そのまんまのタイトルで相変わらずタイトルのセンスなさに笑えてきます。
三空といえばお約束なネタですがコレが限界でした
そして相変わらずの三空というよりも三&空ですねv
たまにはバカップルも書いてみたいです…


2004/12 まこりん



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