| ■■■ red 「ネルさんの髪の色って何色だろうね?」 「………赤…じゃないのかい?」 突然のフェイトの言葉に、ネルが不思議そうな瞳をして答える。 そんなネルに、フェイトは自分は全然おかしなコトを言っていない…そんな顔で笑った。 「だって『赤』ってヒトコトで言うには違ういますよね。」 「…でも…『赤』は『赤』だろう?」 キャベツを刻む手を止めて、持っていた包丁をそのまままな板の上に置いて。 ネルはフェイトの方にと向きなおった。 「『赤』にも色々あるじゃないですか?血のような『赤』とか、夕焼けのような『赤』とか。『真紅』ともまた違いますし…ネルさんの髪の色は、何色でしょう?」 「そんなの別にどうだっていいじゃないか。」 「よくないです。だってネルさんの髪の色って見る度に違うんですよ?」 益々フェイトの言っていることがわからない。 ネルは軽く溜息をついた。 こんなくだらない討論になるなら、さっさと料理を続けていればよかった。 一瞬でも興味を持ってしまって、振り返ってしまったのが悔しい。 ネルは再び包丁を手に取ると、キャベツに手をかけた。 「見る度にって…それはただ光の加減でだろう?」 とんとんとんとん。 規則正しいリズム。 フェイトはネルの背中をじっと見ながら、イスの背もたれに乗せた顎を前に突き出した。 腕は背もたれにまわして抱きつくような姿勢。 つまりイスに座る方向が、本来の座り方と逆になっていた。 これはフェイトのクセなのか…いつも食事時以外はよくこうやって座っている。 それが何故なのかはネルにはわからなかったけれど、今はもう慣れてしまっていてあたり前の光景になっている。 「それもあるのかもしれないけれど。でもやっぱり違うよ。戦闘中は燃えるような『赤』なんだけど、夜は艶っぽい『赤』なんだ。でもヒトコトで『赤』なんて言うにはやすっぽすぎて…もっと高貴な感じ…でもそんなに気取った風でもなくて…。」 「やれやれ。益々ワケがわからない奴になったね。あんたは。」 「なんていうのかな?『ワインレッド』…違うかな?『赤紫』でもないし。明るい『赤』って言うには、やすっぽいしイメージしゃないし…。暗い感じだよね?でもって深い…深い赤。黒…灰色っぽいイメージがあるけど、汚いイメージじゃないから。」 フェイトの言葉にネルは手を止める。 言われてふっと気が付いたからだ。 同じ『赤』でも色々あるのだと。 赤を表現する言葉は沢山あるのに、これがそうなのだとぴったりくる言葉がないなんて…無限にある色すべてに名前を付けるなんて無理なのだろうか? 「深い…赤…?あっ…そうか。」 「わかったのかい?」 とんとんとんとん。 ネルが切り終わったキャベツをザルにあげて、次に玉葱を切り始める。 つんとしたその刺激に、ネルは瞳を細めた。 「ダークレッド!そんな感じだ!」 「そうかい?ならよかったね…。疑問がひとつ解決したわけだ。」 「冷たいね。ネルさん。」 カタンっと…フェイトがイスからたち上がる音がする。 それにネルは気がついたが、たいして気にも止めなかった。 そのまま玉葱を薄くスライスしてしく。 「どうして急にそんなこと考え………。」 ぴくんっとネルの肩が揺れる。 ふわっと…玉葱の香に紛れて、フェイトの香が鼻を擽って…。 ふっと手元に影ができる。 そして後にフェイトの気配。 「どうしってって…こうして…。」 すっと影が揺れた。 頬に感じた風に、ネルが瞳を見開く。 「『ダークレッド』の髪に僕の指が絡むのが好きです。」 耳もとの髪をヒトフサ。指で掬われる。 そして耳元で囁かれた言葉。 ネルの動きが―――止まった。 「って言いたかったからなんです。」 ぱさりと。頬に髪がかかる。 その瞬間、ネルははっとしたような顔になって、一気に頬を紅く染めた。 「な、な、なに…言って…」 それを見たフェイトが、楽しそうに、おかしそうに笑う。 そんなフェイトにネルは益々頬を染めてしまって。 いつもの彼女とは違った1面に、フェイトは満足そうにまた笑った。 「あははは。ネルさん、手元、危ないですよ?」 「えっ!?あ…。」 慌てて包丁をまな板の上に置いて、ネルは振り向く。 「んっ!?」 そして唇に柔らかな感触。 目の前に広がるフェイトの顔に、楽しそうな瞳。 その瞳が、フェイトの深い紺の髪と、ネルのダークレッドの髪の隙間から見える。 その不思議な魅力に、色気に、ネルの胸が小さく音をたてた。 唇が離れて―――フェイトのにっこりと笑った顔が見える。 その笑顔に、ネルは呼吸が出来ない。 からかわれているのか、本気なのか。 フェイトのよくわからない言葉と、行動に、ネルは口許をおさえた。 唇に残る、生々しい感触がそこにはまだはっきりと残っていて……。 「ちなみに僕の髪とあなたの髪が交わるのも好きです。」 「あんた……。」 カタン…一歩後ろに引いた足が、キッチンにあたる。 そこではっと我にかえると、ネルはマフラ―に顔を埋め…慌ててその部屋から飛び出した。 ばっと翻るネルのマフラーの端。 それを見送りながら、フェイトは堪えきれなそうに唇の端を持ち上げる。 「かわいいなぁ〜やっぱり。」 ネルのきりかけの玉葱に、フェイトは目を移す。 つんっとしたその玉葱の液に、まるでネルみたいだと思った。 「このままだと苦くて目は痛いけど…焼けば甘くなるしね。」 あとがき |