| ■■■ flower 「ありがとう!」 「………どういたしまして。」 可愛らしい声と、聞き慣れた人物の、聞きなれない声にフェイトは振りかえった。 暗く紅い髪をさらりと揺らしながら、目の前の人物の目の高さに腰を折って、ネルが微笑む。 その笑顔がまた滅多に見られないような…高貴な花が咲いたような笑顔で。 そのネルの笑顔に、空色の髪をした少女が嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。 そして少女は両手にかかえた沢山の花の中から、一本の花を摘むとそれをすっとネルにさしだす。 目の前に出された、一輪の白い可憐な花。 「……くれるのかい?」 「うん!」 にっこりと笑って少女が頷く。 少女の後ろの方ではその少女の母親なのだろう、困ったように笑いながらぺこりと頭を下げた。 さしだされた一輪の花を指でそっと受けとって、ネルは笑う。 「ありがとう…えっと…お姉ちゃんはネル。あなたのお名前は?」 「リラだよ!ネルお姉ちゃん!」 「リラちゃん。ありがとう。」 ネルの言葉に、母親が慌てたように大きく頭を下げる。 クリムゾンブレイドのネル・ゼルファーの名前は有名でも、こんな田舎の村にすんでいる者では、ネルの姿など見たことがなかったのだろう。 ネルの名前を聞いて、母親が顔を真っ青にする。 自分の娘の非礼に慌てて詫びを言って、少女の手を引くとさっていってしまった。 手を振る少女に軽く手を振りながら、ネルは笑う。 そんなネルの笑顔を見ながら、フェイトも顔を綻ばせた。 「どうかしたの?」 「ああ…今あの子がぶつかってきてね。たぶん花のせいで前が見えていなかったんだと思う。それで散らばった花を拾ってあげたのさ。」 「ふぅん……。」 さっきまでの少女に向けていた笑顔はどこへいったのやら。 いつものネルに戻って、スタスタと歩き始める。 男の自分と大差ないネルの歩調に合わせながら、フェイトも歩き始めて。 ゆらゆらと視界の端で揺れる紅い髪。 一緒に歩くとネル愛用の香りが鼻を掠める。 それは隠密行動に支障が出るからと、香水類はいっさいつけなかったネルが、唯一もっている愛用の香水の香だ。 香水はつけないと知らなかったフェイトが、ついネルにプレゼントしてしまったそれ。 それをネルがつけるのはこうしてオフの日の、フェイトと一緒に過ごす日だけ。 それを知った時、フェイトは凄く嬉しかった。 でもそれを口にしたらきっとネルはもう一生つけてくれないだろうから、口にしたことはないけれど。 甘くてそれでいて爽やかな、フェイトの好きな香。 それを好きな人が、自分と会う時にだけつけてくれているのだ。 嬉しくて仕方ない。 「でも…なんかちょっとあの子に妬いたな。」 「……何を言ってるんだい?」 「だってネルのあの笑顔は、僕にだって滅多に向けてくれないのに。」 拗ねたようにいうフェイトに、ネルは一瞬呆気にとられたような顔をして…次の瞬間笑い出した。 横を歩くフェイトの背中を軽く叩いて、ネルは可笑しそうに笑う。 「ばかだね。」 「ネルの笑顔をひとりじめしたいから。」 「あははは。」 「笑いすぎ…ま、いいけどね。今日はネルの意外な一面を見られたから。」 「意外な一面?」 いつものようにネルが顔を上げる。 愛用のマフラーの隙間から、ネルの細い首が見え隠れする。 フェイトはにまっと笑うと、ネルのてのひらに自分のソレを滑り込ませてぎゅっと握り締めて。 その手をネルがじっと見ると、口許を緩める。 「子供好きなんだ?」 「嫌いじゃないよ。」 「好きでしょ?」 「………。」 「あぁ…。」 マフラーに口許を埋めて、ネルが頷く。 子供好きなことのどこが恥ずかしいのかフェイトにはわからなかったが、ネルのこんな反応も自分だけのものだ。 ぎゅっと手を握り締めて、フェイトは開いた手でネルが持っていた1輪の花をすっと掴む。 そしてそれをネルの鼻の前までもってきて、くるくると回転させた。 「子供好きなら、つくろうか?」 「………は?」 「ネルならきっといい母親になれるよ。」 くるくるまわる一輪の花。 ネルの耳が真っ赤に染まった。 あとがき |