| ■■■ マフラー 「フェイトっ!?」 真っ赤な頬で額に汗を浮かべるフェイトに、ネルは慌てて声をかけた。返事はなく、それどころかなにやら苦しそうな呼吸だけが聞こえて。ネルはフェイトの額に手を当てると、小さく舌打ちをした。 朝ごはんの時間になってもフェイトが宿の2階から降りてこないと、不安そうにネルに持ちかけたのは彼の幼馴染だった。様子がいつもと違うからみてきてくれと頼まれて、途中の朝食もそのままにネルはフェイトの部屋へとやってきた。 扉をいくら叩いても返事はなく、静まり返った扉の向こう側。どこかに朝から散歩にでもでかけているのかもしれないと思った矢先、小さくフェイトの声がした。何を言っているのか聞きとれないほどに、それは小さな声で。 不信に思ったネルが、歩き始めた足を止めて振り返った時だった。 どさり。 と、大きな物音が扉の向こうから聞こえたのは。扉を開けて入ろうか一瞬戸惑ったが、そんなことを言っててフェイトに何かあったのなら取りかえしがつかない。ネルは鍵のかかっていない扉を勢いよく押し開けた。 とたんに目にはいってきたのは、ベットからずり落ちたのかベットの床に寝転ぶフェイトの姿で。 「イタタ…。」 うめくような声を漏らしながら、フェイトが眉を寄せていた。 「フェイト!?アンタ何やって…!!」 慌ててネルはフェイトに駆け寄る。ぐったりとしたフェイトはどうみてもいつもと様子が違う。だるそうに虚ろな瞳で天井をみるフェイトを抱き上げれば、フェイトの身体はぐっしょりと濡れていて。寝間着越しでもわかるほどのその濡れ具合にネルは瞳を見開いた。 「アンタ熱っ…!」 真っ赤な頬でフェイトが苦笑する。ぐっしょりと濡れたパジャマは、その熱のせいなのだろう。呼吸を軽く乱すフェイトに、ネルは再び舌打ちをして。 「ははっ…すみません…。扉を叩く音と…ネルさんの声が聞こえたんで、起きようと思ったら…ベットから落ちちゃいました…子供でも無いのに…恥ずかしいです…。」 「この熱で無理なんてしようとするから…!!」 慌ててネルはフェイトを抱き上げようとする。とりあえずベットに寝かさなければ。そう思ったのだ。だがしかしいくら細身のフェイトといっても、ネルの力で抱き上げるのは難しかった。 「フェイト?少しはたてるのかい?」 「う…ん。ちょっとふらつくだけですから…たてますよ。」 ネルのかしてくれた肩に支えられながらフェイトは立つ。そしてベットに戻ると、再び布団の中に潜りこんだ。ネルはその様子を見て、どうしようかと悩む。 今起こした時、フェイトの身体が重かった。あたり前と言えばあたり前なのだが…フェイトの性格上、女であるネルに全体重をかけるなんて…よっぽどのことだと思ったのだ。寄りかかる時もネルに負担がかからないようにうまく寄りかかったり、ネルを抱く時もネルを潰さないように方腕に力を込めていたり。そんなフェイトの心遣いが、今はなかった。いや、している余裕もなかったのだと思う。 「熱があるね…。」 フェイトの額から手を退けると、ネルは考え込んだ。取り合えず医者だ。ここは自分のテリトリーでは無いから、どうやって医者をつれてこようか?そんなことを考えはじめた時だった。 「ねる…さん。」 「なんだい?何か欲しい物でもあるのかい?」 「大丈夫ですから…心配しないでください。ちょっと体調くずしただけです。」 「でも…とりあえず医者を連れてくるから。皆にも知らせないと…。」 「ヤ…だ…。」 辛そうに首を振るフェイトにネルは困った様に笑う。 「何子供みたいなこと言ってるんだい?」 「……ちが…。ネルさんがここにいてくれればいい。」 「ばかなこと言ってんじゃないよ。私は医者じゃないから、あんたを治すことはできないんだよ。とにかくここで…。」 ふらりとフェイトから背を向けようとしたネルの手首を、フェイトがぎゅっと握り占める。 そして上半身を軽く起こすと、フェイトはネルのスカートもぎゅっと握り締めた。 そのフェイトに、ネルは困惑した瞳を向ける。 「でも…それでも、あなたがココにいてくれたら…んっ…。」 「フェイトっ!?」 くらりと揺れるフェイトの身体。 ネルの手首を握り占めていたフェイトの手が、力無くベットに落ちる。 「フェイトっ…!ちょっと……。」 崩れたフェイトをきちんと寝かそうとしたネルの手が止まる。 自分のスカートをきつく握り締めるフェイトの手。 掴まれた手首に感じた、ベタベタした掌。 フェイトの額に浮ぶ玉のような汗。 そっと自分のスカートを握りしめているフェイトの手を降ろして、ネルは唇を噛み締めた。 フェイトの顔は真っ赤で、そして額に浮かんだ玉のような汗。 「ネ…ルさ…。」 ぎゅっと噛み締めた唇を唇で舐めて。 ネルは自分の首に巻いていたマフラーをさっと解く。 「フェイト、すぐ戻ってくるから。それまで…コレを預けておくよ。」 フェイトの力ない手に、マフラーを押しつける。 クリムゾンブレイドの証。 自分の――――存在意義。 そのマフラーを握り締めたフェイトの瞳が、うっすらと開かれて。 唇の端に浮かぶ笑みに、ネルはさっと踵を返した。 「たいしたことなくてよかったよ。」 「その節は…ありがとうございました。」 少し照れくさそうに笑うフェイトに、ネルからも自然と笑みが零れる。 胃腸に優しい食事をとりながら、フェイトは傍らにおいていたマフラーに視線を移した。 マフラーのないネルの首許が寒そうで。 「そうそう。コレ、ありがとうございました。」 「役にたったならいいんだよ。」 「ネルさんの香がした。」 「………そうかい。」 フェイトの言葉に、ネルの頬が紅く染まる。 それにフェイトは微笑して。 そんなフェイトの仕種に、ネルは益々顔を赤く染める。 「そ、それにしても、ちゃんと食べられるようになってよかったよ。」 「えぇ。」 「アンタ薬ものまないから、すごくてこずったんだよ。」 「あまり記憶にないからなぁ…。で…どうやってのませたんですか?」 わざとらしいフェイトの笑みと質問に、ネルの顔は益々紅く染まるばかりで。 わなわなと肩を震わせ始めたネルに、フェイトはたまらず吹き出した。 「あ、あ、あ、アンタ覚えてるんだろっ!?」 「そりゃあ〜ねぇ…?」 にまりと笑うフェイト。 フェイトの傍らにあるマフラーをがしっと鷲掴みにすると、ネルは勢いよく立ち上がった。 ガタンっとネルの座っていたイスが倒れるが、そんなイスには目もくれずネルはさっさと部屋から出て行こうとする。 「あ、ネルさん!」 「なんだい!?」 怒ったような声のままネルが降りかえる。 食事と一緒に出された薬の袋を手に取ると、フェイトはにまっとイタズラを思いついた子供の様に笑った。 「薬を甘いと感じたのは初めてですよ。」 「もう一人でのみな!」 「苦いのは苦手なんですけど?」 「知らないよ!そんなことはっ…!!」 バタンっ! 扉が勢いよく閉まる音と、フェイトの吹き出したような笑い声が、 廊下を走ろうとしたネルの耳に届いた。 あとがき |