| ■■■ reason 「あの子が…マフラーをフェイトさんに?」 品の良い高貴なイメージのある黒銀の髪を揺らして、クレアは振り返った。 振り返った先には顔を綻ばせる、蒼い髪の青年がいて。 「ええ。僕が具合が悪くて寝ていた時に、貸してくれたんです。大切なマフラーだと思うんですね。だって彼女がそれを外したところは見たことがなかったから。だからなんだか…嬉しくて。」 嬉しそうに顔を綻ばせるフェイトに、クレアは瞳を細める。 柔らかな頬に僅かに朱を灯して、クレアは紅茶の注がれたカップをフェイトの前へともってくる。 それをフェイトは軽く礼をして手にとった。 ゆらりとゆれる湯気が、暖かそうで。 「…フェイトさん。私たちクリムゾンブレイドが、何故マフラーをしているのかわかりますか?」 クレアは自分のカップを手に取ると、窓際へと歩く。 湯気の揺らめくそのカップを口許に持っていくと、窓の外に広がる雲ひとつない空を見上げた。 爽やかなその空に、再び瞳を細める。 「そういえば…いつも皆さんしていますよね?それがクリムゾンブレイドの証なんでしょう?」 フェイトも紅茶を口に含む。 その熱に僅かに眉を寄せながらクレアの背中を見た。 ユラリと揺れるクレアの黒銀の髪。 マフラーがふわりと舞った。 「それもあります。けれど一番の目的は、急所を護る為。隠密である私達はなるべく人前で急所をさらすことを避けます。首は人の急所のヒトツですから。」 「ああ…言われて見ればそうですね。ココはアーリグリフと違って寒くも無いのにマフラーをしているのは、そんな理由からだったんですか!」 フェイトの反応にクレアはふふっと笑う。 空のカップを適当な場所におくと、壁に寄りかかる。 クレアの笑みを、フェイトは不思議そうに見た。 「そうです。では…クリムゾンブレイドがマフラーをはずすのは、一体いつでしょうか。食事の時も、陛下の御前でも、礼拝の時でさえも、マフラーを外しません。さすがに入浴時は外しますが、就寝の時でさえ外さない者もいます。」 クレアの言葉に、不思議そうな顔をしていたフェイトの顔色が変わる。 綻んでいた顔はいつの間にか真剣なものになっていて。 「………いつ?誰の前で?私達は外すのでしょう。」 コクリと、フェイトの喉がなる。 脳裏に浮かぶのはネルの顔。 マフラーを預けてくれた時の力強い声。 『フェイト、すぐ戻ってくるから。それまで…コレを預けておくよ。』 大切な大切なマフラーを、預けてくれたネル。 それは…何故? 「クレアさん!!」 「わかっていただけましたか?」 フィェトの声に、クレアの顔がにっこりと微笑む。 真剣な眼差しは、聖母のような眼差しへと変化していた。 「あの子は本当に仕事以外のことに関しては不器用な子なんです。自分の想いを口にするのは本当に……下手なんです。フェイトさんにはもうわかっているかもしれませんが、凄く照れ屋なところもありますし…こと、恋愛に関しては。人の為、国のために行動できても、自分のために行動することができないんです。仕方を知らないとも言うのかもしれません。」 カタンと音を立ててフェイトは立ち上がる。 ネルさん。 ネルさん。 ネルさん。 頭の中はネルの顔でいっぱいで。 目の前で笑うクレアに軽く会釈する。 「クレアさん!いつも、本当にありがとうございます。」 「分化の違いというものは、うまくいくものも、うまくいかなくしてしまうものですから。」 あの時ネルが預けてくれたマフラー。 ネルの香のする、あのマフラー。 あれはネルの気もちだ。 ネルの、ネルの…自分に対する気もちだ。 「僕らの式には是非!」 「あの子がマフラーを外すのを見るのは私も初めてです。」 にっこりと微笑むクレア。 ネルさん、あなたはなんて素晴らしい友を持っているのでしょう。 マフラーと一緒に僕に渡された気もち。 このままマフラーと一緒に返してしまうことにならなくて良かった。 自分の急所も何もかも。 曝け出してもいいと、思ってくれたのでしょう? 僕に。 僕を。 好きだと。 僕と。 これからもずっと一緒にいたいと。 思ってくれたのだから。 あとがき |