| 「ネルさんっ!」 ふわりと風が吹いた。 花の香に紛れて、愛しい人の声が聞こえた。 自分の名前を呼ぶ、少し幼い、柔らかな声。 とくん…と。 てのひらを押し当てたお腹で、鼓動が聞こえた気がした。 ■■■ Destiny act.8 「待ってください!!」 「………フェイト。」 振りかえると、汗をたらしながら息を切らして走ってくるフェイトがいた。 呼吸を乱して、真剣な瞳で、かけよってくるフェイト。 見なれたマフラーを握り占めて、そのマフラーを風に靡かせながら、彼は走っていた。 それに自然と笑みが零れて、何故か瞳が潤んだ。 「ばかだね。」 「ばかでもいいです。」 はぁ。はぁ。と呼吸を乱して、フェイトがネルの前に立つ。 零れる汗を…拭ってやろうとして、自分の首に巻かれたいつものマフラーがないのに改めて気がついた。 苦笑してポケットから布キレをとりだすと、ソレでフェイトの汗を拭う。 するとその手を、フェイトがぎゅっと握り締めた。 その熱に、一瞬どきりとして。 「なんで黙ってでていくんですか。」 「………何を?さよならは…あの日にしたはずだろう?」 ネルが微笑う。 言われて見れば暖かな、どこか優しい自愛に満ちた笑顔な気がした。 ここにきてそう言うネルに、どこか試されている気もする。 フェイトは真剣な瞳のまま、ネルの顔を覗き込んだ。 「………ネルさん…お腹に…触れてもいいですか?」 「っ……・。」 「僕にその資格があるのなら。」 ネルの手を握り占める手に力を込める。 一瞬戸惑った顔をした彼女の瞳を覗き込んで、真実を見極めようとして。 「いいよ。」 微笑む彼女に、泣きそうになった。 込み上げてくるこの気持ちを、どう表現したら良いのだろうか。 恐る恐る…少し触り方に戸惑ったけれども、ゆっくりと…指先で触れてから…てのひら全体で包み込んで。先ほどロザリアから受けとったネルのマフラーをそっと押し当てた。 「それ…受けとってくれたんだね。」 「これは…僕がもっていてもいいの?」 「それは私の命。私の全てだから。だから…あんたに持っていてもらいたいんだよ。私達が戻ってくる日まで。」 じんわりと暖かなネルのお腹。 ソコから伝わる体温。 熱。 まだぜんぜん…そこに命があるなんてわからないけれども…。 それでも確かに。 ここには命が有るのだろう。 否定しないネル。 優しい笑み。 『私達』と言ったネルの言葉。 それだけで確信した。 「…僕が…待っていてもいいの?」 「待っていてくれるなら、それが一番嬉しい。」 「ネル…。」 さわりとお腹を撫でて、あいた手でネルの頬を優しく包み込んで。 じっとネルの瞳を見つめると、自然と瞳が潤みそうになる。 愛しくて―――そして込み上げてくる感情の波に泣きそうだった。 僕に待つ資格があるのなら。 ここにある命はやっぱり…僕とあなたの――-。 「ネルさん…好きです。本当に…本当に…あなたが、好きなんです。」 優しく額に、瞼に、頬に口付けて。 伏せられたネルの瞳。 啄ばむ様に唇に口付けて。 あの夜と同じ、拒まないネル。 自分のお腹に押し当てられたフェイトの手に、ネルは手を重ねる。 そんなネルを、フェイトは抱き締めた。 片方の腕はその細い腰に回して、片方の手でネルのダークレッドの頭を掴むと自分の首許にネルの頭を押し当てる。 強く抱き締めたら、折れてしまいそうなほど細いネルの身体。 あの夜もソレを感じたけれど。 今はもっと細く、儚げな感じで。 耳元でネルの吐息を感じた。 「ネルさん…あなたは?」 あの夜よりも…ネルが近くにいる。 そんな気がした。 今までで一番、近付けている気がする。 身も。心も。 「私は―――あんたを………。」 優しく耳に木霊したネルの少し低い優しくい声。 「愛してる。」 彼女を抱き締める腕に、力を込めた。 end あとがき |