| ■■■ だだっこ 街について、フェイトは小さく溜息をついた。 安心したように。というのが正しい。 正直今までの生活とは違うこの生活は、自分にとっては肉体的に辛かった。 整備された環境で育った自分に、この自然の中で…しかもモンスターと戦いながら。というこの生活は、正直肉体的には限界にきていたのだ。 それにここのところ眩暈がよくする。 この星の空気が合わないのかとも思ったが、そうではないらしい。 頭痛と眩暈。 それが頻繁にきていて…どうやら、嫌でも認めなくてはならかなった。 自分の体力の限界を。だ。 さっきも戦闘中だというのに軽く眩暈がして、クリフが助けてくれなかったらモンスターの攻撃をくらっていたかもしれない。 だから少しでも安心できる街に早くつきたかったのだ。 「おい、フェイト。」 「なんだよ。」 クリフに声をかけられて、顔を上げる。 くらりと足元が揺れて、軽く足を踏ん張った。 それにクリフは気がついたのか、ついていないのか。 軽く眉を寄せると、フェイトの腕を掴んだ。 「あっちに宿があるらしい。お前先に休んでいろ。」 「え?でも、回復アイテムの買い出しを先に…。」 「俺とネルでいく。いいから行け。身体、調子悪いんだろ?」 「大丈夫だってば!」 少し声を荒げたフェイトに、クリフはしまったといった顔を一瞬見せた。 言い方が悪かった。とでもいいたげにフェイトを見ると、ぐいっと腕を引っ張る。 「フェイト。」 「大丈夫だってば。僕も行くよ。」 「あんたさっきもふらついてたじゃないか。私とコイツでいくからアンタは宿を先にとっておいてくれればいいから。」 「ネルさんまで…!」 クリフに捕まれた腕をひっぱりながら、フェイトは聞きわけのない子供のような瞳を二人に向ける。 それにクリフは溜息をついて、ネルはふっと笑うと胸の前で組んでいた腕を解き、腰に手を当てた。 「どっちにしろこんな時間だからね。はやく宿もとっておかないと、満室になってしまうんだよ。だから結局二手に別れるんだ。宿の方をあんたに頼みたい。それでも嫌かい?」 ネルの言葉にフェイトは少しだけ、唇を噛み締めて。 小さく頷いた。 「わかりました。宿の方は僕にまかせてください。」 それにほっとネルの顔が安心したように緩む。 その笑顔に、フェイトは唇を再び噛み締めた。 ネルにここまで気を使わせたことが、悔しかった。 まるで子供みたいで。 くるりと二人に背を向けると、たたっと軽く走る。 眩暈も頭痛も、今のところなかった。 宿に向かって走り出したフェイトの後ろ姿に、クリフはもう1度溜息をつく。 隣にたつネルの方へと顔を向ければ、ばちりと目が合って。 それに苦笑する。 これから自分が何を言わんとするか、とっくに察しが付いているらしい。 「いいよ。買物は私に任せな。あっちを一人にしておく方が不安だよ。」 「わりぃな。一人で持ちきれないほど買うなよ。」 「あんたじゃあるまいし。」 「だな。」 ひょいっと片手を上げてクリフがフェイトをおいかける。 その後ろ姿を見ながら、ネルはマフラーに顔を埋めて小さく。溜息をついた。 あんな子供みたいに聞きわけのないことを言った自分が恥ずかしかった。 宿の部屋をとって、案内された部屋でベットに腰掛ける。 持ってた荷物を全部床に投げ捨てて、目の前で組んだ拳を睨みつけて。 普段宿はネルがとる。 この辺で顔がきくのがネルだから。 しかもネルがいれば、宿がなくなることなんてない。 ここはシーハーツ領なのだから…なのに、ネルがあんなこと言ったのは…聞き分けのない子供に、体のいい理由を与えてくれたのだ。 「お前なぁ…。」 「クリフ!?」 開けっぱなしだったドアから、大きな男が入ってくる。 それはすぐにクリフだとわかった。 ぱたんと音がして、ドアが締められて。 「何子供みたいにだだこねてんだ。具合悪かったら悪いって言え。誰もソレが悪いなんて言ってねぇだろ。」 「ただ眩暈と頭痛がたまにするだけで、今は何ともないんだ。本当だよ。」 「………それでもするんだろ。はやめに寝て少しでも体調を整えようとは思わねぇのか?お前は。」 どさっと、クリフも荷物を投げ捨てる。 フェイトはクリフを軽く睨み付けた。 「煩いな。」 「しかも心配になってきてみりゃ案の定、寝てねぇし。いいから寝ろ。今すぐ。」 「そんなに心配しなくても大丈夫だって。」 「お前が倒れて迷惑するのはネルと俺だ。」 「……わかってるよ。」 ぽいぽいと服を脱ぎ捨てて防具の下の薄い生地だけになると、フェイトはもそもそと布団に潜りこんだ。 冷たい布団に身体が小さく震える。 「いい子だ。」 クリフの低い声が耳に届いて、フェイトはがばっと起き上がった。 イスに座ってこっちを見ているクリフに一瞬驚いたが顔には出さずに、さっき頭をのせた枕を握り締めると、クリフに向かって投げつけた。 「ばかクリフ!!!」 「いてっ!なんなんだよ。お前は。」 ばしっと枕を叩いて、クリフも声を上げた。 そしてはっと息を呑む。 顔を真っ赤にさせて、唇を少し噛んで、フェイトの様子がおかしかった。 「お前いっつもいっつも、いーっつも!!『いい子だ』なんて子供扱いして!」 「ああ?」 「それムカツク!!言うな!!」 「んなこと言ってもお前、どうみても子供だぞ。ソレ。」 「うるさいうるさいうるさい!!!」 ぼすっと布団に潜りこんで、フェイトは頭まで布団をすっぽりと被った。 ぎしっと音がして、クリフが近付いてくるのがわかる。 どうしてこんなに腹が立つのかとか、どうしてこんなに泣きたい気もちなのかとか、全然わからないけれど、さっきから腹がたって仕方無い。 「俺がいつお前を子供扱いしたって?」 「さっきも!僕が大丈夫だって言ってるのに、しつこいし!『いい子だ』とか言うし、『保護者だ』とか言うし…!!」 「なんだよ。お前それでそんなにご機嫌ナナメなのか?」 「うるさい!!」 クックックックっとクリフが笑う声が聞こえる。 それにかーっと身体が熱くなった。 頬も熱くて、頭も熱くて、もしかしたら全身真っ赤かもしれない。 「つまり子供扱いされたくないのか?」 「………。」 「俺に?ネルに?」 「………。」 「可愛いトコあんじゃねぇか?」 声音の変わったクリフの声にゾクリとする。 たぶんクリフはもうフェイトの横にたっているのだろう。 気配がした。 体格のいいクリフの、大きな気配。 息苦しさに瞳を閉じる。 ぎしりと床が軋む音がして、ベットが少し揺れた。 隣に、クリフが圧し掛かったのだと、わかって。 ばくんばくんと何故か高鳴る心臓。 自分の子供っポイ部分をみられたから、だから、こんなに恥ずかしくて胸が高鳴るのか。 クリフの顔がみたくなかった。 きっとにやにや、いつもみたいに、笑ってる。 「はやくネルさんとこいけよ。」 「今ここでお前を放っていけるほど、俺は鈍感でもない。」 「意味がわかんない。」 「お前、俺に惚れてんだろ?」 「はっ!?」 クリフの声に驚いて、がばりと布団から頭を出すと、顔の前にクリフの顔があって。 どきんっと大きく心臓が跳ねた。 クリフの太い腕は、いつの間にか自分の顔の真横にあって。 にやりとしたクリフの顔に、顔が一気に熱くなる。 「な、な、な、んなワケないだろっ!?」 「へぇ…?」 にやにやと笑うクリフ。 耐え切れなくて、慌てて身体をくるりと反転させて。 クリフに背中を向ける。 クリフの気配を背中にひしひしと感じて、熱気を感じて。 ばくんばくんと心臓は早鐘のようで。 視線を感じる項が、ちりちりとして。 痺れるような感覚に、ぶるりと身体を震わせた。 「な、何、ばかなことっ!」 「そうか?」 ふっと耳元に何かを感じて、身体がビクリと震える。 髪の毛をヒトフサ、クリフの太い指が掴んだ。 その気配に、目の前はぐるぐると回って。 「僕は男だし、お前も男だしっ!そんなの、違うに決まって…。」 「子供扱いされたくないんだろ?」 「それとこれとは…!!」 「同等に見てもらいたいんだろ?一人の人として。」 「それはっ、好きとか、惚れてるってのとは…!!!」 「すげ。真っ赤。」 ククっとクリフの笑う声がして、項に熱い吐息がかかる。 髪をヒトフサ掴んでいたクリフの指が、耳を掠めて身体が跳ねた。 クリフの気配に、熱に、吐息に、身体が敏感に反応して。 なにがなんだかわからなくなってくる。 「嫌だっ!やめろっ!はなれろって!!」 「それはできねぇな。」 「うっ…あっ…。」 項に感じる、しっとりとした感触。 ぶるりと身体を震わせて、肩を竦めたフェイトの身体に、クリフは腕をまわした。 肩を掴んで、自分の方へと向けさせる。 最初は抵抗していたフェイトが、観念したのかゆっくりと…クリフに向けていた背を動かした。 クリフと向かい合ったフェイトの、その顔を見て。 クリフの時が止まる。 頬を真っ赤にさせて、瞳を潤ませて、困ったような、戸惑ったような、そんなフェイトの顔が。 この上なく情を煽った。 濡れた唇が、てらてらと部屋の明りに輝く。 「フェイト。」 囁く。 囁いて、濡れて震えるフェイトの唇に、自分の唇を押しつけて。 柔らかな布団に沈んだフェイトの身体に圧し掛かって。 その細くて華奢な身体を押し潰さない様に腕で支えて。 「くり…ふ…?」 戸惑うフェイトの首筋に顔を埋めた。 あとがき |