| ■■■ マリアの爪痕 ばさりと服を脱いで、ベットに投げ捨てる。 その音に顔を上げれば、フェイトのほんのり桜色に染まった上半身が露になっていた。 「………雨、そんなにひどいの?」 「びしょびしょだよもー。本当、こんな日に外に出るもんじゃないね。」 無駄に肉のついていない、ひきしまったバランスのいい身体。 ふっと…頬が熱くなった。 慌ててその背中から、視線を逸らすと、手に持っていたタオルをフェイトに投げつける。 「はやく拭いたら?」 「ん?ああ、サンキュ。」 ぱしっと受け取ってタオルでわしゃわしゃと濡れた髪を拭いて。 少しだけ、上気した…頬。 少しだけ、主に染まる、フェイトの身体。 雨の中、走ってきたから。 走って帰ってきたから。 だからほんのりと、彼の身体は色を帯びて。 わかっていた。 わかっているのに、ドキリとした。 ほんのりと熱を帯びたようなその顔は、きっと自分ではない、彼女だけが、見たことのある顔を一緒なのかもしれない。 「で?どうしたんだよ。話って。」 「え?」 「え?って、話があるから待ってたんだろ?僕のコト。」 「ああ…そうよ。」 どくんどくんと身体中の血液が波打つ。 上半身裸のフェイト。 桜色に染まる頬。 濡れて貼りついた、蒼い髪。 「どうしたんだよ。マリアらしくないね。」 はにかむように笑う唇。 名前を、その唇で、呼ばないで。 とくんと、心臓が跳ねて。 とくんとくんと、心臓が音をおおきくしていって。 「……随分、あの人は爪が伸びているのね。」 「え?」 きょとんっと瞳を瞬かせたフェイトに、苦笑する。 「背中に色っぽい傷アトが、4本。」 「えっ!?」 わたたっと慌ててタオルを背に羽織るフェイトにやっぱり苦笑して。 「随分と、色っぽいものね。背中に残る、紅いラインってのは。」 「マリア。」 軽く睨むフェイトから視線を外す。 とくんとくんと、それでもやっぱり心臓は跳ねて。 フェイトの背中に巻きつくタオルを、そっとひっぱって床に落として。 現れた4本の傷跡に、ふっと瞳を細めた。 「さわっていい?」 「………楽しんでるだろ。」 「楽しまないとやってられないもの。」 「いたっ…。」 つっと眉を寄せるフェイト。 その背中の傷跡に、指を滑らせる。 自分の手よりも、ほんの僅かに大きなその手で、爪を立てたのだろう。 間隔が少しだけ、自分の手と違っていた。 「マリア?」 そっと、指を滑らせて。 そっと、唇を寄せて。 そっと、想いを込める。 「マリア?何して…つっ…。」 がりっと音がして、私の爪の間に、フェイトの背中の皮と血がはさまる。 フェイトの右肩に4本ついてた爪の跡。 フェイトの左肩に、4本ついた、新しい爪の跡。 「痛いよ。突然何?引っ掻いた?」 「ええ。」 怒ったように振り返るフェイトに笑う。 主に染まるフェイトの頬。 その頬に張り付いた髪の毛。 背中に残る、爪の跡。 まるで。 ねぇ…。 まるで。 「なんで?」 「………おまじない。」 「おまじない?なんの?」 「他の女に軽く背中を触らせるなんて、あの人が怒るわよ。」 自分が付けた爪の跡を、そっと撫でる。 痛かったのか、フェイトが小さく声を漏らして眉を寄せた。 その仕草が、たまらない。 指先に付いたフェイトの血をそっと見詰めて。 そのままぺろりと、その血を舐めた。 「えっ!?」 慌てて私の手首を掴んだフェイトに、ふふっと笑う。 「血の味。」 「舐めたの?」 「私と、同じね。」 「マリア?」 ふふっと笑うマリアに、フェイトは困った様に溜息をつく。 落ちたタオルを拾うと、再びソレを背中にまわして。 「いい加減にしろよ。悪ふざけが過ぎる。」 「ふざけてなんていないわ。」 まっすぐに自分を射抜くような真剣な瞳でみてくるマリアに、フェイトは再び溜息をついた。 あとがき |