| ■■■ 交差 ぱたんとドアを閉じて、廊下に出る。 シランドにある、自分達に用意された客室にフェイトを残して、クリフは廊下を歩きはじめた。 さっきのフェイトとの会話が、頭をまわる。 あいつの視線の先に、いつもネルの姿があることに気が付いたのはいつだったろうか? ふっと感じたのは、あのカルサア山道でだったような気がする。 ゲームの世界でではない。実際に剣を振るい、モンスターの命を奪う。 自分が生き残るための戦いにやっと慣れてきたばかりのアイツが、ネルに襲いかかったモンスターをその剣でなぎ払った。 別に仲間のピンチを助けただけのこと。その時はたいして気にも止めなかった。ただ…アイツも周りを見ながら動けるようになったのかと…フェイトの成長ぶりを感じただけだったが。 特に強く…はっきりとわかったのは、アリアスでのあいつの取り乱しようだった。 朝起きてクレア達に会いに部屋に入った瞬間、あいつがきょろきょろとあたりをみまわした。 何かを探しているかのように。 そしてネルの不在に、あいつの瞳の色が変わった。 不安げに揺れる瞳。 こっちの話なんて全然聞いていないその瞳。 そこで確信したのだ。 フェイトはネルを好いていると。 おそらく本人気が付いてはいないのだろうけれども。 「しかし…つれぇな…。」 ふぅっと溜息を付く。 あの時点でこうなることは予想がついていたけれど。 人の色恋に口を挟むなんてことはしたくなかった。 人にどうこう言われたからって変わるような恋なら、どうせ心配いらないのだから。 だが……。 「ん?」 目の前をロジャーが床を蹴るように歩いている。 「どうした?豆ダヌキ。」 「ま、豆ダヌキじゃないやい!」 「で?どうしたんだ?」 クリフの言葉に、ロジャーがぐっと唇を噛み締める。 ぎゅっと作った握り拳が微かに震えていた。 それにクリフは気がついて、ふっと苦笑する。 「さっきおねいさまの部屋にいったら…いや…なんでもない。邪魔だ!でっかい図体して真中歩くなこのバカちんが!!」 「ああ?」 げしっとクリフのスネを蹴り付けると、ロジャーはだだっと廊下を走って去ってしまった。 クリフが怒りに振り返った時には、すでにひょこひょこと左右に揺れるロジャーの後ろ姿しか見えなかった。 「あンのバカタヌキ……。くそっ…。」 じんじんと痛むスネに、クリフが唇を噛み締める。 睨み付けた床に、ふっと…さっきネルと二人でアークグリフに向かった時の会話を思い出した。 「アイツ…。」 すでに姿の無いロジャーの影を追って、クリフはロジャーの消えた廊下へと視線を流した。 そして再び溜息をつく。 『あんたたちが…私達とは違う世界の人間なんて驚いたよ。』 『信じられないか?』 『いや…あんたたちは信じられる。今までずっといっしょにいたんだ。それくらいわかってるさ。』 『光栄だな。』 『………遠いのかい?』 『……遠いな。』 『そうか…どれくらい遠いんだい?グリーテンよりも…遠いんだろうね。会いに行こうと思ったら2,3ヶ月くらいかかってしまうくらい遠いんだろうね。』 それどころじゃないさ。 と、言おうと思った言葉を飲み込む。 ネルの瞳が、ゆっくりと伏せられた。 強気なネルの瞳が、何故か弱く思えて。 『なぁに。すぐに会えるさ。マリアが来たのを見てたろう?あんな風に一瞬で俺達はこられるさ。』 『……そうかい?』 そう言って笑った顔は、今まで見たこともないくらいに儚げで。 今にも消え入りそうな笑顔だった。 『あいつは…フェイトは…落ち込んでいなければいいけれど…。自分を責めるなんてこと…してなければいいんだけどね…。そういうところ、あるじゃないか?あの子は。』 『ああ…でもお前のセリフでかなり救われてたと思うぜ?』 『…私でも…あいつの気持ちを少しでも励ましてやれたなら…よいんだけれど…。』 ふっと…視線を遠くシランドに向けて、ネルが泣きそうな顔で笑う。 そこでふっと…クリフには感じたのだ。 ネルも。 フェイトを好いているのだと。 『あんたたちがいなくなったら…少し、淋しいかもしれないね。』 そう言って笑ったネルの笑顔が、とても淋しそうだった。 思わず腕の中に抱き寄せてやりたくなるような衝動にかられるが、それは自分の役目じゃない。 クリフはにっといつもみたいに笑うと、ぽんっとネルの肩に手をおく。 『お前らしくないな。いつでも会えるって言ってんだろーが。』 『そうだね…。』 目の前に見えてきたアーリグリフの城に、クリフとネルは足をはやめた。 「問題はお互いニブイってことだろうな…それと、素直じゃないところ…か。」 クリフはふいっと視線を今出てきたばかりの部屋に向ける。 扉の向こうでは今初めて自分のネルへの気持ちに気がついたフェイトが、苦悩していることだろう。 折角お互いの想いは一方通行ではないというのに、交わることはこの先一生無いような気がしてならない。 「こればっかりは仕方ねぇな…。」 やれやれと肩を竦めると、クリフはゆっくりと…廊下を歩き出した。 あとがき |