■■■ わがまま


「君は平気?」
「えっ!?あ…、はい。大丈夫です。」

アシュトンに聞かれて、一瞬呆気にとられたウエイトレスが微笑む。
真っ赤になって1回お辞儀すると、お盆を胸に抱きかかえながらさっていった。

その瞬間。

あ。ヤバイ?と思った。















アタシがアシュトンを意識したキッカケ。
ちゃんと覚えてる。

初めて料理をした。
クロードに食べてもらいたくて、がんばって。
アタシだってレナと同じくらい料理うまいんだから!って、意気込んで朝から頑張って作った。

出来上がったスープは、味はイマイチだけど中々イイニオイで。
見た目も完璧だったから、自信作だった。

初めてした料理に、初めて好きな人にプレゼント。
だから凄く舞い上がってて。

真っ白なスープ皿によそって、クロードのところに行こうとして。
急ぎ過ぎて、緊張し過ぎて…。
アタシらしくないけどすごく照れくさくて、ちゃんと前を見ていなかった。

曲がり角で何かにぶつかっちゃって…。

「あっ!!」
「うわっ……!!!」

ドンっ。びちゃっ。カラン…。

嫌な音の3拍子。

辺りに立ち込めるスープのニオイ。
視界の端に映った、宙を舞うスープ皿。
弾かれてついてしまったお尻が痛くて。

瞳を開けなくたってどうなったのかわかった。

「ィたたた…。」

半分泣きそうになって目を開けたら、目の前でスープまみれのアシュトンがいた。
ドロドロのびちゃびちゃで、熱いスープがかかってしまったせいで、真っ赤になった顔で。

「あ…あしゅとん!?ご、ごめんっ…!ヤケドしちゃった…!!!?」
「んっ…てて…プリシス??」

スープまみれのアシュトンを覗き込んでいたアタシの前で、スープを袖で拭ったアシュトンがぱちくりと瞳を開けた。
そしてアタシに気がつくと、はっと顔色をかえて。

「プ、プリシスは!!?スープ、かかってない!?平気!!??」

滅多にださない大声で叫んで、アタシの腕を掴んだ。

その瞬間。心臓が鷲掴みにされた。

ドロドロのびちゃびちゃで。
スープのせいで顔は真っ赤で。
怒る筈のアシュトンは、自分のことよりもアタシを心配してくれた。

「えっ…?う…うん。」
「よかったぁ〜〜〜〜。こんな熱いの、かかってヤケドでもしたら大変だもんね。」
本当に…心の底から安心したように…。
アシュトンは微笑った。

自分はヤケドしてるくせに。
自分の方が大変な状態なのに。
アタシの無事を知って、微笑うアシュトン。

その笑顔に2度目のどきり。

なんて優しい人なんだろう…って思った。
アシュトンの優しさに気が付いたら、今までとアシュトンを見る目が変わった。

なんてトロイんだろうって思ってたけど、
それは周りを優先していたからなんだね。

なんて抜けてんだろうって思ってたけど、
それは周りを気遣い過ぎてたからなんだね。

今までアシュトンについて不満に思っていたコトが…

1つずつ…1つずつ…。
不満じゃなくなって…違う想いにカタチをかえて。

その想いはアタシの胸にしっかりと残った。

誰よりも優しいアシュトン。
周りを見る事が出来るアシュトン。
凄いね。そういうのって…本当に、あなたが優しいから出来るんだよ。

気がついたら…好きになってた。





「プリシス?」

声をかけられて、はっと顔を上げる。
するとそこにはいつものアシュトンの笑顔があって。

「どうかしたの?」

こけたウエイトレスにかけられた水をハンカチで拭きながら、アシュトンが心配そうに尋ねてくる。

そう。アシュトンは今また水を頭からかけられたのだ。
新人っぽいウエイトレスに。

困ってオロオロするウエイトレスに、アシュトンはあの時と同じ。
心配そうに…。
「君は平気?」
そう聞いてハンカチを差し出した。

知ってる。
それがアシュトンの優しさ。
無意識の行動だってコトも、知ってるよ。

そこがアタシの好きなところだから。

でも…あのウエイトレスは多分………。

「アシュトンってさーもてるでショ?」
はぁっと溜息ついて、ストローを指で弄ぶ。
「えっ!?え…あ…ううん。そんなコトないよ!!いつもフラレてばっかりだし、その…あの…。」

アタシの言葉にアシュトンがオロオロしはじめる。

「だろうね。」

口にした言葉は案外冷たい声になってしまって。
それでもそれを謝る気にもなれなくて、固まったアシュトンからふいっと視線を逸らす。

ムカムカするんだよネ。
そういうの。

オンナノコはさ、特別になりたいんだよ。
好きな人の、トクベツになりたいんだよ。
自分にだけ優しくしてもらいたいんだよね。

だからアシュトンはモテるんだよ。
だからアシュトンはフラれるんだよ。

「どうしたの?なんか…機嫌悪い…??」

わかってるよ。
アシュトンは悪くない。
アタシがわがままなだけ。

かわいくなくてごめん。
わがままでごめん。
素直じゃなくてごめんね。

ちらりと目を移せば、さっきのウエイトレスがチラチラとアシュトンを見ていて。
それにまた…胸がムカムカした。





あとがき

リクのアシュプリ書こうと思ったら
なんか全然違う話に…!!!!
しかも甘くないくせにこっぱずかしいもん書いてしまった…
少女漫画ちっく…

なんかプリシスいくつですかー?みたいな…
アシュプリっぽくないかな……(汗)

2002/12/26 まこりん



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