■■■ ヒトコト 2


『………アタシ、レオンと結婚することにした。』
『アイツってばさー昔からナマイキにそういうコトばっかり言っててさ。』
『バカなことばっか言ってるな〜って思ってたんだけど…。』
『でもついこないだ…また言われて…それが凄く真剣で…本気なんだぁ〜って思った。』

頭の中をくるくる回る、彼女の初めて聞いたような声。
恐くて彼女の顔が見れなくて、ただただ僕は手の中にあるものを握りしめるだけで。

レオンが………そんな彼女の…一面を…引き出したのだ。
レオンは凄いと思う。
小さいけれど頭が良くて、自分に自信があって、将来的にも有望で。
それに…ちゃんと伝えたい言葉が言えたんだ。
自分から、彼女に…。

言えるわけない。

僕には…彼女を幸せにする自信がないから…。

それにプリシスとレオンは地球に一緒に学びに行った仲間なのだから…僕の知らない二人の仲があるのだろうし…。



「プリシスいる〜??」
カタンっ…



突然聞こえてきた声に、刺し込む光。
ラボの扉が開いて、目に飛びこんできた光と黒い影。

ビクっと肩を震わせて顔を上げれば………そこには…数年前からは想像もつかないほどに、成長した彼の姿。

「れお…ん。」

声が震えた。
そんな僕の顔に、レオンは不思議そうに首をかしげて。
そしてきょろきょろと中を見まわす。

「アシュトン、今日プリシスは?会う約束してるんだけど。」
「あっ…と…詳しくは聞いてないけれど……たぶんボーマンさんトコだと思う。もうすぐ帰ってくるんじゃないかな?」
「ったく…いつもいつも時間どおりにいたことないなぁ〜アイツは。」

いつもどおりの聞き慣れたレオンの喋り方も、どこかいつもと違うような気がした。
『アイツ』なんているもそう呼んでいた呼び方なのに…どこか…特別な雰囲気があるような感じがする…それに少し胸が苦しかった。

「急用なの?」
「別にそういう訳じゃないんだけどね。」
「上がって待ってる?」
「そうさせてもらおうかな。」

重い腰を持ち上げてレオンと一緒に『コタツ』まで移動する。
もう何年もここにおいてもらってるから、御茶の在り処も知ってて…って言うか、家事は僕がやってるようなもんだから、僕しかここにあるの知らないのかもしれないけれど。
簡単にお茶を入れてレオンの前にさしだして、僕はレオンの向かい側に座った。

「そ…そう言えば…さ。プリシスとのこと…聞いたよ。おめでとう。」

声が震えないように…なんとか頑張ったつもりなんだけど…でも自分でもわかるくらいに少し声が高くて。でもそんな僕の声音なんてレオンは気にも止めなかったのか、お茶をすすってきょとんっと変わらない大きな瞳を瞬かせた。

「何の話?」
「何のって…プリシスと結婚するって…。」

僕の言葉にレオンが一瞬ムッとした顔になる。
なんだか…様子がおかしいような………。

「………誰に聞いたの?」
「えっ…!?ぷ…プリシスが…言ってたよ?」

そこまで言ってしまった…って思った。
もしかしたらプリシスはまだ返事をしていなかったのかもしれない。
だとしたら僕の言葉は軽率だった。
レオンだってプリシスの口から直接聞きたかっただろうし…。

「ふぅん……。」
「…ご、ごめん…まだ、プリシスはレオンに返事してなかった…の?」
「…返事は貰ったよ。『アタシはあの人のトコにしか嫁にいく気ないからゴメンね』ってさ。」

レオンの言葉に、一瞬頭が真っ白になる。
それって…つまりは……断わられてる…ってこと…で…。

「『手を差し出したあの日からず〜っと待ってるんだけどね』ってさ。『あの人』が誰なのかは僕にはわからないし、プリシスがなんでアシュトンに僕と結婚するなんて言ったのかもわからないけれど。」
「………レオン…ごめんっ…僕…ちょっと行ってくる。」
「……はいはい。あ〜伝えといて。僕は今日プリシスにまともな顔して会える自信無いから帰るよ。また今度くるってさ〜…。」

花束もってね。

軽く付け足して、レオンはさっさと行ってしまった。
僕はレオンに「行ってくる」なんて言いながら、まだ動けずにいた。

レオンの言葉の意味は…自惚れかもしれないけれど。
でもプリシスが僕に手を差し出してくれたあの日から、僕もずっと心に決めてた。
もしかしたら…僕の思いと、プリシスの思いは同じなのかもしれなくて。

あの頃とは確かに違う。
けれど違わないものもあって。
二人の距離も…そして僕の想いも。

でもあの頃とは変えなきゃいけないものもあって。

レオンは凄いって思った。
プリシスも明るくて、前向きで凄いと思った。

凄いと思って、僕には自信がないからって…僕はあの日買ったこの指輪と一緒に、僕の想いをこの箱の中に大事にしまって、包みこんでしまったのだ。

言えるわけないなんて…自分に自信がないからなんて言い訳して
彼女をずっと待たせて。

本当に僕はダメだね。

後悔ばかりして、渡したいな。渡せないな。で終わらせて。
一歩も前に進めない。

あの日も彼女が手をさしだしてくれなかったら、前に進めなかった。
ギョロとウルルンも払い落とせなかった。
君が最後のラインをただじっと待ってくれていたのは、僕の手を引くんじゃなくて
僕と一緒に前に進みたいと思ってくれてたからなんでしょう?

言えなかったヒトコトは、今にも口から出そうで
大声で叫んでしまいたいくらい。

手をポケットに突っ込めば、かさりと音がして指先に当たる固い感触。

「好きだよ。」

口の中で小さく呟く。
握り締めた箱は、何故だか今までと違って僕に勇気を奮い立たせた。

君が帰ってきたら今度こそ僕は言えると思うんだ。
この小さな箱に閉じこめた………僕の想いを。





あとがき

裏400HITリクエストぐらさんからの
アシュプリプロポーズか新婚さんv
でした〜!!

………ごめんなさい。
1話目と2話目1ヶ月ぐらい間がありまして…
なんだか最初書きたかったものと違うっていうか
ぶっちゃけリクと違うっていうか…(アイタタ…)
本当にごめんなさい…後半ポエムになってるし…!!
いやなんかノリノリで書いてたら
ポエムに…お気に召したらよいのですが…(汗)
マキハラっぽいなぁ…ラスト…

去年の10月にキリ番踏んでいただいたのに
6ヵ月もお待たせしてしまって申し訳ございません…!!

この小説をぐら様に捧げます

2003/03/16 まこりん



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