■■■ 祓い落とし☆記念




アシュトン!よかったね〜♪」
「うん!これも皆君のおかげだよ!ありがとう〜!」

とある街の宿屋の一室で。
手を握り締め合い見詰める二人がいる。
栗色の髪を頭のてっぺんで結いあげた少女プリシスと。
その恋人でもある青年、アシュトン。

今日は二人にとって新しい人生への第一歩を踏み出した日でもあった。

「ぎゃふぎゃふー!」
「フギャー!」

二人の間からなにやら騒がしい声が聞こえてくる。
アシュトンの背中に憑いていたギョロとウルルンだ。

そう…。
『憑いていた』
過去形。なぜならもう双頭竜はアシュトンの背中にとり憑いていないから!!
そう…今日二人はアシュトンの背中に憑いた双頭竜を、殺すことなく祓い取ることに成功したのだ!
祓い取った双頭竜は、小さくなって今現在は鳥篭の中にいれらている。
あれだけ力の強かった双頭竜も、祓い落としの影響でしばらく力がないらしい。
アシュトンとプリシスが素直に嬉しがっていると、双頭竜が何やら不満気に騒ぎだしたのだ。

「なんだよ〜ギョロもウルルンも。騒いだって仕方ないだろ?明日になったらちゃんと君達をもとの大きさに戻す方法、探しに行くから暫く待っててよ〜。」
「ギャフー!!」
「ギャギャッ…!!」
がたがたがたんっ!
サイドテーブルから鳥篭が落ちる。
アシュトンは溜息をついてそれを拾い上げると、二人に向かって片目を瞑った。
「今日はおとなしくしててよ?ね?」
「ぎゃ〜…。」
アシュトンのお願いが通じたのか、二人が力なくへこむ。
アシュトンはその籠を自分達から遠く離れた窓際に移動させた。
そしてぱさりとタオルをかける。
「これで月の光も入らないでしょ?眠れるかな…??」
ぱらりと捲って中を覗きこむ。
すると二人ともすでに騒ぎ疲れていたのか、おとなしく寝る体勢にはいっていた。
それに安心してアシュトンは微笑む。

「寝た〜??」

ぴょこんっと、ポニーテールを揺らせてプリシスが覗きこむ。
その仕草にアシュトンは、ほんの少しだけ胸をときめかせて。
こくりと小さく頷いた。

「よかったね。じゃあ明日も早いし!アタシ達も寝よっか!?」

プリシスが安心したように笑って、ぱさりと髪の毛を止めていたゴムを解く。
さらりとプリシスの長い髪が舞い落ちて、ふわりと・・・アシュトンの鼻をプリシスの髪の香が擽った。
ぷるぷるとプリシスが頭を振って、髪をかきあげる。
ぱさりと髪の毛を整えると、プリシスはベッドに向かって歩き出した。

「プリシスっ…!」

普段よりも、ほんの少し高いアシュトンの声が響く。
「えっ…?」
後ろから突然抱き締められて、プリシスはバランスを崩した。
それでもアシュトンが抱きつきながらも支えてくれていたおかげで、その場に崩れこむことはなかった。

どきどきと急に胸が高鳴って、プリシスは恐る恐る振りかえる。
ぎゅっと目を瞑ったアシュトンが、顔を真っ赤に染めていた。
「な、何ー?アシュトン?」
「ね…ねぇ?せっかくさ、祓い落としもできたわけだし…。なんか特別な記念が欲しいじゃない?」
「…何…??記念…って?」
聞かなくたってわかんじゃん!!!
自分で自分にツッコミを入れつつ、プリシスはこの状況に頬を真っ赤に染めた。
身体中が心臓になっちゃったみたいに、激しく波打つ。

「僕、プリシスの声が聞きたい…。」
「はぁっ!?声ならいつだって聞いてんじゃん…!!」
予想外のアシュトンの言葉に、プリシスが目を丸くする。
「違う違う!その…ホラ、プリシス今まで声抑えてたでしょ?アレん時。」
「…っ!?」
ボボッと音が聞こえるくらいに真っ赤になって、プリシスが固まった。
「ギョロとウルルンがいたから…堪えてたんでしょ?だから・・・。」
「ななな、なに言って…!!」
アシュトンの熱い吐息が背中の服越しに伝わる。
その熱にプリシスが身を捩ろうとしたら、プリシスを抱き締めるアシュトンの腕に力が込められた。

「やっ…!」
「ね?プリシス〜。しようよ?」
「ンっ…!!」

プリシスの身体を抱き締めていたアシュトンの手が、明らかにさっきまでとは違った動きをみせる。
さわさわとネグリジェ越しにプリシスの身体を弄り始めた。
「だっ…ダメだってば!だって、ギョロも、ウルルンもいるじゃん!そこに!」
「見えてないよ?」
柔らかな髪の毛を唇で退かして、現れた白い項に口付ける。
「やッ…聞こえちゃう…もんっ!」
弄るアシュトンの手を掴みながら、プリシスが可愛い抵抗をする。
ばたつくプリシスをそのまま抱え上げると、アシュトンはスタスタと歩き出した。
「聞こえない。」
「うそー!絶対聞こえるもんっ!」
「いいから♪いいから♪」
抱き上げたまま器用にプリシスのネグリジェのボタンを外していく。
プリシスは諦めたのか、抵抗を止めてアシュトンの腕にしがみついた。

「…もしかして…確信犯?」
「なんのこと?」

へらっとアシュトンが笑って、プリシスはぷくっと唇を尖らせた。
よくよく考えてみれば、お風呂に入る前にアシュトンが渡してくれたのはこのネグリジェだった。
ボタンなんて簡単に片手で外せちゃうし、外したら簡単に前が肌蹴て脱げちゃう代物。

ヤラレタ――――。

普段は全然たよりないくせに、こんな時だけちゃっかり素早いアシュトン。
プリシスが肌蹴て冷たい空気が入り込む胸元を手繰り寄せて、ぎゅっと目を瞑った瞬間。
ふわりと浮遊感を感じて、次の瞬間ベッドに優しく降ろされる。

アシュトンはベッドに横たわったプリシスを潰さない様に覆い被さると、プリシスの頬にかかるプリシスの髪を一房、指で摘んで退かせた。
そして優しく髪の毛を撫でると、唇に重ねるだけのキスを一つ落とす。
そしてあのいつもの優しい瞳でプリシスを見詰めると微笑んだ。

「イイ・・・?」

ズルイなぁ〜って、プリシスは思った。
あんな風に強引に抱き上げて、ボタンを外して、ココまで連れてきて。
そこまではあんなに強引で乱暴だったのに、最後の最後で彼は優しくする。
結局最後にはちゃんと、プリシスに了解を求めるのだ。

結局自分はここで頷かなくちゃいけないんだ。

アタシも…したい………って。

プリシスは頬をリンゴみたいに真っ赤に染めると、小さく頷いた。
そのプリシスの合図に、アシュトンは本当に嬉しそうに微笑んで。
もう一度…今度は深く、プリシスの唇に口づけた。








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