■■■ 欲情 さらりと…衣擦れの音が聞こえる。 ふっと…視線を移せば、深い紺色の浴衣を肌蹴させたボーマンがいた。 肌蹴た胸元から覗く、厚い胸板。 ごくりと…息を呑んで。 クロードはその肌蹴たボーマンの胸元に目が釘付けになった。 「なんだ?」 いつものように楽しそうに、悪戯を思いついたような瞳でボーマンが声を掛けてくる。 「…いえ…。」 どくんどくんと…自分でもわかるくらいに激しくなる鼓動。 身体中がかーっと熱くなって、吐き出す吐息すら熱く火照って。 クロードはゆっくりとボーマンから視線を逸らすと、自分の着ている浴衣を握り締めた。 身体が熱い。 火照る身体は、情事の時のそれと似ていて。 悔しくて唇を噛み締める。 「顔が赤いぞ?」 はっと気が付けば、いつの間にかボーマンが自分の横に立っていた。 「ちょ、ちょっと…のぼせただけです。」 目を逸らそうにも、自然と目はボーマンの肌蹴た浴衣から見える肌に釘付けで。 ただの薬剤師にはみえない厚い胸板。 「ふぅん…?」 何もかも見透かしたような瞳で、ボーマンが唇の端を持ち上げる。 「何に?」 どくん!!っと身体中の血が沸いた。 悔しい。 悔しい。 悔しいけれど。 ボーマンの肌に、欲情する――――淫らな自分。 ちらりと見える胸を見ていると、どうしても思い出してしまうのだ。 情事の時…。 貫かれる度に生理的に潤んでしまう瞳から見える……広い胸板を。 その胸板に覆われる視界がとても好きで。 かたく引き締まった筋肉。 こういうのを誘われる…と言うのだろうか? 掌を押し当てたくなる、衝動。 それを思い出してしまう。 「お風呂にきまっ……!!」 顎を掴まれる。 気が付いた時には言葉ごと唇を唇で塞がれていた。 突然のことに息苦しい。 歪む視界。 息苦しくて開いた口から、ボーマンの舌が滑り込んでくる。 歯列をなぞり、逃げるクロードの舌を追い掛けて絡めとる。 飲み込めなかった唾液が、クロードの唇の端から零れ、部屋の明りに輝いた。 「っ…!ぼっ…まんさっ…!」 ビクリと肩を震わせる。 熱く火照る身体に、このキスは熱をますます加速させるものだった。 唇から離れたボーマンの唇は、クロードの喉を伝う唾液を綺麗に舐めとっていく。 その刺激にぞくぞくと沸き上がる、もどかしい快感。 クロードの口から漏れる吐息は、熱く熱を帯びて。 ぎゅっとボーマンの浴衣を握り締めて刺激に耐える。 「クロード…何、欲情してんだよ?」 意地悪な声が耳に届く。 クロードは刺激に眉を寄せると、ぐいっとボーマンの浴衣を引っ張った。 「だっ…てっ……!はぁっ…。」 乱れるクロードの浴衣の隙間からボーマンが手を滑り込ませる。 冷たく冷えた手が、熱いクロードの肌をなぞった。 それだけでぞわぞわと沸き上がる快感の波。 つんっと尖った胸の突起をねっとりと舌で舐める。 「っは……。」 その刺激にクロードがボーマンの浴衣を握る手に力を込める。 「どうした?今夜はやけに…感度いいじゃねぇか…?」 「んっ…。」 意地悪な声もクロードの熱を煽る要因。 「ぼー…。」 喘ぐ口に指を差し入れると、ボーマンは胸の突起に吸い付いた。 「ぁっ…。」 クロードが刺激に腰を引くと、腰が背中の壁に当たる。 そのまま壁に押しつけられて、クロードは逃げ場を失った。 ちゅっ…胸に吸いつくボーマンの口から妖しい音が響く。 ボーマンは空いている手で、クロードの腰に巻きつけられた帯を解いた。 ぱらりと床に落ちる帯。 とたんにふわりと腰に感じる解放感。 ボーマンの指を伝って、クロードの唾液が滴り落ちる。 「ひゃめっ…!」 顔を歪めるクロードの口から指を引き抜くと、唾液に濡れるそれをクロードの内太腿に移動させる。 びくりとクロードが反応して、クロードの肩を浴衣が滑り落ちた。 肘のところでそれは止まって中途半端に脱げる。 裸じゃないけど、裸に近い…中途半端なそれがまた、ボーマンの欲を煽る。 「なぁ…?どうして欲しい?」 タバコの匂い。 いやらしい瞳。 低くて、痺れる…声。 「うっ…あっ…!」 指で片方の胸を愛撫しながら、片方の手はクロードの内太腿を何度も摩って。 ぱさりとクロードの下着が足元に落ちて絡みつく。 「ぼーまんさっ…!!」 クロードがボーマンの浴衣を肩から滑らせた。 それはクロードと同じようにボーマンの肘のところで止まって、腕に絡み付く。 汗ばみはじめた肌に掌を押し当てると、クロードは小さく頷いた。 ボーマンはゆっくりとクロードの後口に指を滑らせ…。 解れていないそこに指を挿し入れる。 「うっ…んっ…!」 ぎゅっとボーマンの首に腕を回して、クロードが強くしがみつく。 ボーマンはクロードの身体を壁に押し付けると、指をくにくにと曲げる。 指に絡みつく内壁は、ひくひくと指を締め付けて。 耳元で聞こえるクロードの掠れた声が、途切れ途切れにボーマンを誘い、べたつく胸板どうしが重なるそこからは激しい鼓動が伝わる。 「あっ…はっ…ぁ…。」 そして…かたくなったお互いの分身がぶつかる。 ボーマンは辛そうに眉を寄せると、クロードの片足を持ち上げた。 「ぼっ…まんさっ…?このまま…?」 指を引き抜くと、今にも解き放ってしまいそうな自身を狭いその入口に押し当てた。 「うっ…んっ…!」 熱いカタマリに、クロードも眉を寄せる。 「あっ…あああああっっ…!!」 額から溢れる汗が、ボーマンの肩に滴り落ちる。 熱くて固いカタマリが、クロードの狭いそこを押し広げて進む。 その圧迫感と、不快感に、クロードは唇を噛み締めた。 「きつっ…力、抜けって…。」 「んなことっ…無理っ…んっ!」 額の汗が目に入る。 ボーマンは片目を瞑ると、深呼吸を繰り返した。 気を抜くと、入れただけでイキそうになる。 ぎゅうぎゅうに締め付けるそこは、ひくひくと波打っていた。 「おいっ…クロードっ。平気か?」 「……んっ…!」 「おっ…おいっ…!」 返事のかわりにクロードが軽く締め付ける。 ボーマンはゆっくりと自身を引き抜くと、もう一度ゆっくりと突き上げた。 「んっ…あっ…!」 抜き挿しを繰り返せば、クロードの口から甘い声が漏れて。 クロードの感じるところなどボーマンには、全部、全部知っていることだ。 角度を変えて何度か下から突き上げる。 揺らされて、与えられる快感に、必死にクロードはボーマンの首にしがみついた。 腕に絡みつく浴衣が邪魔で。 なんだか動きを制限されているようで、やけに刺激される。 「あっ…あっ…んっ…はっ…ぁ…。」 揺れる度に卑猥な水音と、衣擦れの音が辺りに響いて。 「あっ…ぼー…まんさっ…!き…キス…してっ…?」 理解するよりも先に、身体が勝手に動く。 ボーマンはクロードの唇にがむしゃらに噛み付いた。 「んっ…!」 がちっと歯と歯があたって、それでもそんなものにかまってられず下から突き上げる。 クロードの差し出した舌に舌を絡めて吸い付いて。 絡まるお互いの吐息。 どくんと下半身から湧き上がる、熱いカタマリ。 「はっ…あっ…!!」 クロードの眉がきつく寄せられる。 背中を壁に押し当てて、クロードが天井を仰ぐ。 「ああっ…!」 首が反らされ現れた白いクロードの首筋。 そこにボーマンは額を押し当てると、ひときわ大きく強くクロードを突き上げる。 「くぅっ…!」 クロードの中で質感と熱を増したそれが、大きく波打った。 「はぁっ…はぁっ…はぁっ…。」 クロードの乱れた呼吸がボーマンの耳に当たる。 ボーマンも呼吸を乱したままずるりと自身を引き抜いた。 とたんに溢れ出したボーマンの放ったものがとろりと…クロードの脚を伝って床に滴り落ちる。 ぎゅっとお互い言葉もないままきつく抱きあって、お互いの身体の感触と解放感に包まれて。 腕を下にだらりと降ろすと、浴衣が滑って床にぱさりと落ちた。 汗に濡れたボーマンの髪にクロードは指を絡めると、ふっと…きつく閉じすぎて痛い瞳を開く。 視界に映るのは薄暗い部屋と、自分の首もとに頭を沈めるボーマンの頭。 「はぁっ…はぁっ………。」 これからはボーマンの胸だけじゃなくて、濡れた髪にも欲情してしまうかも… なんてことをぼんやりと思った。
あとがき |