■■■ ナミダ☆ヒトシズク
いつも、いつも。
私は手の届かないヒトを好きになる。
「なんだ?オペラ。買い物なら付き合ってやったのに。」
後ろから聞きなれた声がしたと思ったら、右手が軽くなる。
ふっと顔を上げると、私がさっきまで持っていた袋を、
軽々と肩に担いだ仲間の顔があった。
「あ・・・・ありがとう。」
「女性に重いモノなんて持たせられないだろ。」
にかっと、いつものように笑う。重いモノ。なんて言うほど、重くもないんだけれど。
そうやって重いモノを持ってくれるくせに、私の心に重いモノをこっそりと置くあなた。
隣に並んで、ゆっくりと宿までの道のりを二人で歩いた。
向かう先に夕日が広がっていて、眩しくて少し目を細める。
「ボーマンは何をしてたの?」
「んー・・・・まぁ・・・・買い物?」
「へぇ・・・・珍しい。」
隣で歩くあなたの腕に、たまに触れる私の肩。
その度に私がどきどきしているの、知らないんでしょうね。
免疫が無かったのよね。こういうのに。
エルはいつも私の前を歩いていたし、家の者達は私の後ろを歩いていたし。
エルは荷物を持ってくれるなんてなかった。
周りは機嫌をとるためだけに持ってくれた。
こういう、あたり前のような優しさに、免疫が無かったのよ。
だから、こんな風にどきどきするんだわ。
自然と足が止まる・・・・。
これは恋じゃない。
恋じゃ・・・・・ないのよ。
「どうした?」
ぴたりと数歩前で足を止めて、
不思議そうに振り返って声をかけてくれるボーマンに胸が疼いた。
気が付いてくれる。私が止まっても。あなたはちゃんと振り返ってくれる。
ずっと前を向いていて、私が止まっても気が付いてくれなかった男とは違って。
一緒のスピードで、私の歩く速さに合わせて歩いてくれる。
それがこんなに嬉しいなんて・・・・。まるで10代の、初めて恋をする少女じゃあるまいし。
いまさらなんで彼に惹かれるの。
彼じゃなくたって、いっぱいいるじゃない?
彼がこんなに女に優しいのは、奥さんがいるからだわ。
彼がこんなに女に慣れているのは、奥さんがいるからだわ。
わかってる。わかってるのにね。
なんでかしら?
なんでこんなに、彼に・・・・・・。
「オペラ?」
優しい声で、私の名前を呼ばないで。
その声で呼ばれると、胸が痛いの。
俯いた目線の先に、あなたの長く延びた影が映る。
どんどんと近付いてきて、視界には影だけじゃなくて、
困惑したように差し出された腕が見えた。
それにどきりとして、慌てて顔を上げる。
「あっ、そ、そうだわ。買い忘れてた物があったわ。」
慌ててもと来た方へと振り返り足を向ける。
夕日が顔に直撃して眩しくて、瞳が滲んだ。
「お、おい。俺も付き合うよ。」
「大丈夫よ。」
「暇だし。」
隣に並んだあなたの気配に胸が疼く。
そう言われてしまっては、断わるコトも出来なくて、仕方無く無言でお店に向かった。
からんと、微かに音がして扉が開きかける。
でも想像以上に重かった扉に一瞬戸惑って、押し開く腕に力を入れるタイミングを逃した。
「んっ・・・・・。」
「ホラ。」
無理矢理力を入れようとしたところで、夕日の当たる扉に長い影。
ふっと軽くなった扉に、思わず顔を上げるとあなたの顔が間近にあった。
それにらしくもなく顔が熱く火照る。
本当に・・・・・今日の自分はどうかしてると思う。
普段ならこんなコトで紅くなったり、胸が疼いたりする筈がないのだ。
これじゃあ、まったくオトコに免疫の無い少女だ。
相手はなんとも思っていない、ただの条件反射のようなものなのに。
ひととおりカゴにアイテムを入れて、レジに持って行く。
ボーマンは店内をくるりと見回して、
興味なさげな目をして持っている荷物を持ちなおしていた。
「あ、あとコレも。」
カウンターにあったてのひらサイズの箱を2つ、ぽんとカゴに入れて店員に手渡す。
「2980フォルです。」
言われた金額をぴったりと渡すと、そのまま無言で店を出る。
それに慌てたようにボーマンが店を出た。
「さっき、何買ったんだ?」
「あ、そうそう。コレ・・・・お礼。」
ボーマンからの問いに、がさがさと袋からさっき買った箱を取り出す。
ぽんとボーマンの白衣のポケットに入れて、にっこりと笑った。
「タバコ?気がきくじゃん?」
「私の買ったついでよ。」
「タバコ吸うんだ?」
「悪い?」
「別に。」
私の持ってた紙袋もひょいと持ち上げて、あなたは意味深に笑う。
その何もかもを見透かしたような瞳に、なんだかカチンときて。
「何よ。」
「エルネスト・・・・とやらに会えるといいな。」
心臓が鷲掴みにされた。
私がタバコを買った理由を、見透かしているのだろうか?
あなたは。
あまりにも的を得た言葉に、私の身体が凍りつく。
「あなたには・・・・関係の無いコトだわ。」
「・・・・・そ。」
どきどきと鳴り響く胸の鼓動。
私がこんなにどきどきとしているの、やっぱり気がついているの?
そうよ。
あなたに惹かれるのが恐くて。
あのヒトに教わったタバコを吸おうと思ったのよ。
あのヒトを忘れないように、あのヒトのキスを忘れないように。
いつでも思い出せるように、止めた筈のタバコを買ったのよ。
イジワルなヒト。
私があなたに惹かれそうになってるの、気がついてて優しくするの?
ザンコクなヒト。
そうやって残酷な言葉を、私の好きな声で言わないで。
『エルネスト・・・・とやらに会えるといいな。』
つまりそれは・・・・・受け入れられないという、遠まわしな拒否の言葉。
私が自分の気持ちに戸惑っているうちに、そうやってあなたは私との間に一線を引く。
レンアイに慣れてるオトコは好きよ。
レンアイに感のイイオトコは嫌いよ。
ちらりとあなたを盗み見ると、タバコを咥えて弄ぶ様に揺らしてる。
だから私もタバコを1本取り出して、火をつけた。
「はい。」
そして火のついたタバコの先端を差し出す。
それに一瞬あなたは驚いて、そしていつもみたいに余裕の笑みで微笑んだ。
「わりィな。」
そして私のタバコから火を移す。
その慣れた仕草が、どうしようもなく・・・・・色っぽくて。
今までで一番、あなたの顔が近付いた距離に胸がときめく。
大嫌いよ。
口に広がる味に、肺に広がる感覚に
あのヒトを思い出して、あのヒトのキスを思い出して・・・・。
なのに次の瞬間。
これがあなたのキスの味だと思ってしまった私が
どうしようもなく悲しくて、空しくて・・・・・。
大嫌い――――――。
いつだって、手には入らない人が好きになる。
どうしてこんなに・・・・好きなのかわからないけど。
でも、あなたを見ていて、あなたを知って・・・・わかったの。
あなたみたいな人、好きにならないわけがないのよ。
あなたは私が今まで会った人の中で・・・・最高のヒト―――――。
あとがき
オペラ→ボーマンさんです
大人の恋愛が書きたかったんですよ
でも失敗☆
私が書くと、オペラさんカタコイばっかりだね!
しかもかなり乙女ちっくですね(苦笑)!
オペラさんファンの方、ごめんなさい(平謝)
2002/07/04 まこりん
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