■■■ ひとりじめ






「グラフトさーん、頼まれていたもの届いたぜ?」

コンコン。
軽くラボの入口にあるドアを叩いて、ボーマンはひょいっとラボを見渡した。
グラフトに頼まれていた商品が届いたから、こうして持ってきたわけだが…いつもはラボにいる筈のグラフトがいない。
ココ以外にグラフトがいる場所なんて考えもつかなかったが…たまたま家の中にはいっているのかもしれないから、ボーマンは家の入口の方にまわってみた。

「お〜い。グラフトさん〜?プリシス〜?」

ひょいっと家の中に足を踏みいれる。
鍵がかかっていないから、誰かが家の中にいるのだろうが…一向に返事は無くて。

きょろきょろと部屋を見渡す。

と。

部屋の真中。
コタツがぽっこり。

「ん?」

コタツの前まで移動して見下ろすと、栗色の髪の毛が見えて。
ボーマンは腰を降ろすと、コタツの裾を捲ってみた。

「プリシス?」

ぬくぬくとコタツに潜り込んで、すやすやと寝息をもらすプリシス。
頬を真っ赤にさせて、玉のような汗を額に浮かべて。

「おい。こんなとこで寝てるからそんな真っ赤なんだぞ。」

苦笑してボーマンは持っていた荷物をコタツの上においた。
プリシスを起こそうと、プリシスの肩に手を伸ばす。
ぴくんっとプリシスが動いて、ボーマンは指先に感じた熱に訝しげに眉を寄せた。

「プリシス?風邪ひく――――。」

はっとボーマンの顔色が変わる。
ばっとプリシスの額に掌を押し当てると、チッと軽く舌打ちして。
真っ赤な頬のプリシスを揺り動かした。

「プリシス!おい!!!お前熱あんだろ!?こんなとこで寝るな!!ちゃんと自分の部屋で布団しいて……。」
「んっ…。」

苦しそうな声が漏れて、ボーマンは辺りを見まわした。
誰もいない。
グラフトは病気の娘をほおってどこへいったのか。

「くそっ。」

ひょいっとプリシスの身体の下に腕をさしいれ抱き上げる。
小さく細いプリシスの身体は軽くて、そして柔らかく、熱のせいで熱くて。
かさついた唇から漏れる吐息も熱かった。

確かプリシスの部屋は2階だったはずだ。
間だ彼女が幼かった頃、1度だけ足を踏み入れたことがある。
『えれべーたー』とやらに乗り込んで、足でスイッチを押すと床が動いた。
慌てて壁に寄りかかってバランスをとると、辿りついた先でおりる。
プリシスの部屋にはいると、ベットにある布団を引き摺り降ろして床に直接敷いた。

「ほら、プリシス。ここで大人しく……服、パジャマに着替えた方が良いな…。おい。プリシス。」
「ほえ……?ぼー……まんせんせ?」

虚ろな瞳でプリシスが顔を上げる。
かなり高熱なのかもしれない。
ボーマンは不安気にプリシスの顔を覗き込んだ。

「プリシス。パジャマに着替えられるか?」

こくん。

船を漕ぐようにアヤシイ頷きだったがプリシスは頷く。
ボーマンはさすがに一瞬とまどったが…プリシスの部屋にあったタンスから、一番手前にあったパジャマを取り出すと、それをプリシスにほおった。

「ほら、コレに着替えろ。」
「ん……。」

ゆるゆるとプリシスが服を脱ぎはじめる。
ボーマンは薬がどこかにないものかと、1階に戻ることにして……自分のうちに戻った方が早いことに気がついて。

「プリシス、俺いったん―――。」

どさり。

耳荷届いた音に嫌な予感―――ボーマンが振り返ると、プリシスがそのままその場につっぷしていた。
乱れた寝間着。
幸いなのは一応上下共に身につけていたこと。

「プリシス!」

慌ててプリシスに近寄る。
中途半端に止まりかけたボタンを全て止めてやって、ボーマンはプリシスを再びかかえあげた。
心配そうに腕の中を覗き込むと、プリシスがふふっと笑う。

「へへ…ぼーまんせんせ、なんかすごい力強い〜〜〜。」
「何わけわかんねぇこといってんだお前は!」
「かっこいいね。王子様みたい。」
「ばか!」

プリシスの身体を布団に寝かすと、ボーマンは立ち上がろうとして……。
くいっと白衣の裾に感じるひっぱられる感じ。
ふっと下を見ればプリシスの小さな手が、ボーマンの白衣の裾を握りしめていた。

「プリシス。水くんでくるから。」
「や……。」
「プリシス。」
「いっちゃ…ヤダ。ここにいてよ〜。」
「プリシス。」
「こんな時じゃなきゃ…ぼーまんせんせ、ひとりじめできないんだもん。」

頬を真っ赤にさせて、額に玉のような汗を浮かべて。
半分な気そうな声でプリシスが言う。
一瞬、どきりとボーマンの心臓が跳ねた。
今まで病気の人は何度も見ていたけれど…。
ボーマンは困った様に笑うと、白衣を脱いでプリシスに押しつける。

「すぐ戻る!コレ抱いて待ってろ!」

プリシスの目尻から零れ落ちた涙を指で拭って、ボーマンは立ち上がった。

「ぼーまん…せんせ。」

耳に届く、消えそうな声。

とくん。とくん。とくん。

自分の心臓の音。

「嘘だろ…。」

今頃になって、腕が震えてきた。
さっきプリシスを抱き上げた時は何もおもわなかったのに。
今頃になって腕が熱く、震えてくる。

ボタンを止めた時に見えた、熱でほんのり色付いたプリシスの白い肌。
子供から大人への成長過程にある、独特の柔らかさ。

「どうかしてる。」

ぱしゃり。
洗面器に汲んだ水が、音を立てて跳ねた。








あとがき

裏1111HITぷちさんからのボープリ看病でしたv
よくわからなくただつらつらと長いだけのものになってしまいました…
ボーマンが倒れてプリシスが看病にしようと思っていたんですが
何故か気がついたら立場は逆転…
お薬を口移しで呑ませる筈がかわってるし。
グラフトさんはラクールまでいってます
グラフトがいなくなってからプリシスは倒れたので…グラフトさん悪くないです。

2003/11/24 まこりん




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