■■■ 暖 - Bo×Re -
「眠かったら寝ててもいいぞ?」
ゆったりと…優しく声をかけてくるボーマンの口をじっと見詰めながら、レナは軽く微笑んだ。
身体を包む毛皮のマントを引き寄せると、ふるふると頭を振る。
「ううん…大丈夫。」
パチパチと目の前の焚き火が音を立てて、ゆらゆらと向かい側にいるボーマンの顔を赤々と照らしていた。
「そうか…?なら眠たくなったら、いつでも寝ていいからな?」
持っていた小枝をパキリを割って、火の中に投げ込む。
初めはそのままぽとりと下に落ちたが、次の瞬間ぼっと火がついて瞬時に燃えて消えてしまった。
それをお互い虚ろな瞳で見詰める。
あたりを見まわせば、見張りであるレナとボーマン以外が寝袋にくるまって寝ている。
ここは雪と氷の山。力の場。その山の小さな洞窟の中で、一向は一夜を越すことにしたのだ。
めづらしくボーマンが見張りをかって出、レナもそれに続いた。
ここで過ごす夜は今夜で3日目だ。
1日目はディアスとセリーヌが。2日目はノエルとチサトが夜の見張りをしていたから、順番から言ったら当たり前なのだが…メンバーのみんなは幼いメンバーに気を使い、あまり夜の見張りは薦めなかった。
だからレナはこうやって見張りをするのは久しく、慣れていないことなので少し緊張していた。
それでも…今夜は見張りがしたくて。
見張りがしたい…と言うよりも起きていたくて。
目の前の人と…二人きり…と言うわけではないが、話していたかったのだ。
「明日には宝珠が見付かるかしら?」
ぽそりとレナが問い掛ける。
白い息がふわりと辺りの闇に溶けて消えた。
「そうだな…そろそろ皆、体力的にも精神的にも辛いだろうしな。」
ボーマンが苦笑する。
それにレナはふふっと笑った。
「ここは寒いものね。エクスペルにはこんなとこなかったわ。」
「いや…そうじゃなくて。」
ちろりと寝ている仲間を見ると、ボーマンはおかしそうに微笑する。
レナがそのボーマンの視線の先を目で追うと、ころんと寝返りをうったクロードがいた。
そのクロードの後をアシュトンがころころと転がって背中に貼りついた。
「やっぱり寝袋でも寒いものね。」
「いや…あーまぁ…そうだな。」
レナの言葉にボーマンが苦笑する。
そのボーマンにレナは不思議そうな瞳でボーマンを見返した。
その瞳から逃げるようにボーマンが立ち上がる。
「ボーマンさん?」
「んーちょっと待ってろ。」
ごそごそと荷物を漁り、ボーマンは何かを掴むとくいっと引っ張った。
茶色い大きなマント。
「ホラ。こんなんでもあったほうがマシだろ?」
「え?」
そしてそれを引き出すと、ばさりとレナの上に落とした。
ぱふんと大きなマントが落ちてきて、レナは慌ててソレを引っ張る。
顔をマントの下から出すと、ぱちぱちと瞳を瞬いた。
「あ、ありがとうございます。」
そしてぎゅっとそれを掴むと、くるりと自分の身体を包み込んだ。
「あ…。」
そしてボーマンがまたもとの位置に戻ったのが目に入った。
実を言うと自分は結構寒かったわけで…ボーマンは?ボーマンは寒くないんだろうか?
「ボーマンさんは?平気なの?」
「んー…あーちっと寒いけど、たいしたことねェよ。」
「………。」
ゆらゆらと揺れる炎。
ゆらゆらと揺れる…心。
レナはその瞬間ふらっと浮んだ考えに、こくりと唾を飲み込んだ。
炎に面している顔は熱い。熱くて、熱くて…でもきっと顔が紅いのはこの炎のせいじゃなくて。
寒さからじゃない。震える指でマントを掴むと、立ち上がった。
「レナ…?」
「風邪ひいたら…大変じゃない。」
ずるずると自分には大きめのマントを引き摺って、ボーマンの近くに寄った。
「平気だって。」
「だめ。」
ばさりとマントを翻す。自分の頭に引っ掛けて、大きく両手を広げた。
マントを広げたせいでさっきまでの熱が逃げてしまったけれども、それでも自然と寒さは感じなかった。
そしてふわりと。ばさりと。
両手でマントを広げると、そのまましゃがみこんだ。
とたんに二人の視界は暗くなる。
マントが二人の身体を覆って、炎の明りから二人を遮ったからだ。
「おいっ…レナっ…!」
ふわりと鼻を擽るお互いの香。
それに一瞬どきりとして、ボーマンは戸惑った。
驚いて上に上げた手が、レナの柔らかな頬を掠める。
それに更に驚いて、ボーマンは手を慌てて引っ込めた。
「ぼぉ…まん…さん……。」
レナはマントの端を握り締めた手をボーマンの首に回す。
暗闇の中でお互いの吐息がお互いの顔にかかる。そんな近い距離で。
「風邪…ひいちゃうじゃない。」
「んっ…!?」
レナはボーマンの唇に自分の唇を重ねた。
重ねた唇は氷みたいに冷たくて、かさついて震えていて。
それでもそれは彼のいつもの唇で、やわらかな唇で。
かさついた唇をぺろりと舐める。
身体がカーっと熱くなって、お互いばさりとマントをはいだ。
「レナっ…お前なぁっ…!」
「だって…もう、3日もキスしてないんだもん。」
「〜〜〜〜ああっ!もうっ…!」
ぐしゃっと前髪を掻き乱すと、ボーマンは諦めたように笑った。
落ちたマントを拾うとふわりと自分の背中に回す。
そしてにやりと彼独特の笑い方をして、自分の前に座るようにレナに瞳で促した。
「あたためて〜。」
「甘えるなよ。」
「いーの。甘えたいお年頃だから。」
「わけわかんねェー。」
レナが笑いながらぽすんとボーマンの胸に背中を預ける。
そしてボーマンの持っていたマントの端を受け取ると、自分の前に持ってきて握り締めた。
背中に感じるボーマンの温もりが、暖かくて心地良い。
「きゃっ…!」
するりと腰に回された力強い腕に、レナが身体をピクリと跳ねらせる。
それにははっとボーマンは笑って、腕の中の暖かな愛しい人の熱を味わった。
目の前の蒼い頭に顎を乗せて、ぎゅっとレナを抱き締める。
「顎乗せないでくださいよ〜。」
「やだ。」
「もう〜。」
不満の言葉でも、口調は嬉しそうで。顔は自然と緩みっぱなし。
相変わらずの矢理取りと、相変わらずの優しい腕の中。
ここにいるのが一番温かくて、心地良くて、落ちつく。
レナはうとうとしてきてしまって、小さく船をこぎはじめた。
そのレナにボーマンはくすりと笑って、そっとその頭に口づけた。
腕の中にいる愛しい少女。
どうしてこの山に登っていると、夜の見張りをかって出るのは男ばかりなのか、そして何故女が付き添いをかって出るのか、気が付いているんだろうか?
「俺も例外じゃないんだけどな…。」
ぼそりと呟くと、腕の中の少女以上に熱く火照る自分の身体に、困ったように苦笑いをした。
あとがき
あらあらあらあら…
コレ、何?シリーズ(笑)?
クロアシュで書いたお話と繋がってるのですが…
もしかしてノエチサ・ディアセリでもかけるんじゃね(笑)?
力の場編、大活躍!
見どころはチサトさんにオロオロするノエルさん…?
コレ本当はマントの中でモゴモゴ…って話しにしようかと思ったんですが
ボーレナ裏ばっかりなので止めときました(汗)
何かにくるまって隠れてちゅう好きです…はっ!?
うわっ!アシュプリで書きたい隠れてちゅうがオラクルのごとく
頭に閃いた…!!!書きてェェェェェ…!!!
力の場のお話、あともう一個書きたいんです〜
アシュ受の裏でv
力の場、本当にありがとう!!
ありがとう雪山!笑
2002/10/29 まこりん
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