■■■ 洗濯日和
手にとって…そっと。
胸に抱き締める。
鼻を押し当てれば、埃と、血と、汗の匂い。
それらの匂いに紛れて、微かにあなたの匂いがして。
それだけで胸が愛しさで満たされていく。
口許を緩めた瞬間…ぶわっと強い風が吹いて。
私の髪と、抱き締めたそれを舞わせた。
ばらばらに乱れた髪を手で抑えて、
バタバタと風に乗ったあなたの大切なコレを抱き締める手に力を込めて。
ばたばたと風に舞う…。
あなたの大切な。
私の大好きな。
白衣―――――。
「いい天気。」
空を見上げれば青空が広がっていて。
ところどころに小さな雲。
爽やかな風に乗って感じる、花の香。
少し汚れたあなたの白衣。
大好きなものに囲まれて、私は用意したタライにホースで水を注いだ。
ぱしゃんと水が弾けて、太陽の光にキラキラと輝いて。
大きな白衣をその溜まった水に浸すと、粉石鹸をぱらぱらとかけた。
ぱしゃぱしゃと勢いよく白衣を洗う。
石鹸のいい香が辺りに広がって、ところどころに浮んだシャボン玉。
白い泡が水面に浮んで、私の腕にまとわりついて、じゃぶじゃぶ音をたてて洗う。
だんだん気分がよくなってきて、気が付いたら自然と歌を口ずさんでいた。
「ご機嫌だな。レナ?」
声をかけられて振りかえると、いつもみたいに咥えタバコのあなたが立っていて。
それに自然と笑った。
「だってこんなに天気が良いんですもの。」
ぱしゃんと音を立てて水をすてると、綺麗な水を再びホースでタライに入れて。
真っ白になった白衣を綺麗な水ですすいだ。
「お?白くなったな。」
「がんばったのよ?」
水を絞ってぱんっと広げれば、濡れた白衣が再び風に舞い。
近くに用意した洗濯紐にぶら下げた。
ぱたぱたとはためく大きな白衣。
白衣の向こう側に見える、どこまでも広がる青空。
鼻を擽る花の香。
近くに感じる、あなたの気配。
ダイスキ。
大好きなものに囲まれているだけで、こんなに心が幸せで満たされるなんて…
単純ね?私も。
でもいいの。
この幸福な空間は、あなたがいるからこそ感じられる空間だから。
「あまり汚さないでくださいよ?」
軽く唇を尖らせて言えば、あなたはホラ、やっぱりいつもみたいに苦笑して。
でも白衣を着ていないあなたはどこかいつもと雰囲気が違っていて、それだけで何故か胸が騒ぐわ。
「わりぃ。この前もお前に洗ってもらったんだっけな?」
「私、白が好きだわ。」
すっと…風にはためく白衣を眺める。
真っ白い、大好きな、白衣。
「…好きな色なんだ?」
「うん…白が好きになったのは…最近だけどね。」
ふふっと笑って、言葉にちょっと意味を持たせて。
全部言わなくても、あなたにはちゃんと伝わるでしょう?
興味ありげな瞳で、満足そうにあなたは私を見た。
その瞳が、どうしようもないくらい…ダイスキよ。
捕らえられて、目が逸らせない。
「ボーマンさんは?何色が好き?」
「俺か?俺は―――――。」
その瞬間、ひときわ大きな風が吹いて、ばさばさと白衣が風に舞って。
私の髪も激しく乱れて、スカートも捲れて。
慌てて髪とスカートも抑えながらあなたを盗み見ると、あなたは首に巻き付いたネクタイをうっとおしそうに掴んでいた。
「あーあー髪乱れてんぞ?」
さらりと、手で梳かされる。
そのとき微かにあなたの指が私の首に触れて、ぞくりと身体が震える。
擽ったくて、際どい指先の動きに、身体の全神経がもっていかれて。
「ボーマンさんの好きな色は?」
私の問いに、あなたは意地悪そうな瞳をして、唇の端を持ち上げた。
「さぁ?何色だと思う?」
さらりと…視界の端に映った、あたなの指をすり抜ける私の髪。
キラキラと太陽の光に輝いて、それはぱらりと肩に落ちた。
「知ってどうする?」
意地悪そうなあなたの口が動いて。
私もつられて…口許を緩めた。
「秘密よ。」
強めの風が吹いて、今日は何度も白衣がばたつく。
風が通り過ぎた後、去ろうとしたあなたがそっと手を後ろにさしだして。
さしだされた指先に私も自分の指先を絡めた。
広くて大きな背中。
絡めた指先の冷たさ。
風に舞う白衣。
白が好き。
白は―――――あなたの色だから。
あとがき
突発ショート
日常のヒトコマが書きたくて
洗濯しているレナちゃんが書きたくて
こんな意味のないものができました…(汗)
ボーマンさんの好きな色は…わかる人だけわかってください(汗)
あああ…上手く表現出来なくて…ちくしょう…ううう…
最近思うのですが、私ボーレナ好きみたい
いや、前から好きだったんだけど
自分の書くボーレナの形、好きみたい……
2002/11/14 まこりん
|