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「ねぇ。キスして。」

ねだるような甘い声。
いつの間に、こんな声が出せるようになったんだろう。
そうねだる私に、あなたは少しだけ困ったように笑って、口に咥えたタバコを揺らした。

「ね?いいでしょ?」

そのタバコを彼の口から抜き取って、近くにあった灰皿に押し当てようとして…その手首を捕まれた。
熱くて強い、その手に胸がわずかにどきりと跳ねて。

しょうがねぇな。

そんな瞳で、私の唇に彼の唇が掠め取られる。

しびれるような感覚。
触れた唇が、寂しい。

もっと。
もっと。

こんな掠めるような、こんな当てただけの、キスじゃ物足りないの。

「ボーマンさん…もう1回。もっと…ちゃんと…。」
「レナ。」

とがめるような強い彼の口調。
駄目。
駄目なの。

もっと欲しい。
欲しくて、欲しくて、切ない。

与えられない微熱に、気が狂いそう。

「ボーマ…。」

「あなた。ちょっと―――。」

ぴくんっと、彼と、私の肩が揺れて。
彼は私の手首をはなすと、指の間に挟まれたタバコを抜き取った。
そしてそれを再び口に咥える。

ゆらりと、紫白の煙が揺れる。

背中を私に向けた彼に、握りこぶしを作って。
震える唇を開いた。

「ボーマンさん!」
「また、今度な。」

ひらりと手のひらを振って、彼は部屋から出て行ってしまった。
ぱたんと閉じられた扉。

「なんだよ。」
「この薬なんだけど、在庫が―――。」

扉の向こうから聞こえてくる、彼の声と、彼の奥さんの声。
柔らかな二人の声―――。



ぎゅっと唇をかみかめた。
涙で目の前がにじむ。

彼の最優先は―――あのヒト



「今度なんて―――イラナイ。」

いらないのよ。
欲しいのは今。
今キスが欲しい。
今抱きしめて欲しいのよ。

私の唇に触れたその唇で、あなたは次に誰の唇に触れるの。
私に触れた指先で、誰に触れるの。

誰に愛をささやくの。



今。

今傍にいて欲しいのに。



次なんていらない。


あとがき

どんどん女になってくうちのレナをなんとかしてください…
てかすごい状況だよコレ。
ボーマンさんのうちですよね…
ボーレナED後かな…?

正妻と愛人を囲う男ボーマンにもびっくりです…

2004/07/24 まこりん



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