■■■ 今
「ねぇ。キスして。」
ねだるような甘い声。
いつの間に、こんな声が出せるようになったんだろう。
そうねだる私に、あなたは少しだけ困ったように笑って、口に咥えたタバコを揺らした。
「ね?いいでしょ?」
そのタバコを彼の口から抜き取って、近くにあった灰皿に押し当てようとして…その手首を捕まれた。
熱くて強い、その手に胸がわずかにどきりと跳ねて。
しょうがねぇな。
そんな瞳で、私の唇に彼の唇が掠め取られる。
しびれるような感覚。
触れた唇が、寂しい。
もっと。
もっと。
こんな掠めるような、こんな当てただけの、キスじゃ物足りないの。
「ボーマンさん…もう1回。もっと…ちゃんと…。」
「レナ。」
とがめるような強い彼の口調。
駄目。
駄目なの。
もっと欲しい。
欲しくて、欲しくて、切ない。
与えられない微熱に、気が狂いそう。
「ボーマ…。」
「あなた。ちょっと―――。」
ぴくんっと、彼と、私の肩が揺れて。
彼は私の手首をはなすと、指の間に挟まれたタバコを抜き取った。
そしてそれを再び口に咥える。
ゆらりと、紫白の煙が揺れる。
背中を私に向けた彼に、握りこぶしを作って。
震える唇を開いた。
「ボーマンさん!」
「また、今度な。」
ひらりと手のひらを振って、彼は部屋から出て行ってしまった。
ぱたんと閉じられた扉。
「なんだよ。」
「この薬なんだけど、在庫が―――。」
扉の向こうから聞こえてくる、彼の声と、彼の奥さんの声。
柔らかな二人の声―――。
ぎゅっと唇をかみかめた。
涙で目の前がにじむ。
彼の最優先は―――あの女。
「今度なんて―――イラナイ。」
いらないのよ。
欲しいのは今。
今キスが欲しい。
今抱きしめて欲しいのよ。
私の唇に触れたその唇で、あなたは次に誰の唇に触れるの。
私に触れた指先で、誰に触れるの。
誰に愛をささやくの。
今。
今傍にいて欲しいのに。
次なんていらない。
あとがき
どんどん女になってくうちのレナをなんとかしてください…
てかすごい状況だよコレ。
ボーマンさんのうちですよね…
ボーレナED後かな…?
正妻と愛人を囲う男ボーマンにもびっくりです…
2004/07/24 まこりん
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