私が彼を好きだと気が付いたのは、
彼には奥さんがいることを改めて思い知った時だった。
いつも私の料理を褒めてくれて、手当てに優しく微笑んでくれて。
笑いながら頭を撫でてくれる、その大きな掌が大好きで。
すっかり忘れていたの。
今の彼の優しさは自分だけに向けられているものだと、勝手に思ってた。
あの笑顔も、眼差しも、掌も。
すべてが私だけのものだと。
■■■ 口実
「あれは・・・・・・。」
とある街にある宝石店の窓から、見慣れた背中が目に入ってレナは足を止めた。
真っ白い、白衣。
その姿に引き付けられるように、店内への扉をくぐって・・・・・・果てしなく後悔した。
ガラスケースの中に入ったアクセサリーを見ている背中。
数日前、彼の『奥さん』にプレゼントを選んだコトを思い出した。
とたんに恐くなって、身体が一気に冷や汗をかいて。
慌てて外へ出ようとしたトコロで・・・・・・・。
「よぉ。レナじゃねぇか?」
見つかってしまった。仕方無く振り返る。
そして笑顔をつくってみせた。
「ボーマンさん。」
うまく笑えているかしら?
バレていないかしら?
私の想いに。
「何を見てたんですか??」
なんて白々しくボーマンの見ていたケースを覗きこむと、
そこにはショーケースの中にあるライトで輝く、宝石を付けたリングがあった。
どきりとして、思わず泣きたくなってくる。
「奥さんへのプレゼント、ですか?」
声が、少し震えた。
「・・・・・・・・まぁな。」
耳に届いたボーマンからの返事に、少しだけ、胸がツキンと痛んだ。
キレイなエメラルドのリング。
会ったことのある彼の奥さんの瞳の色と、同じ深い碧の色をした石が付いていた。
顔を上げると困ったように微笑むボーマンがいて、レナは痛む胸に一瞬眉を寄せた。
なんでだろう。
なんで私じゃないんだろう。
なんでもっとはやく、彼に会えなかったんだろう?
なんとなく悔しくなってきて、ちょっと甘えてみたくなった。
「あ、ボーマンさん!私、明日誕生日なんですよ!
このリング買ってくださいよ〜。」
他のものならまだしも、リングなんて無理だってわかっているけれど、なんだか言ってみたくて冗談っぽく言ってみる。
・・・・・・・・・半分以上本気なんだけれど。
コレは、口実。
あなたから指輪を貰う口実。
「いいぜ。買ってやるよ。コレ。」
「ほ、ホントですか?!」
無理だって、思ってた。
でも、心のどこかで期待していた。
ボーマンの言葉に、レナの顔が綻ぶ。
あまりにも驚いてしまって、あまりにも嬉しくって、なんだか泣きたくなってくる。
大好きな人が、自分の為に何かを買ってくれる。
それが本当に嬉しくて。
さっきはここに来てしまったコトを後悔していたけれど、
今は本当に来てよかったと心から思えた。
「エメラルドはレナの誕生石だろ?それに・・・・・・。」
ボーマンが店員に指定しながら言葉を続けた。
ショーケースから出されたリングがきらりと煌いた。
「お前の髪の色に、よく合っている。」
なんとなくだけれど、自惚れかもしれないけれど。
その時のボーマンの頬が紅かったような気がした。
それがレナにとってはとても嬉しくって。
髪の色に合うと言ってくれたのが嬉しくって。
レナは満面の笑みを浮かべた。
その笑みにボーマンが目を奪われて言葉がでなかったのだけれど、
サイズを聞いてきた店員に気をとられて、レナは気が付けなかった。
「おいおい・・・・・。そこには本命のリングをつけるものだぞ。」
「仕方ないじゃないですか〜!丁度合ったのがココだったんですから!
明日にはこの街出ちゃうんですよ〜?サイズ直す時間無いんですもん!」
左手を太陽に翳すと、薬指がきらりと輝いた。
それが嬉しくって何度も太陽に翳しては、輝く様を楽しんだ。
うれしい。
うれしい!
大好き。
本当に、あなたが、好きなんです。
奥さんがいるってわかってる。
微笑みも
暖かい掌も
私だけのモノじゃ無いって
わかってる。
でも
大好きなんです。
こんな些細なプレゼントで
嬉しくって
はしゃぎたくなるくらいに
大好きなんです。
「あ、でもボーマンさんには迷惑かな?」
冗談っぽく言ってみる。
でも心の中では迷惑なんて言わないで。
って気持ちでいっぱいで。
呆れたように、仕方なさそうに微笑みながら、煙草の煙をふかしたボーマンの顔を覗き込んだ。
くしゃっと髪の毛を鷲掴みにされて、あの大好きな暖かい掌で頭を撫でられる。
それがレナにはやっぱり嬉しくって、ボーマンの腕に抱き付いた。
「ありがとう!ボーマンさん!」
「・・・・・・お誕生日、おめでとう。」
「明日ですってば!」
「そうか、そうだったな。」
抱き付いた腕も温かくて
掛けられた声も優しくて低くて
身体の奥に響いて伝わる。
さっきまでの淋しい気持ちはなくなっていて幸せで胸がいっぱいな気がして。
レナはそっと、ボーマンにバレないように・・・・・・
左手の薬指で煌くリングに唇を当てた。
「・・・・・・・。」
レナはバレないようにしたつもりらしいが、ボーマンにはレナがリングに口付けるのが見えていた。
なんとなく左胸の奥が疼いて、ボーマンは困ったように苦笑した。
実はボーマンは明日がレナの誕生日だとわかっていたのだ。
何かをあげようと思って、レナの大好きなアクセサリーを見にお店に入っていた。
似合うだろうと思ったのが只のアクセサリーならば、
『いつものお礼』としてあげればよかった。ただ、気にいってしまったのは・・・・・・。
指輪で。
さすがにコレは何か口実が無いとあげられる代物ではなくて・・・・・・。
だから、レナの言葉はチャンスだった。
指輪をあげるための、口実になったわけだ。
(口実・・・・・。ね。口実が無いとオンナに指輪もあげられないなんて・・・・。)
「喜んでもらえてよかったよ。」
笑いながらもう一度煙草をふかす。
軽く重みを感じる腕に、ソコに当たる柔らかな感触に、胸が擽ったくなる。
空には雲一つ無い青空が広がっていて、心地良い風が頬を撫でた。
(オレもまだまだ、だな・・・・・。)
今までに見たコト無いくらい幸せそうな笑顔をした少女の・・・・・
左手がキラリと輝いた。
あとがき
はい。ボーレナでしたv
ボーレナってカップリング大好きなんですよ〜
コレは某所でキリ番踏んでリクしてくださった
ごんざれすさんに捧げたものです
書いていてなんだか幸せになちゃったv
でもちょっと切なげ(苦笑)
書くのが楽しかったです〜
2001/11/03 まこりん
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