両手いっぱいに抱えた買物袋。 かなりお買い得だった品物に、満足そうに笑いながらアシュトンは宿屋の自室の扉を開けた。 「ただいま〜・・・・・うわっ!!?」 開けたと同時に何かが腰にとびついてきた。 それにバランスを崩して、アシュトンは2.3歩あとずさる。 腰に感じる重い何か…。 おそるおそる腰元を見ると金色の髪の毛が見えて、アシュトンはほっと息を付いた。 「ク、クロード・・・・・?」 自分の腰に回された腕を軽く掴むと、抱きついててきている青年の名前を戸惑いがちに呼ぶ。 「な、何・・・・・?突然・・・・・・。」 返事の無い青年に、困ったように腕を引き離そうとするけれど、ぎゅっと力を入れられてそれも出来なかった。 するすると中腰だったクロードが立ち上がる。 アシュトンの背中に自分の胸を密着させると、クロードは不機嫌そうな顔で口を開いた。 「・・・・・どこいってたの?」 「え・・・・?」 ふてくされた様にクロードが尋ねてくる。 その時僅かに背中に暖かな吐息を感じて、アシュトンは肩を竦めた。 「ボーマンさんと!・・・・・・どこいってたんだよ?」 クロードは後ろから抱きついてきているので、アシュトンにはクロードの表情が見えなかった。 でもなんとなく…声が、喋り方が、クロードの拗ねた時のソレで。 「・・・・・・・・妬いてるの?」 「・・・・・・・・・・。」 黙りこんだ青年に思わず口許を緩めると、アシュトンはクロードの腕をぎゅっと握り締めた。 ヤキモチを妬いていることは確からしい。 こう言ってはなんだが、それがとても彼らしくてかわいらしいとアシュトンは思った。 「かわいい」と言われることを、嫌がる彼に直接言うことは出来ないけれど。 こんなクロードを見るのは楽しかったし、妬いて貰えるのはほんの少し嬉しかったから、 今暫くこの状況を楽しもうかとも思ったのだが…。 以前ヤキモチを妬いたクロードに、さんざんな目にあわせられたので早めに誤解を解いた方が良い。 そう思ってアシュトンは慌てて口を開いた。 「ただ、調合の材料買いに行ってただけだって。」 「・・・・・・・朝起きたら、隣に寝てたはずの恋人がいなくなってたらビックリするじゃん?」 「だって、クロード昼になっても起きないし・・・・・・。」 「だってアシュが寝かせてくんなかったんだもん。」 「それはこっちの・・・・・・・・っ!!」 ばっと口許を手で覆って、真っ赤になって俯いたアシュトンが可愛くて。 クロードは口許を緩めると、そのままアシュトンを抱きしめる腕に力を込めた。 「よっと・・・・・。」 「うわっ・・・・!!」 ばすっ・・・・・! 勢いよく二人してベッドに倒れ込む。 「イタタ・・・・・。何するんだよ〜。クロード!」 「やっぱりさ。何ていうか・・・・・・・。せっかくのオフなわけだし。」 そろそろとアシュトンの服の裾から手を滑り込ませる。 それに驚いたようにアシュトンがびくりと身体を震わせた。 「な、な、何してんの!!?」 「いや、何って言うか・・・・・ナニ・・・・・?」 「馬鹿言ってないでよ!こんな昼間から!!」 ぽかぽかと頭を叩いてくるアシュトンに、「チッ。」と舌打ちして、クロードはアシュトンの手首を掴んだ。 剣士とは思えないほど、細くしなやかな手首。 そのままシーツに押しつけると、アシュトンに覆い被さった。 「ちょっと!クロード〜〜!」 これじゃあ、誤解を解いても解かなくても、結局昼間からこうなるのか! アシュトンがじたばたと暴れるが、こんな時のクロードはかなり強い。 何も言わない。 ただ、優しい瞳でアシュトンを見詰めているのだ。 力強い手で、アシュトンの手首を掴みながら、ただじっと………。 アシュトンが『落ちる』のを待つ。 「・・・・・・・。」 「・・・・・・・。」 じっと、お互いの視線が交差する。 真剣なクロードの瞳に、アシュトンは耐え切れなくなってついにしてぎゅっと目を瞑った。 (あっ・・・・・しまった・・・・・。) と思った時には、時すでに遅し。 唇に生暖かな、リアルな感触。 ふっと目を開くと、深い碧の瞳があった。 吸い込まれそうなその色に、アシュトンは魅了されそうになる意識を繋ぎ止めるかのごとく、必死に拳を握り締めた。 唇を割って入ってくる柔らかな生き物。 逃げようとしても、その抵抗も空しく絡めとられて吸い取られる。 頭がくらくらしてくるほどの口付けに、アシュトンは遂に理性を保てなくなってきた。 何も考えられなくなる。 求めるのは甘い・・・・・・刺激。 「ん・・・・・。」 逃げていた舌を、自分から絡める。 クロードの首に腕を回すと、引き寄せた。 そのアシュトンに、クロードも本格的に舌を絡め始めた。 「んんっ・・・・・。ふっ・・・・。」 キスに夢中になって、お互いの舌を求める。 アシュトンの唇の端から、どちらのものともとれない透明な液体が漏れた。 輝く糸を引きながら離れていく唇に、名残おしそうにアシュトンが唇に力を込める。 もっと、もっと・・・・・と、ねだるような、その濡れた唇。 濡れた瞳。 唇から漏れる、切なげな吐息。 なんてソソル、表情。 アシュトンが濡れた瞳でクロードの瞳をじっと見詰めた。 キスのせいか…頬はほんのりと紅く染まって、熱い吐息がクロードの唇にかかる。 それはどうみてもクロードを誘うもので。 濡れる唇を指で摩れば、アシュトンの唇にほんの少し力が込められる。 くすりとクロードは笑みを漏らすと、そのままアシュトンの首許に顔を埋めた。 だだだだだだだだだ・・・・・・・・・・!! けたたましい足音が辺りに響く。 ばたん!! ドアが壊れそうなほどの勢いで扉が開かれた。 その慌しい音に、クロードはまどろみから覚醒した。 「ククク、クロードっ・・・・・!!!?」 まだうまく働いていない頭を持ち上げてゆっくりと声の方へと視線を向ける。 するとそこには耳まで真っ赤に染めて、乱れた服の襟許をぎゅっと握り締めて俯くアシュトンが立っていた。 「アシュ・・・・・?」 「ききき、君はっ・・・・・!あ、アト、つけないでって、何回言わせるんだよぉぉぉっ・・・・!! お風呂、入れないじゃないか〜〜〜〜!!」 ふるふると震えて怒鳴るアシュトンに、ふっと含み笑いをするとクロードは再び枕に顔を埋める。 「今、レオンとお風呂に行ったら、なんて言われたと思う!!?」 「声が外まで聞こえてたよ・・・・とか?」 もぞもぞと布団を手繰り寄せて、身体を丸めるとクロードはアシュトンから背を向けた。 「知ってたの!!?」 「でもって、アトがついてるよ。とか、言われたんだろ?」 「クロードっ・・・・・・!!」 どすどすと音をたてながらアシュトンが近付いてくる。 それにクロードは苦笑すると、くるりと振り返った。 これでもかってくらいに真っ赤に染まったアシュトンがものすごい表情で自分を睨み付けていた。 むくりと起き上がると、悪戯っ子のような瞳でアシュトンを見詰める。 「魔除けっていうか・・・・・・。」 苦笑しながらクロードがアシュトンの手をそっと握り締める。 クロードのセリフにアシュトンがぱちくりと目をさせた。 「魔除け?」 「そ。どっかの色ボケ薬剤師とか、どっかのクソ生意気博士とかが手だし出来ないように。 僕のモノってシルシ。」 「・・・・・・・ばっ・・・・・。」 ぼんっ!と、火山が噴火したみたいに真っ赤に染まった、アシュトンの手を引き寄せる。 バランスを崩したアシュトンが、ぱふっとクロードの胸に倒れこんだ。 真っ赤になって声も無く混乱しているアシュトンの耳許に口を寄せると、クロードは口許を緩める。 「見られるの嫌なら、僕とオフロ、入ればいいじゃん?」 「・・・・・・・。」 「ま、普通に入るだけじゃすまないと思うけれど。」 くすりと笑うと、クロードはぺろりとアシュトンの耳を一舐めした。 そしてふっと、暖かな吐息を吹きかける。 その感触に驚いて顔を上げたアシュトンの表情に、勢いよく吹き出した。 「アシュトンかわいー!」 「ばばばばばばばかっっっっ……!」 ばふっ! 「うわっ!」 楽しそうに笑うクロードに、アシュトンがおもいっきり力強く枕を投げつけた。 そしてどすどすと脚音をたてると、怒って(照れて)部屋から出ていってしまった。 ばたんっ!! 激しく扉の閉まる音がする。 「あはははははっ!」 誰もいない部屋でひとり笑いだすと、クロードは先程叩きつけられた枕を手にとった。 なんて楽しいんだろう。 初々しくて、かわいくて、ついつい苛めたくなってしまう。 次はどんな風にからかおうか? クロードは含み笑いすると枕を抱きしめ、 ふたたびベッドに潜り込んだ。 あとがき |