最近アシュトンがやけにかわいい。 って、別にアヤシイ意味じゃなくて、いやアヤシイ意味か…? とにかく、なんだか反応がかわいい。 目が合うと少し困ったような瞳をした後、頬を染めて笑いかけてきたり。 手を握るとピクリと反応して真っ赤になったり。 何か言いたそうに口を開いたかと思えば俯いて。 そんな反応が、かわいい――――。 男のアシュトンにかわいいなんて、おかしいし、悪いとは思うけれどやっぱりかわいくてかわいくて。 ちょっと僕はおかしいのかも…。 でも…。 でも。愛しいなぁ〜って、本当に――――本当にそう思う。 雲ひとつない青空が眺められる、なんにもない丘の上で。 見慣れた背中があった。 ふわりと風が舞って…僕の鼻に掠った甘い香。 そこに座りこんで青空を眺める彼から香ったのだと思う。 彼が最近愛用しはじめたコロンの香。 この香は結構好きな香で。 いや、彼がつけているから好きなんだけど。 「アシュトンっていい匂いがするよね?」 「えっ…?」 「風に乗って…感じたよ。」 思いきって声をかけたら、アシュトンが降り返る。 彼の茶色がかった黒髪が、風に舞って…再び鼻を擽る香。 振りかえった顔は、やっぱり真っ赤でかわいくて。 僕はついつい笑ってしまう口元はそのままに彼に近付いた。 「そ、そうかな?」 「うん。いい匂い。好きだな。」 これは本心。 別に下心があるとか、ご機嫌とってるってわけじゃなくて。 僕がそう言うと彼は照れたように…でも嬉しそうに笑った。 その笑顔がやっぱり大好きな笑顔。 花のように笑って、アシュトンは真っ赤に染まった。 「あ…ありがとう…。」 素直なお礼の言葉は彼らしい。 今のこの二人の空気がなんだか嬉しくて、僕の胸が幸せで満たされていく。 アシュトンはスゴイと思う。 こんな風に僕が幸せだと感じる空気を、いつでも僕に感じさせてくれるから。 「隣いいかな?」 「うん。いいよ。」 慌てて隣を空けるアシュトンが面白い。 別にただの丘の上だから、アシュトンが場所を空けてくれる必要はないんだけれど。 でもせっかく彼が空けてくれたので、そこに大人しく座りこんだ。 なんとなく…アシュトンの腰に腕を回そうかな…? と思って…腕を伸ばそうとした時、俯いていたアシュトンがぱっと顔を上げた。 「ぼっ…僕も好きだな。」 「何が…?」 言われて思わず口からでちゃったけど。 ………これは…結構嬉しいかもしれない。 不意打ちをくらった『スキ』の言葉に、身体中が熱く火照る。 アシュトンも恥かしくなったのか、真っ赤に染まって大きな瞳を見開いて。 それがまた可愛くて、僕はくらっとしてしまう頭を軽く抑えた。 「ク、クロードの…香。」 耳に届いたアシュトンの言葉に、一瞬時が止まる。 次の瞬間、身体中の血液が沸騰したかと思った。 なんだか…すごく恥かしい…気がする。 イヤラシイって言うか…なんていうか…。 でもアシュトンがすごく幸せそうに笑うから。 僕もつられて笑った。 「………ありがとう。」 なんとか素直にお礼を言って…そっと…アシュトンの腰に腕をまわすと抱き寄せる。 素直にすとんと、アシュトンは僕の胸の中におさまって、あの甘い香を漂わせた。 もしかしたらこうして腕の中にいるアシュトンも、僕の香りを心地良いと思ってくれているのだろうか? だとしたらそれは本当に、嬉しいことなのだけれど。 とくん…とくん…と耳に届く命の鼓動はどちらのものなのか。 腕の中にいるアシュトンが温かくて、愛しくて。 僕は瞳を伏せた。 心地良い空間、空気。 アシュトンを抱き締めていられる、今この一瞬がとても好きで。 この一瞬を、アシュトンも好きでいてくれたらいいな。 ゆったりとこの愛しい空間を堪能していると、アシュトンが僕の胸にすり寄ってきた。 急激に込み上げてくる、愛しさ――――。 胸が苦しくて、愛しさで満たされ溢れ出しそうな気持ち。 耳に届く落ちついた呼吸音。 抱き心地の良い、愛しい人。 「僕ね、やっぱり――――クロードが大好きだよ。」 アシュトンの言葉に、弾かれたように―――――。 僕はここが外だということもすっかり忘れて… 愛しい彼の額に、キスを落とした――――。 あとがき |