■■■ air


目の前にある扉を叩こうと
持ち上げた手を止めた


唇をきゅっと噛みしめて
握り拳をつくると
それをじっと見詰める


「父さん・・・・・・。」


扉の向こうから漏れてきた声
その悲痛な声に胸が締め付けられる


自然と目頭が熱くなって
掌をそっと扉に押し当てると
そのまま全体重を扉に預けた


代われない痛み
すべてを理解することも
すべてを拭い去ることも
出来ない痛み


悲しみ?
怒り?
淋しさ?
後悔?


そんななんとも言えない
感情でいっぱいなのでしょうね


代われないどころか
癒すことすら出来ない自分


今の彼に
下手な慰めは
傷を深めるだけだと
わかっているから


薄っぺらい
軽はずみな
無責任な言葉なんて言えなくて。


何も出来ない
なんて無力な自分


代われない痛み

癒せない心

でも・・・・・・


あの日


自分が故郷を失い
胸にぽっかりと空いた
闇に沈んでいた時


あなたは何も言わずに
ただ傍にいてくれた


あの時ふっと心が軽くなったの


ねぇ?
クロード


だから・・・・・




カチャッ・・・・。


「きゃっ!?」
「うわっ!?」


突然身体を預けていた扉が開いて
倒れる・・・・っ!
って、ぎゅって目を閉じた


・・・・・・と、思ったけれど
とさり
と、目の前にある胸に抱き止められた


「セリーヌさん?」
「あ、あ、あ、あの・・・・・。」
「何してるんですか?」
「・・・・・それは、その・・・・・。」


なんだかとってもカッコ悪くありませんこと?
今のわたくし


「顔がユデダコみたいだよ?」


ああ、もう。
どうせ、わかってるクセに
わたくしが何しようとしていたか


そうよ
あなたが心配で


あなたのために何か出来ないかと
思ったけれども
自分の無力さに
一歩も踏みだせずにいたんですのよ。


わたくしの肩を支えていた手に
力が込められて


気がついたらクロードの腕の中にいた


コツンと
クロードがわたくしの肩に頭を置いた


「やさしいね・・・・セリーヌさん。」
「クロード・・・・。」


わたくしもクロードの腰に腕をまわして
小さく震える身体をきゅっと抱きしめた


伝わる身体の震えに
心が軋む


瞳が潤んできて
わたくしが泣いてどうするんですの
と、きゅっと唇を噛み締めた


わたくしの背中に当てられた手に
掻き抱くかのように力が込められた


その手の強さに
更に彼の痛みがダイレクトに伝わってくる


「・・・・・・。」


そっと、柔らかな髪に頬を寄せて
彼の頭を優しく撫でた


ねぇ?
クロード


痛みを
悲しみを


代わってあげることは
できませんけれど


痛みを
悲しみを
二人半分に分け合えたらって
思いましたの


薄っぺらくて
軽はずみで
何の意味も持たない言葉を言うよりも


あの日
あなたがしてくれたように


傍にいて
抱きしめて
優しく撫でてあげて


傍にいるだけで
ただ、一緒にいるだけで


悲しいことや
辛いことは
半分こに出来る


そんな存在に
わたくしはなれるかしら?


あの日
あなたが・・・・・


わたくしにとって
そうだったように。





あとがき

ふたり。空気みたいな存在に
そんな意味のタイトルです
辛いときに、悲しいときに
理解してあげようなんて思ったって無理なんだからさ
それを半分に出来る存在がほしいじゃない?
ってコトです(恥)

はい。ただ、私がたんたんと書きたかっただけでした

2002/01/23 まこりん



>>>戻る