■■■ 夕焼け


「……わたくしを好きだと言うけれど…。」

夕暮れが街を染める頃、ぽつりぽつりと彼女がまるで零すように言った。
その声は少し沈んでいて、少し鼻声で。
夕焼のせいじゃなくて真っ赤な瞳で、瞼を少し腫らして笑う。
その笑顔が、細い肩が―――すごく儚げだった。

「………クロードは…わたくしの…どこが好きなんですの?」

振り向いた彼女の顔に、どきりとする。
今にも泣き出しそうな笑顔に、心臓は早鐘の様に鳴り響いて。
思わず抱き寄せようとした腕をとめて、その震えに苦笑する。
ここで彼女を抱き寄せる資格は、今の僕にはなかった。

「…なら…セリーヌさんは、彼の…クロウザー王子の、どこが…好きだったんですか?」

『クリス』ではなく、『クロウザー王子』と言ってしまったのは、青臭い自分の幼さから。
それがわかっててわざと言ってしまうあたり、自分はなんて狡猾なんだろうか?
それでも手に入れたいものがあるから、卑怯になる。

「どこかしら…。わかりませんわ。でも好きでしたわ。好きで…好き過ぎて。涙がでるくらいに。」

ツキン…と胸の奥が痛んだ。
細い彼女の肩の上に、そっと手をのせる。
そのまま抱き寄せることは出来なかったから、のせただけ。
夕焼色に染まる辺りが、ほんのりと温かいのに。
心は何故か冷たくて。

「……僕も同じです。あなたを好きです。それは確かなのに、どこが?とか、何故?とかきかれても、それはわかりません。」

僕の言葉に、彼女は笑った。
その微笑がどこか淋しくて。

「こういう時はもっと気のきいたセリフを言えるようになりませんと。落とせるものも、落とせませんわよ?」
「でもたった一人の落としたい人が落とせないんじゃ意味無いですからね。僕がなんて言おうと、あなたは落ちない。」
「…そんなのやってみないとわかりませんわ。」
「わかってます。最初っから弟みたいなものでしかみられていませんからね。」

苦笑する僕に、彼女は再び笑った。
夕焼が二人を真っ赤に染める。

「最初から?」
「ええ…。つまり最初から僕には勝ち目がないってことです。まずはあなたに一人の男として認めてもらわないといけませんからね。そこからです。」
「最初から…ですの…。」
「………。」

ぽたりと。

再び彼女の瞳から涙が零れた。

ぽたぽたとそれは地面に染みを作って、彼女の小さな嗚咽が漏れて。
俯いた彼女の肩が小刻みに震えた。

迷っていた腕に、力を込める。

抱き寄せた彼女の肩はやっぱり小刻みに震えていて。

嫉妬した。

あの自分と同じ顔の男に。

彼女が涙を流しているのも、全部あの男のことを想ってなのだ。

こうして会話をしていても、彼女の頭の中にあるのはあの男への想いだけで。

泣くのも笑うのも全部全部あの男のことで。



いつか。



いつか。



彼女の笑顔も涙も、すべて自分のものになればいいのに。



そう想うと目の前が真っ赤に染まった。
それは夕日のせいじゃない。




あとがき

お…お礼ssが何故かカタコイ…!?
すすす、すみません…。

拍手ありがとうございましたv
コメントを下さった方には日記にて
お返事をさせていただいております。
よろしかったらチェックしてみてくださいv

2004/03 まこりん

ということでお礼ssにしようと思ったんですが
お礼にならないなぁ…って内容だったので(内容無いけど)
やっぱりアップしちゃいます。
お礼はsssにしようかと。

2004/03/20 まこりん




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