「死んでしまって会えないのと。」

「生きていて会えないのと。」

「どっちが辛いんでしょうね?」



そう言ったわたくしに彼は泣き出しそうな顔をして。

最後に見た彼の顔がそれなのかと思うと。

最後に彼にさせた顔がそれなのかと思うと。

泣きたくなった。





■■■ さよなら





「セリーヌさん…。」

「ごめんなさい。少し、いじわるでしたわね。」

笑ったけれど、きっと笑えてないのは自分でもわかってた。
顔がひきつってうまく笑えない。
彼の顔も…直視できなくて。

「すぐにっ………!」

「すぐに?」

弾けるように言葉を紡ぐ彼に、やっぱりわたくしは意地悪で。
彼がその言葉の続きを言えないのを知っていて聞きかえした。
ふるふると僅かに震える彼の手を、握り締めて。

「そろそろ行った方がいいですわ。折角戻れることになったんですもの。」
「セリーヌさんっ。僕は……あなたを……。」
「なんですの?」

握り締めた手を、握り締め返されて。
瞳が潤む。

泣いてはいけない。

ギリギリのラインでたもっていた涙が、滲みそうになる。

「この先も。ずっと。あなただけを愛しています。」

「ばかですわね。」

顔をぐしゃぐしゃに歪めて、唇を噛み締めて。

「オトコノコのクセになんて顔してますの?」

ぽんぽんと金色の頭を叩いたら、ぎゅっとぎゅっと。
強く抱き締められた。
背骨が折れるんじゃないかってくらい、強く、きつく、抱き締められて。

呼吸が苦しい。

でも…息が出来ないのは…抱き締められてるからだけじゃない。

「クロードっ…!」

がむしゃらに抱きついた。
何度身体を重ねても、唇を重ねても、淋しさが拭えなかったのはあの夜から。
クロードが他の星の人だと知ったあの夜から。
いつかは別れがくるのだと―――覚悟したつもりになっていて。

「クロードっ…クロードっ…!」

抱きついて、頬に、鼻に、唇に、キスをして、キスをされて。

鼻を擽るクロードの香。
キラキラと金色に輝くこの視界。
わたくしを覗き込む、碧眼の瞳。
優しい、柔らかな、キス。

2度と…感じることはないのかもしれない。

「だからっ…はやくいってって…いいましたのにっ…!!」

覚悟なんて―――ちっともできていなかった。

ぽろぽろと溢れ出す涙が止まらなくて、呼吸が苦しくて。
今まで何度も裸で抱き合った夜よりも、きっと今が一番心が繋がってる。
本当の気持ちで、繋がってる。
それが…わかった。

「さよなら。」

ぐいっと…両肩を押されて、息を呑んでいるうちに視界にはいったのは…走り去るクロードの姿。





涙が―――一瞬止まった。





「くろぉ…ど…。」

そして再び溢れ出す。
思いきり走り去るクロードの背中に、目は釘付けで。

約束なんてしなかった。
『さよなら』だなんて別れの言葉すら言われた。

一人。

腕の中にはクロードのぬくもりがあるというのに。
ぽっかりと。
ぽっかりと―――胸に空いた空間。

「わたくし…言ってませんもの。」

カタカタと震える唇に、指先を当てて。
ゆっくりと深呼吸を繰り返した。

「言ってませんわ…。」

だから―――また。

会いたいから――――会いたいから。

だから言わない。

別れの言葉なんて言ってやらない。

ぐっと握り拳を作って。

キッと前を見れば、もう見えないクロードの後ろ姿。

深呼吸を繰り返して、溢れる涙を拭って。

くるりと。

クロードの消えた方に背を向けて。

一歩。



足を前へと踏みだした。






あとがき

別れのシーン。
クロード地球に帰るです。
これは裏にある2本の小説の間…かな?

つうか最後までクロードに言わせようか悩んだんですけれど…
言わせちゃった………
クロードの心境偏も書けそうな感じですが…たぶん書きません〜

2004/04/29 まこりん




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