■■■ カキ氷を食べに行こう?
あれはまだ、彼を意識し始めて間もないころだったと思う。
外は蒸し暑くて、ただじっとしているだけでも汗ばんできて、長い自分の髪の毛が、汗で首や頬に張り付くのがすごく不快で。
それを指で拭っては、汗を含んだその髪が指に絡みつくのがすごく気持ちが悪かった。
空を見上げれば青い青い空。
真っ白い雲と、眩しい太陽。
視界全体が、白い。
そんな景色に眩暈すらする。
「あ、セリーヌさん。」
あまり効果はない気もしたが、直接太陽の下にいるよりは幾分かましな木陰で休んでいたら、遠くから眩しい金髪が見えた。
白い世界で黄金色に輝く眩しいソレに、瞳を細める。
暑さに少し頬を上気させて、汗で濡れた髪が額にかかるのを、指で拭いながら彼は走ってきた。
「クロード。」
べたべたと汗ばむ胸元に手を押し当てて、木に寄りかかっていた身体を起こす。
じわじわと蒸し暑くて、じとじとして、すごく不快で。
会話することすら鬱陶しいとも感じていたので、彼でなければそのまま無視したかもしれない。
「こんなところにいたんですね。アシュトンが、カキ氷を作ってくれてますよ。」
「カキ氷?」
「氷を削って、甘いシロップをかけたものです。地球の一部の地域で暑い日に好まれる食べ物なんですけれど、中々冷たくて、美味しいんですよ。」
「…甘いシロップ…この暑いのに?余計に甘ったるくて喉が渇きそうですのね?」
クロードの言うカキ氷に、訝しげに眉を寄せる。
ただでさえ暑くて暑くて、何も口にしたくは無いと言うのに。甘いものなんてなおさら、食べる気にはならなかった。『氷』は冷たいとも思ったのだけれど。
「いいからいいから。なんだったら、僕のを一口、食べてから決めてみてはいかがですか?」
「………そうですわね。」
「じゃあ。行きましょう!こっちです。」
とんっと。
とんっと、むき出しの背中に、彼の手のひらが当てられる。
汗ばむそこに突然感じた彼の熱に、とくんと。胸が音を立てた。
素肌に直接触れた、彼の肌に、胸がざわつく。
汗ばんでいるから触らないで欲しいとか、直接肌に触れないで欲しいとか、色々なことが頭を回って、何を言ったらいいのかわからなくて。
「暑いですわ。」
気がついたらなんとも冷たい言葉が口を出ていた。
その言葉にクロードの動きが止まって、促されていた背中からするっとクロードの手が離れた。
ああ…違うのに、と思っても、それを今更言うことはできなくて。
じわじわと蒸し暑い気温に、頭がぼーっとしてくる。
「あ、ごめんなさい。」
「…いえ…。」
謝る彼はにっこりと笑って。
ああ、わたくしはあんなに冷たい反応だったのに、そんな風になぜ、笑えるんですの。
ほんの少しの罪悪感。
「じゃあ、こっち。」
「………。」
するりと。自然に。手を引かれる。
そのてのひらも、汗ばんでいることに変わりは無くて。
どうしよう、どうしようと頭はやっぱり混乱して、なんだか汗ばんでいるのが恥ずかしくて、彼の手を振りほどこうと引っ張ってみる。
それでも彼は益々、わたくしの手を握り締める手に力をこめた。
「あ、汗ばんでますの。だから…。」
「うん。僕も。」
にへらっと笑う彼に、何もいえなくて。
さっきまで暑い暑いと感じていた熱が、熱い熱いにかわっていて。
周りの温度も暑いけれど、こんなに熱いのは、身体の中の熱のせい。
あとがき
暑中見舞いssの予定が
読んでいたら益々暑っ苦しくなるものに。
最近ばかっぷるばかり目にしていたり
耳にしていたりしたせいでしょうか…。
2004/07/30 まこりん
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