■■■ 願い


わたくしの手に伸ばされたクロードの手が、戸惑うように一度その動きを止めて。
一度ぎゅっと拳を握り締めると、それはゆっくりと開かれた。

真剣なクロードの空気が怖くて、顔が上げられなくて。
そのクロードの手だけをっじっと見てた。

「お願いだから。」

切羽詰ったような、重たい声が聞こえて。
肩がびくりと震えた。

「他に何も望まないから。これ以外。」

そしてクロードの手が、テーブルの上で握り締められたわたくしの手に触れた。
暖かな、クロードの手のひらに、わたくしの冷たい手が包み込まれて。
緊張しているのか、ほんの少し汗ばんだクロードの手。

「セリーヌさん。」

本当に、それは静かに、強請るようにいわれたわたくしの名前。
だからつられて顔を上げて――――どきりと心臓が音を立てた。

真剣な、クロードの瞳。
じっと、わたくしの瞳を覗き込むように。

「だから―――。」

息苦しくて、何故だか涙が滲みそうになる。
この真剣なクロードの瞳から、瞳を反らしたくて。
逃げ出したくてたまらない。
それでも真剣なクロードの瞳から、瞳をそらせなくて。

「だから、僕を―――好きになって?」

ああ――――神様。

祈るように瞳をぎゅっと閉じる。
真剣なクロードの瞳。
強請るような、祈るような、切羽詰った声。

心臓が苦しくて煩くて、涙が溢れ出そうで。

「もっと、もっと。クロウザー王子のようにセリーヌさんをエスコートできるようにイイ男になるよ。」

やめて。やめて。もう、何もいわないで。

「ディアスのようにもっと剣の腕も磨いて君を守るから。」

ぽろ、ぽろ。ぽろ、ぽろ。

涙が零れ落ちて。
込み上げてくる熱い塊。
嗚咽が止まらなくて、どうしようもなくて。
目の前が熱くて。

普段わたくしの前では自分のことを俺というくせに。
普段はわたくしに対して敬語のクセに。

こんな時だけ、そんな声で、そんな瞳で、強請るように、祈るように。

「やめて。」
「セリーヌさん!」

ぎゅっと拳を握られる。

「やめて!嫌ですの!クロードのことしか考えられなくなって、他のことが目に入らなくなって、クロードの視線や言葉で、こんな風にドキドキして、苦しくなって、涙もろくなって、そんなの、嫌ですの!」

たまらない。
堪えきれない。
恥ずかしさに、顔が熱くなる。

かーっと、萌えるように熱くて、自然と肩は震えて。

「お願いだから。だから―――これ以上、わたくしの中にはいってこないで。」

最初は、まるで弟ができたみたいだと思った。
20歳か、19歳か。
その壁を気にするような、そんな年頃の男の子で。
強がって、大人の男ぶって、たまに拗ねて、落ち込んで。
そんなところが可愛いとか、そんな風に思ってた。

男としてみたことなんて、一度もなかったのに。

いつからか、自分を見つめる真剣な瞳の奥にある、燃える様な熱い眼差しがあることに気がついた。
気がついてしまってからは、背中に感じるその視線がやけるように熱くなった。

触れる指が、交わす言葉が、ひとつ、ひとつ、気になりだした。

しまいには夢の中にまで出てきて。

わたくしらしくない。

こんな風に振り回されて、こんな風に情けない女になって。
こんなのわたくしが望んでいた、女性像じゃない。

「もっと。もっと好きになってよ。」
「嫌ですわ。」

握り締められた拳が熱い。
クロードの眼差しを感じて、いてもたってもいられなくて。
立ち上がって逃げ出したいけれど、身体が動かなくて。

「僕のことしか、考えられないくらいに。」

ぽろ、ぽろ。ぽろ、ぽろ。

溢れ出す涙が、クロードの指で拭われる。
それに驚いて顔を上げれば、蕩けそうなクロードの顔があって。

ああ――――神様。

もう逃れられない、引き返せないところまで来ているのだと。

今更気がついて。

「そんなの―――とっくにそうですわ。」

かみ締めた唇に、優しい口付けが降ってきた





あとがき

ノーコメントにしたいくらいのバカップルですみません
ってかクロード君がいろんな意味ですごいです

私は言われたら嫌です(笑)

何様だ貴様とか思う…。

2004/12/03 まこりん




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