■■■ promise
「今日は収穫があってよかったね。」
金髪の青年がにこやかに笑う。
ベッドに腰掛けながら少し埃まみれの古文書を、ぱらぱらと捲っている女性の手元を覗き込んだ。
見たこともない字が羅列していて、よくわからなくってさっさとそれから目を離す。
「えぇ・・・・。あった・・・・は、あったのですけれど・・・・・。読めませんわね。」
「マーズに戻る?」
「・・・・それも・・・・考えたのですけれど・・・・。」
青年の案に少しだけドキリとして。
銀紫の髪を持つ女性―――――セリーヌ・ジュレスは言葉をつまらせた。
ほんの数ヶ月前からずっと一緒にすごしている青年――――クロード・C・ケニーは、セリーヌの・・・・・恋人だ。
でも自分の親に恋人として紹介したことはなかった。
マーズにはセリーヌの実家がある。
実家の両親はいつもセリーヌにお見合い話を持ちかけてきていた。
お見合い話は決して好ましくはなかったが、両親が一人娘の嫁入り先を心配する気持ちも痛いほどにわかり、
セリーヌはあえて迷惑だとは言っていなかった。
この状態でクロードを連れ帰ったらなんと誤解されることか・・・・・。
セリーヌ自身は、クロードと・・・・この先ずっと一緒にいたいと思っていた。
しかし、クロードは・・・・。
クロードがその辺りについてどう思っているのかは、口にしてくれたコトがないからわからなかった。
それが・・・・マーズに帰るコトに戸惑いを感じさせる。
もし戻って、セリーヌの両親の言葉にきっぱりと否定されたら?
困った顔をされたら?
それが恐くて・・・・セリーヌはクロードと恋人になってから一度もマーズには立ち寄らなかったのだ。
別に今すぐに結婚がしたいわけではなかった。
ただ、拒否されたら。
ただ・・・・・困られて、今のこの関係さえもぎこちなくなったら・・・・・。
それが恐かった。
「セリーヌさん?」
クロードの声にはっと我に返る。
「えっ・・・・?」
「どうしたの?眉間に皺がよってる。」
「な、なんでもありませんわ。」
つんっと、眉間をクロードに突つかれて、セリーヌは益々嫌そうに眉を寄せた。
「で、どうするの?マーズに行く?」
「・・・・・でも・・・・。あっ、そうですわ。ボーマン先生のご友人の言語学者さんにまたお願いするのはどうかしら?」
ぽんっと、セリーヌが手を叩く。
そのセリーヌに、クロードは僅かに頬を紅く染め・・・・・、視線をセリーヌから逸らした。
「でも、ラベさんや、エグラスさんに1回くらいご挨拶しといた方がいいかな〜って、思ってるんだよね。」
「・・・・・な、なに言ってますの!?そんなことしたら、結婚の約束させられ・・・・っ!!」
ばっと、口を掌で覆う。
ついつい口を出てしまったセリフに、冷や汗が出た。
「僕は・・・・・そのつもりだったんだけど・・・・・。セリーヌさんは違うの?」
どきりとして。セリーヌはゆっくりとクロードに目をやる。
真剣な、けれどどこか恥かしげな瞳と目が合って、セリーヌはこくりと唾を飲み込んだ。
ざわざわと背中の毛が逆立つ。
「あ・・・・の・・・・・。」
口から出た声は、自分の気持ちをきちんとカタチに出来ない。
カタチに出来ない以前に、気持ちがよくわからない。
頭の中をくるくると回る、クロードの言葉。
一瞬何を言われたのかわからなくて、でも一瞬で何を言われたのかも、その意味も理解して。
セリーヌは耳まで真っ赤に染まった。
「・・・・・僕は最初からそのつもりで、ここに残ったわけだし。
いい加減な気持ちで生まれ育った場所を離れられるほど、思い入れがないわけじゃない。」
「・・・・・・クロード。」
胸に込み上げてくる、言いようのない感情。
暖かいものが、切ないものが、苦しいものが溢れ出てきて。
セリーヌは締め付ける胸の苦しさに、ぎゅっと目を瞑った。
瞑ったと同時に零れ落ちた雫。
胸に込み上げてくるこの感情はなに?
愛しさとか、嬉しさとか、よくわからない。
わかるのは初めて好きだと囁かれた、あの夜と同じだということ。
初めて唇を重ね、初めて肌を重ね、初めて二人で向かえたあの朝の時と同じだということ。
ぽろぽろと溢れ出る涙。
そっと、暖かな腕に抱き寄せられる。
古文書がどさりとベットの端に落ちた。
「セリーヌさん・・・・・好き・・・・・。」
「・・・・・。」
耳許で囁かれる甘い声。
自分を抱きしめる腕が暖かくて、心地良くて。
ずっと、一生、この腕に抱かれていたい。
そう思ったのは今だけじゃない。
「セリーヌさん・・・・・・。」
「セリーヌって・・・・呼んで?」
「セリーヌ・・・・好きだよ?本当に、どうしようもないくらいに・・・・・。
君がいなかったら、僕は僕でいられないくらい・・・・・。」
涙を唇で拭われる。
クロードの熱っぽい瞳に映るのは、涙で睫毛を濡らすセリーヌの瞳。
セリーヌの涙で潤む瞳に映るのは、苦しそうに細められたクロードの瞳。
「わたくし、料理はレナほど上手くありませんわ。」
「知ってる。」
閉じた瞼にキス。
「わたくし、プリシスみたいにクロードとキカイの話はできませんわ。」
「知ってる。」
頬を伝った涙の跡にキスひとつ。
「わたくし、チサトみたいに働いてもいませんわ。」
「知ってる・・・・・。」
耳朶を軽く甘噛みして・・・・・・・・。
「わたくし・・・・・クロードが好きですわ。」
細い肩を抱きしめると、そっとその柔らかな唇にキスをした。
唇が離れるとにっこりと笑って・・・・・。
「知ってる・・・・・。」
もう一度。
今度は深く唇に口付ける――――――――。
あとがき
クロセり〜〜
最初はクロセり初夜小説の筈だったんですが
気がついたら勝手にクロードくんがプロポーズしてました(笑)
しかもコレ、気がついたら
数年前に出した本の
プロポーズ漫画と少しかぶってるし(苦笑)
いやはや・・・・。
私の中でも1歩1歩、二人は前に進んでいっているようです〜
2002/04/12 まこりん
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