■■■ 雪感温度


しんしんと…雪の降る街ギヴァウェイ。
降り止むことを知らない雪が、街の街灯に照らされて、光輝きながら降り積もっていく。
その幻想的な街の中で、クロード達一行は一日過ごすことにしていた。

「寒いですわね…。」
はぁっと…息を吐くと、白い吐息が辺りに溶け込む。

雪。

それはセリーヌにとって初めて触れるものだった。
セリーヌの故郷マーズは、どちらかと言えば温暖な気候だったので、雪が降ることはまず無かった。
だから『雪』というものは文献の中でだけ知るものだったのだ。
寒い冷たいとは知っていたけれど、ここまでとは知らなかった。
知っていただけで、感じたことのなかったもの。
セリーヌは丸出しの腕を摩ると、震える脚を宿屋に戻ろうと一歩踏み出した…。

と、その時。

白く淡い雪のちらつく視界に映る金色の髪。
その持ち主が、白い息を吐きながらセリーヌに駆け寄ってくる。
「セリーヌさん!」
「クロード…。」
カチカチと音を立てる歯が、セリーヌの震えを現していた。
その寒そうに肩を震わすセリーヌに、クロードは慌てて自分のジャケットを脱ぐ。
そしてそっと、セリーヌの肩にそれを掛けた。

ふわりと漂う、クロードの温もり。
そしてクロードの香がセリーヌの鼻をついた。
「そんな格好じゃ風邪をひきますよ?」
「ありがとう…でも…それじゃクロードが…。」
「っくしゅんっ!」
セリーヌの言葉を、クロードのくしゃみが遮る。
それにふふっとセリーヌは苦笑して。
「ほら…ね?あなたが風邪をひきますわよ?」
ジャケットを脱いで現れた、クロードの生腕にそっと手を当てる。
鳥肌の立った腕は温もりを失って、すでに外気の冷気によって冷たく冷えていた。
「いいんです。」
ジャケットを返そうとしたセリーヌの手を、クロードが手で制す。
「でも…。」
「男として!これは譲れません。」
ふんっと胸を張ってクロードが笑う。
その姿にセリーヌが一瞬呆気にとられて目を丸くした。
「っくしゅん!」
そして次の瞬間、大きくくしゃみをしたクロードに、堪えきれなくて笑い出した。
「クロードったら…!もうっ…!」
肝心なトコロで格好つかないんですから…。
言いかけた言葉は呑み込んで。
セリーヌはクロードの冷えた腕に、自分の腕を絡めた。
暖かな腕に、クロードの腕の冷たさが広がっていく。
でもそれは、クロードの冷たい腕に、セリーヌの腕の温もりが伝わっていると言うこと。
自分の熱が彼に伝わっていると言うこと。
つまり彼を…暖めていると言うこと。
セリーヌは絡めた腕にぎゅっと力を込めて微笑んだ。

「帰りましょう?」
「はい…っくしゅん!」
ずっと鼻を啜りながら、クロードがセリーヌをちらりと盗み見る。
自分の肩に乗せられた、セリーヌの小さな頭。
煌く柔らかな銀紫の髪が、自分の剥き出しの肩に絡み付いて暖かった。
「もう風邪ひいたんじゃないんですの?」
「ん〜〜〜かも。」
「もうっ…!」
怒ったように、呆れたように頬を膨らませるセリーヌの耳元に、そっとクロードが唇を寄せる。

ずっと鼻を啜って…一言。

「風邪ひいたら看病してくださいね?」
頬を紅く染めながら………クロードはへらっと笑った。
それにセリーヌは微笑して、抱き締める腕に力を込める。
「そうそう、コレを渡したくて声かけたんです。」
「なんですの?」
クロードが手に持っていた布袋から何かを取り出す。
四角い…ガラスで出来た箱。
その箱の中には、煌く綺麗な女神の氷細工が入っていた。
「はい。」
「冷たっ…!」
それを受けとったセリーヌが、その冷たさに身体を震わせる。
「コレは…?」
「今日、誕生日なんでしょ?折角だから、この街でしかあげられないものを…。」
「…キレイ…。」

その箱を空に掲げると、中に入っている氷細工の像が煌いた。
さっき街をふらついていた時に見かけた細工物だった。
綺麗な氷細工のこの品物は、この街にしかないものらしい。
その宣伝文句がお店の壁に貼り付いていたのを思い出す。
値段的に手が出なくて、たかだか1日やそこらで溶けてしまう氷細工がなぜこんなに値がはるのだろう…?と、セリーヌはたいして目にも止めなかったのだ。

空に掲げて、僅かな日の光に当てるとセリーヌは微笑んだ。
氷細工の女神の中に揺らめくアメジストの輝き。
「誕生日…覚えていてくださったの…?」
「忘れるわけないじゃん?」
「ありがとう…。」
中で輝くアメジストの輝きが、なんなのか…セリーヌは目を細めてそれをじっと見る。
「あっ…。」
そしてそれがなんなのかわかって、セリーヌは頬をほんのりと紅く染めた。
これならあれだけの値がしたのも当たり前なのかもしれない。
クロードを見るとクロードも頬がほんのりと紅い。
もちろん寒さからではなく、プレゼントしたものに照れて…だ。

「温かいトコロに置いておけば、1日くらいで溶けて中身が取り出せるらしいんだ。」
「そうね…ちょっと、勿体無いですけれど…。」
綺麗な女神の像に、セリーヌが目を細める。
そのセリーヌの耳にそっと…クロードは唇を近付けた。
「そうしたら真っ先に…はめてあげたいから…。」

だから・・・。
溶けるまで…ずっと傍にいてもイイ?

耳元で囁かれた言葉は、愛の誘惑。

「一緒にお風呂入って、一気に溶かしちゃうってのも有りだけどね!」
「ばぁ〜か。」
悪戯を思いついた子供のような瞳をしたクロードの額に、コツンと拳を当ててセリーヌは笑った。
「流しちゃったら困るでしょう?」
「う〜ん…そういう問題かな?」
「そういう問題ですわ。初めてくださる…指輪なんですから。」
冷たそうにその箱をクロードが持っていた布袋にしまいこむ。
セリーヌはクロードの紅く染まった指に、自分の紅くなった指を滑り込ませて…。
冷たく凍えた指に、じんっと…熱が広がる。
「お誕生日おめでとうございます。」
「ありがとう。」
さくさくと二つ並んだ足跡を残して、二人は宿屋に戻った――――。




あとがき

温度シリーズ第2弾v
1弾と違ってやけにラブラブ…?
ってかこれ実はセリ誕祭のクロセリ話だったんですがー
なんだか違う話に…
というよりも意味のない話。
これぞホント
のやおい(苦笑)
で、温度シリーズにいれられそうだったので
まわしちゃいました〜。
本当は温度シリーズ第2弾はお風呂えっちネタだったんですけどね(爆)
これはまたいつか…書きかけでストップしてんだよね(汗)

2002/10/04 まこりん

追加

お誕生日プレゼントはやっぱり
氷細工の中だよね〜とか思っていたら
やっぱりギヴァウェイは外せなくて
結局続きに付け足しました

付け足したほうが良かったか、足さないほうがよかったか。
どっちでしょうね(汗)

2002/10/16 まこりん



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