■■■ 素顔の君


手の甲を口元に当てて小さくあくびを洩らすと、セリーヌはゆっくりと立ちあがり伸びをした。
ぱらぱらと風に舞った魔法書を閉じる。
「コーヒーでもいれようかしら・・・・・・。」
そういえば・・・・と、ポットが空になっていたことを思い出し、そのポットを掴むと、軽くケープを羽織ってそのまま部屋を後にした。















熱いお湯をもらおうと、フロントの前を通過しスタッフルームに向かおうとしたその時、フロントの前にある広間に見なれた顔があるのに気が付いた。
「ディアス。」
小さく名前を口にすると、その名前の持ち主である男が振りかえる。
その男はいつものように眉一つ動かすことはせず、セリーヌを一瞥して一言口にするだけ。
「・・・・セリーヌか。」
「・・・・・なんですの。その、『セリーヌか。』って。」
ディアスの言葉にむっとして口を尖らせるが、そんなセリーヌのことは気にも止めないのか、ディアスはそのまま視線をもとの位置に戻した。
キラリと光る何かが気になって、セリーヌがそっとディアスの手元を覗きこむ。


「剣の手入れですの?」
「・・・・あぁ・・・。」
「なんでこんなところで・・・・あ、クロードたち、もう寝ちゃいましたの?」
「・・・・・・・・。」
返事が無いということは肯定ということ。
いつも無口で無愛想な男でも、それなりに気を使っているらしい。
セリーヌは自然と緩む口元はそのままに、ポットを軽く掲げた。
「コーヒー。飲みます?」
「・・・・・頼む。」
(・・・・・・・まぁ・・・・昔から比べたら喋るようになりましたけど・・・・。)
くすり。と小さく笑ってその場を去ると、そのままポットにお湯を入れてもらうためにスタッフルームへと足を運んだ。















「はい。どうぞ。」
「すまんな。」
湯気の立つカップをテーブルに置くと、
セリーヌもそのままディアスの向かいの席に腰を下ろした。
(『すまん』は、『ありがとう』って、ことみたいですわね・・・・・。)
コーヒーのはいったカップをディアスが口に運ぶのを、じぶんもカップを口に運びながら横目で盗み見る。


整った顔、流れるような髪、切れ長の目元・・・・そして綺麗な緋色の瞳。
じっと見つめると怪訝そうな目でディアスが顔をあげる。
そこで自分がディアスに魅入っていたことにはっと気が付いた。


何だ・・・・?と言いたげな顔に、あわてて誤魔化すように言葉を探すと、目の前の剣に目が止まる。
「あ、あら、それ、名工シュリの剣じゃありませんこと?」
苦し紛れに思い出したセリーヌの言葉に、ディアスの顔つきが変わった。
瞳が驚いたように見開かれた後、そのままゆっくりと微笑みに変わる。
(え・・・・・?)
その微笑みに戸惑ってセリーヌが言葉を失った瞬間、ディアスがその剣を置きゆっくりと口を開いた。
「・・・・よくわかったな・・・・。剣の知識はあるのか?」
「・・・・ま、まぁ、トレジャーハンターとしては、一応価値あるものくらいは一通り・・・。」
目の前で嬉しそうに顔を綻ばすディアスに驚いて、なかなかうまく喋れない。
初めて見たディアスの笑顔。
初めて聞いた、嬉しそうな声のトーン。
初めて交えた優しく、そして穏やかな目つき。
じぶんの胸が高鳴るのに慌てながら、セリーヌは混乱気味な頭をなんとか正常に戻そうと試みた。
「これは・・・・なにを表していますの?」
柄のところにある小さな紋章を指差して、ディアスの目から視線をずらす。


「これはだな・・・・。名工シュリの手によって込められた力の種類を表しているんだが・・・・。
そうだな。お前の得意とする紋章術にも属性というものがあるだろう?
その属性をあらわす紋章であって、この紋章を見れば・・・・・。」
一人でぺらぺらと喋りだしたディアスに驚いて、またまた言葉を失った。
こんなディアスは初めてで・・・・、こんなディアスは意外と可愛く思えて・・・・・。
セリーヌはこらえきれ無いように吹き出した。
その様子にディアスが不服そうに眉を寄せる。
「ご、ごめんなさい。ビックリしちゃって・・・・・。急に喋り出すんですもの。」
セリーヌの言葉にディアスの頬がほんのり紅くなる。
それに気がついてまた、セリーヌは再び吹き出した。


「好きなものの話になると、喋り出しますのね。」
「・・・・・・・・。」


言われて初めて気が付いたのか、更に頬を紅く染めたディアスに再び驚く。
(今日はすごい日ですわね。あのディアスの、こんな面をたくさん見てしまいましたわ。)
「レナとしかまともに喋らないと思っていたから、驚きましたわ。」
「そんなことはない。」
「私も剣についてもっと詳しく知りたかったところですの。今日はもう遅いですし…。
今度、もっと時間のある時にゆっくり教えて下さらないかしら?」


そう言うと立ちあがったセリーヌの腕を、ディアスががしりと掴んだ。
掴まれた手首に感じる熱に、セリーヌがビックリしてディアスの顔を見返すと、ディアスははっとしたような顔をして手の力を抜いた。
そして・・・・なぜだか名残惜しそうなディアスの指の動きに、セリーヌの胸がざわめく。
「もう、寝るのか?」
「え・・・・、えぇ・・・・。明日も早いですし・・・・。あなたもそろそろ寝たほうが・・・・。」
「・・・・・・そうだな。」
まだ微かにディアスのぬくもりの残る手首を軽く押さえてセリーヌは微笑んだ。
内心はかなり驚いていたけれど・・・・・。
くるりと自分に背を向けたディアスに


「それでは、お先に。」


小さくそう言ってその場を去ろうとした瞬間、視界の端に映ったディアスの動きにその足を止める。


「部屋まで送ろうか?」
「!?」




















今日は初めて見たディアスに驚きすぎて、初めて見たディアスが意外過ぎて。
セリーヌはなんだかいつも以上に疲れた身体をベッドに投げだすと、ゆっくりと息を吐いた。


今日だけで結構色々とディアスのことがわかった気がする。

意外と優しいらしいということ。

好きなことにはおしゃべりだということ。

そして意外と・・・・寂しがりやらしい・・・・ということ。






セリーヌは再びため息をつくと、ゆっくりと重くもない瞳を閉じた。





こんなに身体的にも、精神的にも疲れているのに・・・・・・
今夜はどうやら眠れそうに無い・・・・・・。






あとがき

ずっと昔?に出したディアセリ本より
ディアスの素顔が書きたくて・・・・
あ〜文章が拙い

ディアセリ良いですよねv
最近嵌っております

これは私の中でのディアセリ…

2002/03/21 まこりん



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