■■■ 2度目の恋 act6 キズアトが見ている








なんて無力な自分達。
なんて馬鹿で、浅はかで、どうしようもない自分。
私は海に落ちた時、真っ先に何を思った?


吐き気がするくらい、自分が嫌いで・・・・・・憎い。











空を見上げると星空が広がっていた。
綺麗な星の瞬きも、今は儚い命の灯火の様に見えて。


危険なコトだとわかっていた。
でもそれはわかっていた気になっていただけで。
クロードも、みんなも巻き込んで、自分はこんな危険な目に皆をあわせただけで。
そして、ディアスも巻き込んで。


クロードが戻ってきたとき、とても嬉しかった。
ほっと、安心したけれど。
でもそれはもう不安に形をかえている。


「レナ・・・・・・。」
耳に響く優しく低い声。
不安とか、恐怖とか・・・・・自己嫌悪とか。
色々な思いが混ざり合った心に暖かく響く声だった。


「ねぇ・・・・・。ディアス。」
隣に腰掛けたディアスの方を見ずに、目の前に広がる波を見詰めた。
ディアスの視線を感じたけれど、決して彼の方は見なかった。



泣きそうだから。



「海に落ちて・・・・・・、薄れてゆく意識の中、私が何を考えたか・・・・・わかる?」
「・・・・・・死にたくない。か?」
ふるふると頭を振ると、今度はじっとディアスの瞳を見詰めた。
ディアスが驚いた顔をしている。
変ね。なんでそんな顔をするの?


「・・・・・・・レナ。」
そっと、ディアスの指が私の顔に触れる。
目尻を優しく撫でられた。
そこに感じる風が冷たい。
そこでやっと涙を拭われたのだと気が付いた。
だからついつい苦笑する。
ディアスの心配そうな、戸惑って困っているようなその表情が、胸を締め付ける。


「まだ・・・・・・あなたに・・・・・。伝えていないのにって・・・・思ったわ。」
「レナ・・・・・。」
「前よりも、もっと、ずっと・・・・・・。
好きなんて言葉じゃ足りないくらいに、あなたが好きだと・・・・・・・。」


「・・・・・・・・。」
「信じらんない!どうかしてるわ!
クロードをあんな目に合わせて、みんなをこんな危険な目に合わせて・・・・・・!!
なのに・・・・・・私はっ・・・・・・。」
「レナっ・・・・・・。」
ふわりと、潮の香りが鼻を擽った。
気が付いたときには私はディアスの腕の中にいた。


「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
冷たかった身体が、だんだんと暖かくなっていく。
その温もりに、胸が切なくなった。「レナ・・・・・・、そんなに自分を責めるな。」
「・・・・・・・・。」
「お前のせいじゃない。」
身体が温まる。
不安とかわけのわからない感情でいっぱいだった心がゆっくりと、
確かに溶けていく・・・・・・・・・。


「それに・・・・・・・。海に落ちた時・・・・・・俺も思ったことがある。」
「何を?」
ディアスの胸元から顔を上げると、じっとディアスの顔を覗きこむ。
「・・・・・・・まだお前をこの腕に・・・・・。」
ふいっと、目を逸らされる。
それに反射的にディアスの髪を掴んでぐいっと引っ張った。
そして再びディアスの目を自分の目に向けさせる。


その言葉の先を・・・・・・。
言ってほしい。
たぶんそれは、自分がずっと欲しかった言葉。
ずっと欲しかった、言って欲しくて眠れない夜があった言葉。


「抱いていないと・・・・・・・。」
ぐっと、唇に唇を押し当てられる。
驚いて反射的に抵抗しようとした手首をさっと掴まれる。
嬉しくて、胸がいっぱいで・・・・涙が滲む。
指の間からディアスの髪がさらさらと零れていく感触がした。
唇を割って入ってくる舌に、眩暈がする。
ふるふると身体を震わすと、レナは切なそうに眉を寄せた。


「きっと皆、あの瞬間は自分の大切な人のコトを思ったはずだ・・・・・・。」
耳に、脳に・・・・・・。
じわじわと広がる何か。
ディアスの言葉に、自然と涙が滲み出た。


許される?あの時、あんなコトを考えていた自分は。

そっと瞳を閉じると、頬を涙が伝った。
やさしく唇を塞がれる。
暖かくて、柔らかな優しい唇がとても愛しくて・・・・。


「んっ・・・・!」
僅かに手首を引っ張られた気がして、目を開けるとブルーのリボンが風に舞って飛んでいくのが目に入った。
驚いて伸ばしかけた手を、ぎゅっと掴まれきつく唇を吸われる。
それにやっぱり頭が痺れて、レナは再び身体から力が抜けていくのを感じた。


「俺はここにいる・・・・。もう、必要のないものだろう?」
ゆっくりと身体を横たえられて、耳許で甘く囁かれる。
その声に、手首に感じるディアスの熱に、身体の奥底から痺れを感じて。
頬に当たる髪の毛が擽ったい。
鼻を擽る、ディアスの香り。


「ディアス・・・・・潮の香りがする。」
「お前は潮の味がする。」
ぺろりと首許を舐められて囁かれた言葉に、急に今の状況が恥ずかしくなって、
身体中の体温が上がっていくのが自分でもわかった。


胸を支配するこの感情。
これが愛しさなのか・・・・・。


ディアスは自分の下で耳まで真っ赤に染めて、切なげに目を伏せている少女の額に優しく口付けた。
ぴくりとレナの身体が反応して、それに嬉しそうに瞳を細める。
「ディアス・・・・・・。」
そろそろとディアスの服の端からレナの手が滑り込んできて、指先がぴくりと反応を示した。
指先に感じた感触に、レナが切なそうに瞳を潤める。
そっと、脇腹にあるその大きな痕を撫でると、レナは再び目を閉じた。
 

何も言わなかった。
何も言えなかった。
この人はこの傷を見ては、過去を悔やんでいたのだろうか?
 

背中に手を回すと他にもたくさんの傷痕の感触があった。
脇腹にあるものほどではないけれど、確かに彼が今まで過ごしていた日々を物語っている。
・・・・・・・そう思ったら、なんだかとても愛しくなった。


この傷は、彼のすべてだ。
自分の知らない間の、彼のすべてだ。

お互いの身体を覆う物はもうほとんどなくて。
まっ白な頭の中でお互い、愛しさだけを感じていた。
冷たかった身体が、何時の間にか暖かく、熱くなって、じんわりと汗ばんで・・・・・・・・。
夢中で肌を重ねて。
キスをお互いの身体に散りばめて。


まるでお互いがお互いを抱いている様な・・・・・・そして抱かれている様な、そんな感覚の中で。


愛しさで胸が支配される・・・・・・・・。
やっと手に入れられた、大切な空間・・・・・・・。
遠回りをたくさんしたけれど・・・・・今。確かに・・・・・・。










「好きよ。」


もう何度呟いただろうか。
その度に彼は口許を緩めてキスをくれる。
それは頬にだったり、額にだったり。
決して一番欲しいところにはくれない。


「そうだ!ディアス、あなた・・・・。私の欲しい一言をくれていないわ。」
何度目かの額へのキスをくれたディアスの髪を再び掴むと、くいっと引っ張って瞳を捉える。
こうしてあなたの腕に抱かれて、あなたのマントに二人でくるまって、幸せな時の中で。
瞳で訴えて、甘える。


「・・・・・ただいま。」
「おかえり。」

恥ずかしそうに目を逸らしたディアスに、不意打ちとばかりに自分からキスをした。










あとがき

ここまで読んでくださった方ありがとうございました
いやはや・・・・サイトつくるにあたって
読み直していたんですが・・・・
リクしてくださった方に平謝り(滝汗)な小説ですね・・・・
本当・・・・自分でもびっくりです
なにか・・・・別のものでお詫びした方が良いかもしれない・・・・
本気でそう思いました。

2001/11 まこりん







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