■■■ 欲求不満 「クソ…ヤりてぇ。」 部屋のランプが揺らいで、思いっきり吐き出した煙草の煙も白く揺れる。 寝転がったベットの上で寝返りを打てば、ぎしりとベットの軋む音がした。 その音がまた、もう暫く過ごしていない夜の情事を思い出して身体を疼かせる。 カタンと小さく音がして、同室の男が唇の端で笑った。 「これまた突然だな。」 「こういうのはいつも突然だろうが。」 緩くウエーブがかった金髪を手でかきあげて。 三つ目の男も煙草を咥える。 マッチを擦って煙草に火をつける仕種が、どこか男の色気を感じさせた。 「あ〜〜…クソっ。」 「その辺で女でも買ってこい。」 「うっせぇな。したくてもできねぇんだよ。」 煙草を灰皿に押しつけて、口の中に残った煙を一気に吐いて。 空になった煙草の箱を手でくしゃくしゃに揉み潰す。 「一応…まともな神経はあるわけだ?」 「うっせぇ。俺は奥さん一筋なんだよ。」 新しい煙草の箱をとりだして、封を切って。 火のついていない煙草を1本、取り出そうとした手を止めた。 なんとなく…視線を感じたからだ。 顔を上げれば、金髪の男が自分を楽しそうにみていた。 「なんだよ?」 「ん?別に深い意味はないさ。ただ…そんなに溜まってるんなら、俺でよければ抜いてやろうか?」 「はぁ?」 金髪の男が、すっと…吸っていた煙草を灰皿に押しつける。 その一連の滑らかな動きに目が釘付けだったのと、言われた言葉のあまりにもな意外さに思わず煙草をおとしそうになった。 擦ろうとしていたマッチも落としそうになって、慌てて拾う。 「男相手なら、罪も感じまい?それが一方的な奉仕なら尚更だろう?」 思わず上体を起こすと、ぎしりとベットが軋んだ。 ゆらりゆらりゆれる白い煙。 二人の煙草の煙で部屋はどこか白く霞んでいて。 一瞬夢の世界のような気さえしてきて…慌てて頭を振った。 「ま…待てっ…エルネスト?お前…。」 「いいから黙ってされるままになっていればいい。悪いようにはしないさ。」 「いや…そういう問題じゃ…。」 言いかけた唇を、エルネストの唇が塞ぐ。 口内に滑りこんできた柔らかくざらついた舌。それと共に煙草の香も滑りこんでくる。 ねっとりとしたその口付けは、とろけるように甘く。 ボーマンの混乱した頭を益々痺れさせた。 「んっ…。」 ヤバイ。 と頭の中でシグナルが鳴る。 くちゅりと湿った音がして、溢れでそうになる唾液。 唇の端から零れそうなソレを、エルネストの指が拭った。 その指の動きに、益々身体はカーっと熱くなって。 どくんどくんと身体中の血液が逆流する。 視界の端に灰皿がうつって、さっきまで二人が吸っていた煙草が目に入った。 ばくんばくんと心臓は鳴り響き、頭はクラクラとまわるばかりで。 歯列を舐めるエルネストの舌に翻弄される。 与えられる口付けに意識が持っていかれている間に、エルネストの長い指がボーマンの緩んだネクタイへとかけられる。 ぐいっとひっぱられて、首が解放される感覚。 肌蹴たシャツから、エルネストの指が忍びこんできた。 「んんっ…!!」 口付けをしながら器用なものだな。 と。どこか冷静に思う自分がいて、笑いそうになる。 甦る感覚に、どこか笑いそうだった。 久しく感じていなかったこの感覚。 ぞくぞくする身体。 ぞくりと背中が粟立ち、身体は熱く火照り。 そう言えばアイツも脱がすのが上手かった。 とか。 こんな時に他のやつのことを考えてる自分は、こんな時でも以外と冷静なのかもしれない。 「………そうか。」 「なんだよ?」 突然唇を離して、含み笑いをするエルネストに、ボーマンは眉をよせた。 そんなボーマンにエルネストは唇の端を持ち上げる。 「ん?別に…。」 そしてカリっと…ボーマンの耳朶を甘く噛む。 それにぴくりとボーマンの肩が揺れた。 「ただ、意外と抵抗しないと思ったんだが…。」 「…そんな余裕ないんだから仕方無いだろ。」 「………男と寝た経験があるみたいだな。」 「……数えるくらいにはな。」 「ほぅ…?」 ボーマンの滑らかな胸板を、するりとエルネストの手が滑る。 既に固く尖りかけてるボーマンの胸の突起を摘むと、しっとりとこねまわして。 ボーマンの唇から小さく声が漏れる度に、その指は丹念に動いた。 「若気の至りってやつ…かな。アレは。」 「コレは?」 「……酔った勢い。」 「アルコールなんて一滴も入っていないだろう?」 「うっせぇ。この雰囲気に酔ったんだよ!」 耳まで真っ赤になって声を上げるボーマンにエルネストは小さく声を立てて笑った。 それに更にボーマンの耳が紅く染まる。 「はやく続けろっ!」 「わかった。わかった。」 「んっ…!」 怒りはじめたボーマンの一番敏感な部分に指を滑らせて。 既に固く質感を増したソレに指を絡める。 熱く波打つソレに口付けると、エルネストはソレをねっとりと…舌で舐めた。 ぴちゃぴちゃと音を立てて、舐めながらときたま吸いついて。 指とてのひら全体と舌と口で。 丹念に愛撫すれば、正直なソレは先端からとろみのある液体を漏らしはじめた。 「ぁっ…んっ…。ふぅっ…ン。」 ぎゅっと自分の股間に顔を埋めるエルネストの金髪を掴む。 ソレは今まで受けたどんな快感よりも凄かった。 クソ…慣れやがって。 頭で毒づいて。 意識がもってかれる。 ソコで波打つ血液は、燃えそうなほどに熱い。 「おっ…い…。そろそろ…。」 離れろ。 言葉にならないくらいの喘ぎ。 言葉にすることすら出来ないくらい、快感で身体が震える。 呼吸が乱れて、上手く喋れなかった。 そんなボーマンをチラリと目でみるとエルネストは、更にぴちゃぴちゃと音を激しくたてた。 その意味することがわかって、ボーマンはエルネストの髪を掴む手に力を込める。 「こ…んの…オヤジっ…!知らねぇからな……!!」 じゅぷじゅぷと嫌らしい音が響いて、その度にギシギシとベットが軋んで。 クルクルまわる視界。 荒く乱れる呼吸。 ぽたぽたと滴り落ちる汗。 エルネストの唇の端から滴り落ちる、よくわからない液体。 「ンっ……!!!」 びくんっとボーマンの身体が跳ねる。 跳ねたあと、ただじっと動かないボーマン。 どくんどくんと、熱く波打つソレだけが動いて。 エルネストの喉が。 こくりと動いた。 「あ〜〜も〜〜知らねぇ……このオヤジ…。」 「そうマズイものでもないさ。」 唇の端にある液体を親指で拭って、ぺろりと舐めるその仕種がまたいやらしくて。 それでもってやっぱりオヤジだと。 ボーマンは毒づいた。 「それより『数えるくらい』ってのは本当みたいだな。」 「あん?」 「なんでもないさ。」 訝しげに眉を寄せるボーマンに笑うと、エルネストはボーマンの横に横になった。 解放後の倦怠感から、ボーマンは身体をそのままだらりとベットに預けた。 さっきまで身体中がぴりぴりしてた。 それとはうってかわって力の抜けた全身。 だるくてしょうがない。 「あ。お前は?」 「気にしてくれるのか。」 横を見れば、ふっと笑ったエルネストの顔。 その勝ち誇ったような顔に、むかっとして。 ボーマンはふいっとそっぽを向いた。 「そういうわけじゃないが、俺だけが…ってのは申し訳ないと思ったんだよ。」 「可愛いことを言うな。お前も。」 「気持ち悪いコトを言うな!!」 「はははっ。」 耳まで熱かった。 きっと頬は真っ赤だと思う。 何がなんだかわからないが、成り行きとはいえとんでもないことをしてしまった気がする。 今までは相手がいないからと我慢出来たコトなのに。 「男って生き物は…ホント…どうしようもねぇな…。」 『若気の至り』 あの日々をふっと思い出して………軽く溜息をついた。
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