■■■ 証
「エルのっっっっ!!!ばかぁ〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」
エルネストとオペラ、二人がパーティーに入ってから、2日に1回は聞いているであろうこのセリフ。
「またか。」
調合していた鉢を置いてボーマンが呟く。
その声は呆れたように、それでいてどこか楽しげなものだった。
エルネストが入る前のオペラは、大人で、かっこよくて、博識で、とても頼もしいものだったのだが…。
エルネストが入ってきたとたんに毎日コレの繰り返し。
聞き慣れたメンバーは今日もまたか。
と慌てるコトはしなくなっていた。
「・・・・・今回は何かしら?」
ボーマンの手伝いをしていたレナは、心配そうに声の聞こえてきた方、2階へと視線を向けたる。
「わたくし、なんとなく今回のはわかりますわよ。ホラ、さっき・・・・・。」
「ほっとけば。どうせくだらないコトなんだし。」
爪の手入れをしていた手を一旦止め、セリーヌが言いかけたトコロで、
読みかけの本から目を反らすこと無くレオンが言う。
と、その時・・・・・・・。
ばたばたと激しい音がして、オペラが2階から駆け下りてきた。
眉を寄せて、唇をぎゅっと噛み締めて、長いスカートを掴みながら勢いよく駆け下りる。
その姿を見ていたパーティーに気が付く様子もなく、そのまま激しい音をたてて宿屋の外へと飛び出していってしまった。
「・・・・・・・・・・・。」
レナの持っていたアセラスを受け取り、ボーマンが鉢に入れて磨り潰す。
セリーヌも爪を再び研ぎ始め、レオンはぺらりとページを捲った。
「あの・・・・・・・、でもですね。やっぱり、ちょっと・・・・・・。ケンカはまずいと思うんですけれど・・・・・。」
部屋の隅で小さく聞こえてくる声に、誰一人として振り向くコトはなくて。
ただ一人、レナがちょっと顔を上げて反応を示したが、他の皆はそのまま自分達のやりたいコトを続けていた。
「じゃあ・・・・・・クロード。オペラさんのこと、よろしくね?」
天使のような笑顔でレナに言われてしまい、先程のセリフの主であるクロードは、ただ頷くコトしか出来る筈はなく・・・・・・・。
ゆっくりと重たそうな腰を上げるとそのまま、出口へと足を向けるのだった・・・・。
「騒がせたな。」
しぶしぶとクロードが宿屋を出ていったと同時に、声が掛けられる。
2階からゆっくりと降りてきたエルネストが苦笑しながら、煙草をふかしていた。
「今回は何をやらかしたんだ?」
「特に思い当たることはないんだが。」
ボーマンの問いかけに苦笑すると曖昧に答える。
「俺が思うに・・・・・・・お前、わざとオペラを怒らせているだろ?」
「さあな・・・・・・・・・・。」
顔色一つ変えることなく、口許に笑みを浮かべてソファーに座ったエルネストに、
ボーマンが軽く溜息をついた。
「でも、あんまり怒らすと、嫌われちゃいますよ?」
「・・・・・・・・・それは困るな。」
レナの心配そうなセリフに、そういって微笑んだエルネストに、周りの皆の動きが止まる。
「・・・・・・・だから、そういうことをあいつに言ってやれよ。」
呆れたようにボーマンはそう言うと、そのまま調合する手を動かし始めた。
「オペラさん。」
オペラが出ていってからクロードはずっとその姿を探していたわけだが、やっと酒場でその姿を見つけることが出来た。
大体いるのは酒場だろうと見当が付いていたとはいえ、何箇所かある酒場からその姿を見つけるのには多少なりとも時間がかかった。
声をかけたけれど、聞こえていないのか、聞こえないフリをしているのか。
オペラはクロードの呼びかけに応えなかった。
「オペラさん?」
酒場の隅にある円卓にいるオペラに少しずつ近寄りながら、いくら呼んでも返事をしないオペラに軽く溜息をつく。
仕方なくその前の席に腰を下ろし、クロードはオペラの顔を覗き込んだ。
「!?」
驚いて声がでそうになり、慌ててクロードが声を呑み込む。
オペラはそれに気が付いて、くすりと笑みを漏らした。
「そんなに、酷い顔しているかしら?」
「いや、あの・・・・。怒っているんだと思っていたので・・・・・・。
まさか、泣いているなんて・・・・・・・。あっ・・・・・・。」
しまったとばかりに口を手で覆うが、やっぱり既に遅くて。
別に涙を流していたわけではないが、真っ赤に染まる瞳が、オペラが泣いていたのであろうことを簡単に予想させたのだ。
オペラは困ったように微笑むと、手にしていたグラスを空ける。
「エルネストさんと、何があったんですか?」
「ん〜・・・・・・。別に。・・・・・ね。ただ・・・・・・・。悔しかっただけ。」
空になったグラスをこつんと爪で弾いて、オペラが淋しそうに笑う。
その微笑みに胸が締めつけられて、クロードも淋しそうに苦笑した。
「やっぱり、私じゃダメなのかなって・・・・・・・。」
「・・・・・・オペラさ・・・・・・・。」
「あの人、いつもいつも前を向いていて、周りなんて目に入っていなかったの。
なのに、ここで、皆と会って・・・・・。
なんだか変わったわ。オンナに何かをあげるなんてコト、絶対にしなかったのにね。」
「・・・・・・・。あげるって、何を・・・・・。」
オペラの言葉を不思議に思ったクロードが、聞き返そうと顔をあげたトコロでオペラと目が合った。
お酒が入っているせいか、ほんのりと染まる頬で、濡れた瞳。
艶を帯びた真っ赤なルージュが目に入って、クロードは慌てて目を反らした。
高鳴る胸に、眩暈のする頭。
テーブルに乗せた腕に、オペラの白い指が当てられた。
「ねぇ?クロード。私と・・・・・・・・。」
「えっ・・・・・・・・・。」
濡れた瞳に吸い込まれるような気がした。
どきどきと激しく騒ぐ胸に、クロードの頭の中で黄色い信号がチカチカと鳴り響いていた。
と、その時。
「オペラ。」
低く透き通る声がする。
その声にオペラが振り返り、息を呑んだ。
クロードもその視線の先にいる人物を見て息を呑む。
「何よ。」
オペラが立ち上がり、そのままエルネストを睨みつける。
その様子にはらはらしながらクロードはエルネストの出方を待った。
「帰るぞ。」
エルネストのセリフにオペラの怒りは頂点に達した。
「ばかにしないでよっ!何!?今の!見てたんでしょ?
私がクロードを誘惑しようとしていたトコロ!わかってるわ。あなたはいつもそうなのよ。
でも、少しくらい妬いてくれてもいいんじゃないの!?」
「オペラ。」
力強く呼ばれた声に、嫌々をする様に頭を振る。
堪えきれない涙が溢れ出た。
悔しくて、空しくて、子供みたいな自分に嫌気がさす。
絶対に泣きたくなかったのに。それでも涙は思いとは裏腹に溢れ出てくる。
「あなたがレナにペンダントをあげるのも、セリーヌにピアスをあげるのも、我慢できないのよ!」
涙と一緒に言葉も溢れ出てくる、止められないこの想いは嫉妬。
醜くて、認めたくない、自分の中の嫌な部分。
「だってあなたは私に何かをくれたコト、無いじゃない!!」
オペラのセリフに、涙に、それでもエルネストの顔色は変わらなかった。
咥えていた煙草を近くのテーブルの灰皿に押しつけ、揉み消す。
「もう、嫌。・・・・・・・・・嫉妬で、気が狂いそう・・・・・・。」
オペラの口から零れた小さな、消え入りそうな言葉に、クロードは胸が締めつけられる気がした。
痛い、痛い、言葉。
想い。
「お前にスターネックレスをあげてどうなる?スターピアスをあげてどうなるというんだ?」
低い声。
いつもと違う雰囲気を纏い始めたエルネストに、クロードが驚いたように目を見開いた。
先程までの優しさを含めたような声はどこへいったのだろうか。
「私に使えなくっても、エルから貰えるものはなんだっていいのよ・・・・・・・。」
静寂。
張り詰めた空気が冷たくて痛い。
普段なら賑やかなこの酒場も、今は二人のヤリトリに静まり返っていた。
「オペラ。」
ぴんっ!
と鋭い金属の音がする。
薄暗い酒場のランプに、キラリと光る何かがエルネストの指から弾かれた。
それを不思議そうにオペラがキャッチする。
掌が感じるその形に胸が高鳴った。
おそるおそる、震える手でキャッチしたそれを見ようと、掌を開いていく。
そこにはやはり思ったとおりのものがあった。
「エ・・・・・ル?」
「お前が昔、欲しがっていただろう?」
青い紐の付いた銀色の鍵。
「いいの?」
「テトラジュネスに帰ったら、使うといい。」
テトラジュネスにある、彼の部屋の合鍵だ。
欲しくて、他の誰かとは違うって証が欲しくて、昔ねだった物だった。
あの頃は困ったように笑ってはぐらかされたのに・・・・・・・・。
掌の中の鍵をぎゅっと握り締めると、熱くなった目頭に指を当てた。
先程まで自分の心を支配していた醜い感情はとっくに無くなっている。
本当に、エルネストには敵わなかった。
いつも、いつも、自分の喜ぶコトをしてくれる。
「でも、エルは他人に部屋に入られるの嫌いって・・・・・。」
「素直じゃない女は嫁の貰い手が無くなるぞ。」
エルネストが微笑んでいる。
その笑顔にオペラも微笑んだ。
「エルのところ以外、いかないもの。」
あとがき
はい。エルオペです。結構お気に入りv
コレも某所にてかくやさんにリクをもらったものです
かっこいい恋の駆け引きはたぶんもう
テトラジュネスでやったと思うんですよね〜
好きな人にだから、本当の自分がみせられる
そう思うのですが・・・・
年上の人には甘えて欲しいんだな〜
皆さんのエルオペ像と違うと思います
ごめんなさい〜
でもコレがうちのエルオペです。
そして改定しようとしても
あまりにもな下手っぷりにどこをどうしていいのやら(汗)
全然改定してないです〜
2002/9/03(改定) まこりん
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