■■■ コドモ以上 オトナ未満



「セリーヌっ!!」


ぱたぱた。ずるずる・・・・・・。

最近聞き慣れてきた彼特有の足音と声に、魔法書に目を滑らせていたセリーヌはゆっくりと顔を上げた。
声の方に目をやると、自分の身長よりも一回りも二回りも大きな白衣を引きずって、
猫耳の少年が頬を紅潮させながら走ってきていた。
その姿に軽く溜息を付くと、本をぱたりと閉じる。

座っていた椅子を少しずらして、レオンが自分の前にやって来るのを待つ。

ぱたぱたと音をたてて息を乱しながら、レオンがセリーヌの前にやってきた。

「レーオーン。あなたは何度言ったら、ちゃんとわたくしを呼び捨てにしなく・・・・・。」
「そんなことよりさ。セリーヌはエクスペルに戻ったら、どうするのさ?」
「オペラのコトはちゃんと『オペラお姉ちゃん』って、呼んでいるじゃありませんの。」
「いいから僕の質問に応えてよ!」

ばんばんとテーブルを叩いてくるレオンに呆れながら溜息を付くと、
もう冷えてしまっている紅茶を一口、口に含んだ。
ちらりと横目でレオンを盗み見ると、猫耳をぴっとたてながら自分の応えを待っている。

「もちろん、トレジャーハントを続けますわ。」

ピクピクっと、レオンの耳が動いた。それが可愛くって思わず口元を緩める。
紅茶の入ったカップをテーブルにもどすと、再び読んでいた本を開いた。

「ラクールにさ、来なよ!」

テーブルに上半身を預けるように乗っかりながら、レオンが瞳を輝かせてセリーヌの顔を覗き込んでくる。
それに怪訝そうにセリーヌは眉を寄せた。

「どうしてですの?」

セリーヌの問い掛けに、レオンはセリーヌの手を両手で掴んでいつものように笑う。

「セリーヌの大好きな宝石も、服もたくさんあるよ!
それに僕の研究を手伝ってれば、お城のパーティーにだって参加出来る。
この僕がエスコートしたげるよ。だからさ・・・・。」

「レオン。」

じっと、レオンの瞳を見詰めながらセリーヌがレオンの名を呼ぶ。
それに少し焦ったようにレオンが言葉を探し始めた。

「いや、あの・・・・・。ホントはさ、僕は闇系の紋章術しか使えないから、
紋章術の研究に・・・・セリーヌがいれば助かるしっ・・・・・。それに・・・・・・。」
「レオン。」

低く、しっかりとレオンの名を呟いて、セリーヌはレオンに掴まれた手を上げた。
本を読むのにジャマになった髪をかきあげて耳に掛ける。
白く細い指のその一連の動きに、レオンは目が奪われた。
白い指の先にあるレッドワインのマニキュア。
銀色の髪を掬うと、とても絵になった。

なんて、美しい動きをするのだろう。

オンナのヒトの、ひとつひとつの動作が、
こんなに綺麗だと思ったのは、セリーヌが初めてだった。

「いいから、ラクールに・・・・・・・・・来てよ・・・・・・・。」

急に照れくさくなってばっと視線を外すと、レオンはふてくされたように言った。
ぎゅっと白衣を握り締める手に力を込めて、床を睨みつける。
そのレオンの姿にセリーヌは何度目かの溜息をつくと、レオンに向き直った。
セリーヌは椅子に腰掛けていて、レオンは立っているので丁度目の高さがレオンと同じになる。

「レオン・・・・・。」

レオンは床を睨みつけているけれど、セリーヌはじっとレオンの目を見詰めた。

「わたくしを『セリーヌ』って呼ぶ理由も、『ラクールに来て欲しい』理由も、
ちゃんと言えたら・・・・・・。わたくし、ラクールに行ってさしあげますわ。」

「・・・・・・・。」

セリーヌの言葉に、レオンの白衣を握り締める手にますます力が込められる。
ふるふると僅かに震え始めたその手に、セリーヌは口許を緩めた。

「あ、だ・・・・・だから・・・・・・。」

床を睨みつけて、瞳に涙を浮かべ始めたレオンに苦笑する。
やっぱり少し苛めすぎたかしらと、セリーヌが思った時だった。

「セ、セリーヌって、呼びたいんだよ。」
「・・・・・・・理由に、なっていませんわ。」

震えるレオンの声に、思わずもうちょっと苛めたくなってしまった。
レオンが自分を呼び捨てにする理由も、
ラクールに誘う理由も、とっくにわかっている。
でも、やっぱり口で言ってもらわないと。

「だ・・・・、だ・・・・、だって、僕・・・・・。セリーヌと・・・・・。」
「・・・・・・・。」


「離れたくないよ・・・・・・。」


震えながらレオンの口から紡がれた言葉に、セリーヌは息を呑んだ。

(アラ・・・・・。)

「もう会えないなんて・・・・・。イヤだよ・・・・・。」

(アラアラアラ・・・・・・。)

真っ赤になって、瞳を潤ませ床を睨みつけるレオン。
震える手が、ぎゅっと白衣を握り締めている。

(ちょーっと・・・・・。かなり・・・・・。今のは・・・・クラっときましたわ・・・・・。)

がらにもなく頬を染めてしまった自分が恥ずかしくて、セリーヌは額に手を当てた。
いつも素直じゃないレオンだからこそ、この言葉が出てきたのかもしれないが。
飾らない言葉に、セリーヌは確かに胸が揺らいだ。
これは告白されるよりも・・・・胸にくるかもしれない。

「レオン。」

そっと、その小さな肩に手を当てる。
先ほどの言葉が恥ずかしいのか、レオンは頬を染めて床を睨みつけたままだった。
僅かに肩を掴む手に力を込めて、レオンを引き寄せる。
突然セリーヌの顔が自分に近付いてきたその気配に、レオンが驚いて目を見開いた。

「!?」

驚きすぎて、声がでなかった。
あまりにも突然のコトで、我を失って身体を硬直させる。

「ふふふ。」

レオンの額に付いた、紅いルージュの跡をこつんと指で突つくと、セリーヌは微笑んだ。
それにはっと我に返ったレオンが、自分の額にばっと両手を当てる。
そのあと急激に顔が真っ赤に染まっていく姿が、セリーヌにはおかしくてたまらなかった。

「オンナを口説く時は、ちゃんと目を捕らえてするものですわよ?」
「セセセセ、セリーヌっ!?」

「わたくしが椅子に座っていなくても、同じ目の高さになるくらいあなたが大きくなって・・・・・。
今度はちゃんと目を見てそれが言えるくらいにイイオトコになったら。
また、いらっしゃいな。」

楽しそうに微笑みながらセリーヌが言う。

「そうしたら、ラクールに行きますわ。コレはその約束のキス。」

ふふっと、セリーヌが微笑んだ。

魅力的な、魅惑的な微笑み。
引きつけられて、目が離せない。
なんて綺麗なヒトなんだろう。
こんなにも、自分の心を引きつけて、離さない。

レオンはドキドキと高鳴る胸元をぎゅっと握り締めると、コクリと唾を飲み込んだ。

カナワナイヒト。

いくらかっこつけても、いくら強がってみせても、このヒトには何でもお見通しで。
いつもいつもコドモ扱いで・・・・・。

でも。それじゃやっぱり・・・・悔しいじゃない?

「セリーヌ!」

突然大声で呼ばれて、セリーヌが笑うのを止めた瞬間。
今度はセリーヌが瞳を見開いた。

ガチっ・・・・・。

衝撃と、耳に届いた音。
そして目の前にあるレオンの顔。

どんっと、勢いよく肩を押された。

「知らないの?キスってのは、唇にするんだよ!」

へへんっと、悪戯っ子のように、レオンがにやりと笑った。
真っ赤なルージュの付いた唇で嬉しそうに笑っている。
恥ずかしそうに、それでも彼特有の挑発的な瞳でびしっと、セリーヌを指差した。

「3年・・・・。ううん、1年後をみてろよっ!!」

ぱたぱた・・・・ずるずる。

彼独特の歩く音。
恥ずかしいのか、逃げるように走り去ったレオンを、セリーヌはぼ〜っと見詰めていた。

がたがた、とすん。

「び・・・・・、びっくりしましたわ・・・・。」

椅子から滑り込むように床に落ちると、セリーヌは自分の唇にそっと指を当てた。
微かに残る柔らかな感触。
そして歯と歯があたった衝撃が、しっかりと残っていた。

「・・・・・まさか、このわたくしが・・・・・コドモに唇を奪われるなんて。」

コドモ・・・・・?

唇が重なっていた時は、そんなことすっかり忘れていた。
自然と込み上げてくる笑いに、堪えきれ無いようにセリーヌは口許を緩めた。
何がこんなにおかしいのかわからないけれど、楽しくて、おかしくて、仕方が無い。

「そうですわね。コドモ扱いして、ごめんなさいね?レオン・・・・。」

もうすでに居ない、
レオンの出て行った扉を見ながらセリーヌは立ち上がった。

「1年後は無理でしょうけれど、3年後なら・・・・・もっと上手なキスが出来るかもしれませんわね・・・・・。
ふふ・・・・・。」

再び椅子に腰掛けると、読みかけの本をぱらぱらと捲る。
いつもと同じ午後の時間なのに。今日はなんだか気分が良い。
セリーヌは再び唇に手を当てると、嬉しそうに微笑んだ。









あとがき

レオセリでした〜v
コレは某所のキリ番にて飛鳥拓哉さんからリクされたもの
書いていてとっても楽しかったですv
レオンに興味の無かった私ですが
これのおかげでかなり好きになりました〜v

そして飛鳥さんから素敵イラまでもらっちゃいました!
コチラにありますv
うふふv
飛鳥さんありがとうございました〜v

2001/11/23 まこりん




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